第20話 起神聖零と代償


「あははははははははははははっ!!!!!!」

『グギャア……ッ⁉』

『グギィ……!』


 神域にて戦闘が始まってから数分後。依然として、白皇が優勢というなか、聖司は顎に手を当てながら思案する。


(このまま行けば、間違いなく勝つのは白皇だろう……だが、この胸を襲う違和感は何だ……?)


 誰が見ても白皇の圧勝のはずにもかかわらず、聖司にはまるでこの後、何か白皇に何か良くないことが起こるという予感がしていた。


 そして、その予感はすぐに当たった。


『————アァ!』

「おっと!」

『ッ⁉』

「やはりか……」


 白皇の攻撃に【神罪ノ影】が対応し始めたのだ。完璧ではないとはいえ、数回に一回は攻撃を防ぎだし、それを見た隊員達は驚き、白皇は軽く目を細める。


「ど、どういうことだ⁉」

「白皇総隊長の攻撃が防いだ⁉」

「な、何でだ⁉ さっきまでは防ぐことなんて出来なかったはずなのに⁉」


 隊員達が狼狽え始めるなか、彼方が横から聖司に問いかける。


「どういうことですか? さっきまでは白皇総隊長が一方的に攻撃していて、あの【影】は耐えることしか出来なかったはずです」

「それが理由だろう」

「?」


 俺の返した言葉に首を傾げる彼方。


白皇響最凶の攻撃をと言う時点で、あの【影】は異常だったのだよ」

「な、なぜですか?」

「『白鐘ノ女王ヘラ』で強化された白皇の攻撃は100%の内、120%で放たれているため、普通なら一瞬で【影】を殲滅することが出来る―――だが」


 そこまで言うと、聖司は会話を一度切り、前方で戦う白皇へ視線を集中させる。


『アァアアアア————!!!!!!』

「…………ッ!」


 【影】の猛攻に少しずつではあるが白皇が押され、身体に少なくない数の傷が出来ていく。


相手【影】は常に100%の力を放っている。一時的な120%と、永続的な100%。時間が経てば経つほど、相手の方が有利になるのだ」

「こ、このままじゃ……!」

「あぁ、白皇の負けだろうな」


 聖司の言葉を肯定するかのように、さらに攻撃を仕掛ける【影】


『ァア——————!!!!!!』

「クッ……⁉」


 攻撃をもろに食らった白皇が呻き声を上げながら吹き飛ぶも、一瞬で態勢を整え【影】からの追撃は防いでいく。


「総員、白皇の援護に入れ! そして、速やかにあの【影】を―――」

「か、神木総隊長、大変です! ち、地上部隊が⁉」


 これ以上、単独での戦闘は危険と判断した聖司が隊員達に指示を出そうとした時だった。地上部隊に連絡をしていた隊員が血相を変えて、聖司に駆け寄ってきた。


「どうした! 地上部隊に何かあったのか!」

「…………した!」

「すまない! 戦闘音で聞こえずらいから、もう少し大声で頼む!」

「地上部隊が―――全滅しました!」

「…………………な、ん、だと」


 隊員の報告に聖司だけでなく、彼方達も思わず身体を硬直させてしまう。【影】はその隙を逃さず、巨大な斧で聖司達をまとめて吹き飛ばす。


「がはっ……⁉」

「し、まった……」


 一瞬の攻撃にほとんどの隊員が意識を刈り取られる中、何とか防御を間に合わせた聖司はフラフラになりながら隊員に問いかける。


「地上部隊が、全滅したというのは……本当か!」

「ほ、んと、う、で、ござい、ます……!」

「ッ………!」


 隊員から再び告げられた報告内容に、思わず唇を噛む聖司。



 聖司は迫りくる凶刃を前に心の内で小さく呟く。



(あとは頼んだぞ、司……)




 ―――そして、その数分後。聖司達、神域の部隊も同じように【神罪ノ影】に全滅させられるのだった。




―――――――――



「マジかよ……」

「むふふっ、どうです! 凄いでしょ、私の奴隷ペットは!」

「あぁ、凄いな……本当に……」


 俺は水晶を通して送られる地上と神域の映像に軽い戦慄を覚えていた。


 地上に残っていた総隊長は皆、死んではいないが今すぐに命が火が消えてもおかしくないほどに重傷だった。


 神域の方はまだマシで、全員が意識を失っているだけで済んでいたが、それでも劣勢な事には変わりなかった。


「まぁ、今回の場合は奴隷ペットの強さだけが勝因ではありませんけどね。『真銘解放』にあんな代償があるなんてビックリでしたよ」


 畳の上に寝転がりながら呟く『女神』に俺は苦笑する。


「結局は模造品、だからな。あれだけの代償があるのも仕方ないだろ」

「それはそうですが……まさか、寿

「神罰、ってやつさ。愚かにも人でありながら、人外の領域へ手を伸ばした人間には制裁をするっていう決まりでもあるんだろう」

「私が言うのもあれですけど、神って本当に狂ってますよね~」

「いや、一番狂っているのはお前だろ?」


 ツッコミを入れる俺に『女神』は「確かに♪」と笑いながら、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、何もない空間から鞘に紺のリボンが巻かれた一振りの刀を取り出すと、その切っ先を俺の方へと向けてくる。



「さぁ、前哨戦は終わりました。ここからは———私達、二人だけの戦いです♪」

「……そうだな、るか」

「はい! 気が済むまで永遠にりましょう♪」



 人類側が圧倒的な敗北にある中で、俺は数多の『英雄神話』を顕現させながら、『女神』との戦いに臨むのだった。



~~~~~~~~~


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