第18話 神域
「よっこらせ、っと!」
傷を癒し、体力も十分に回復させた俺はピョンッと立ち上がる。
「彼方、拘束は終わったか?」
「あぁ、ばっちりだ」
「クッ……!」
彼方達に手足を縛られた礼二達、計五十三名の反逆者が苦悶の声を上げる。
「んじゃ、話を聞かせてもらおうか」
「お前に話すことなど……ぐっ⁉」
「言葉は慎重に選べよ、礼二。お前の立場は『裏切り者』だぞ? 言葉の一つ一つが今後に影響を与えることを自覚しろ」
「……チッ」
不満を隠そうともしない態度に俺はため息をつきながら、必要な情報を問いかけていく。
「まず、お前達は開戦前に『女神』と接触していたのか?」
「……あぁ」
「いつ接触した?」
「……お前との模擬戦があった日の夜、隊舎で休んでいた時だ」
「なるほど。次にお前達の『偽神兵装』が『神影鎧装』に変わっていたのは『女神』の協力があったからか?」
「……そうだ」
「よし、最後の質問だ―――なぜ、お前達は俺が『裏切り者』だと信じた?」
「……」
俺の問いかけに対し、沈黙を返す礼二。他の面々も似たような表情を浮かべ、こちらを静かに見つめる。
「信じたのではなく、信じたかったが正解だろうな」
『ッ⁉』
「どういうことだ、親父?」
突然、横から投げかけられた言葉に礼二達が目を見開き、俺は声の主である聖司の方へ視線を移しながら問いかける。
「礼二達には防衛隊の精鋭だという誇りがあった。にもかかわらず、お前と言う一般隊員に負けてしまった。
その敗北を受け入れることが出来なかった礼二達はこう信じたかったのだろう―――自分達が負けたのは司が卑怯な手を使ったから、だと」
「……なるほど。それで俺が『虹』の『核』を奪って強くなったなら、自分達が負けても仕方ない。正々堂々戦えば、勝っていたのは俺ではなく自分達だと言い聞かせていたってことか」
「……」
俺と聖司の言葉を聞き、少しだけ顔を下げる礼二達。
「……で、どうする? 『女神』のいるところまで連れていくのか?」
「いや、礼二達には地上に戻ってもらい、戦いが終わるまで静観しておいてもらう」
そう言うと、聖司は二番隊から何人かの隊員を呼び出し、礼二達を地上に連れていくよう指示を出す。
俺は彼らに何かあった時の為に【黄金の羅針盤】を手渡し、この場から離れていくのを確認すると、自分用に作っておいた【黄金の羅針盤】で『女神』のいる方向を確認する。
「ふぅ……よしっ、行くか!」
一度、深く呼吸をして心を落ち着かせた後、俺は聖司達と共に『女神』のいる場所目掛け、再び歩き出すのだった。
―――――――――
そして、遂に『その時』は訪れた。
「……ここだ」
【黄金の羅針盤】から光が消えたのを確認した俺は、目的地である『女神』のいる領域に到着したことを聖司達に伝える。
「最初の領域と似て、白い空間だな」
「ここに……『女神』が……」
全員で辺りを見渡していると―――
カツンッ
―――どこからともなく、足音が聞こえてきた。
「……なぁ、聞こえたか?」
「……あぁ」
「足音、だよな?」
「だろうな」
「……おかしくないか?」
「……おかしいな」
突如として聞こえてきた足音に俺と聖司は全方向を注視する。同じように彼方達も警戒し、戦闘態勢を取る。
この『神域』に突入してから、足音が響く、ということは一度もなかった。
厳密に言うと、コツンッと軽い音なら聞こえることはあったが、先ほどのように高い音が鳴ることがなかった。
つまり―――この領域には
『…………』
全員がそのことを理解し、一瞬たりとも警戒態勢を解かないでいる時だった。
「ふふっ、そんなに警戒しなくてもいいのに」
『――――――ッ!』
俺達の前に一人の『女』が現れた。
白い肌に、白い瞳。腰まで伸びた白い髪。そして、纏う服も白いワンピース。目の前の『女』を一言で表すなら、この空間と同じように”白”。
唯一、頭に被った麦わら帽子が小麦色だったが、それ以外はとにかく白かった。
整った鼻梁は男女問わず、見る者全てを虜にし、穏やかな声音は聞く者全てから力を抜けさせているのではないか、と勘違いするほどに透き通っていた。
美女の中でも一際、輝くであろう絶世の美女。
きっと、地上にいたら、アイドルだろうがモデルだろうが、どんな仕事でも格別の人気を誇っているであろう目の前の『女』に対し、俺は———
「よう、やっと会えた、なっ!」
―――ためらうことなく『
「あらあら、初対面の女性にこんな物騒な物を向けるなんて」
「ッ⁉」
しかし、目の前の『女』は涼しげな顔で剣を受け止め、
「そんな人には、お仕置きです♪ えいっ!」
ドゴォオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!!
「ガハッ⁉」
その細腕からは信じられないほどの怪力で、俺を剣ごと投げ飛ばした。何もないはずの空間にて壁のような物にぶつかった俺は全身を襲う衝撃に思わず顔を歪める。
「司⁉」
「くっ……お前達、あの女を囲え!」
彼方が驚きながらこちらに駆け寄り、聖司は隊員達に指示を出す。
「きゃ、こんなに熱烈な視線を向けてもらえるなんて♪」
しかし、『女』は全く危機感を見せることなく、暢気に鼻歌を歌い始める。
「油断するな! 間違いないぞ、この女が『女神』だ!」
「もうっ、そんな怒った顔をしないで下さい。せっかくいらしたのですから、お茶でもどうですか♪」
「……否定しないのだな、『女神』だという事を」
「? 本当の事を否定する意味なんてありますか?」
不思議そうに首を傾げる『女神』は少しだけ考える素振りをすると、何か閃いたのか「あっ」と声を漏らす。
「もしかして、『虹の巫女』や
「……貴様なら十分、あり得る話だろう」
「ふふっ、私の事をそれなりに理解してくれているのですね」
聖司の言葉に『女神』は怪しげに笑みを浮かべる。
「でも―――それなり、でしょう?」
そう告げた次の瞬間、『女神』の纏う空気が変わった。
「【全ては悲劇から始まった】」
『ッ⁉』
その唄が聞こえた瞬間、全員が言葉に出来ないほどの脅威を感じ取った。『女神』が歌い始めた。それもただの歌ではなく”唄”を。
つまり、自分達が扱う『偽神兵装』と同じように、『女神』も何かしらの力を発動しようとしている。
「【残滓を想像せし、父なる神よ】」
「【残滓を型取りし、母なる神よ】」
「【残滓を弄びし、全ての神よ】」
「総員、アレを止めろ!!!!!!」
『ッ! オォオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
聖司の切羽詰まった声に隊員達は咆哮を返しながら、己の『
しかし、全方位に展開された半透明の壁によって全ての攻撃が防がれ、『女神』は
唄を続ける。
「【世界は汝らを憎み、喰らわんとす】」
「【世界は汝らに慈悲を与えず、ただ喰らうのみ】」
「【故に、諦めよ 汝らに希望はなく、絶望のみだと】」
「クソがっ、何とかして唄を止めさせないと!」
「この壁が邪魔すぎる!」
同じように『女神』を攻撃していた俺と彼方も、壁の強固さに思わず悪態をつく。
「【破滅の化身を今、ここに】」
そして、最後の一節を終え、『女神』がその力の名を宣言する。
「
―――――――――
変化は唐突に訪れた。
ズドォオオオオオオンンンンンン!!!!!!
「なっ、何だ⁉」
「新しいのが空から降って来た!」
「くっ、あの新種だったら厄介だぞ……!」
焔は海城の言葉に唇を噛みながら『
「お、おい、海城……」
「安心しろ、焔。俺も同じ気持ちだ……」
そして、その姿を目にした焔達が抱いた第一の印象は『信じられない』という感情だった。
目の前に現れたのは二体の【影】だった。
真っ黒に塗りつぶされた、漆黒の怪物。一見、問題はないように思えたが、その姿は焔達を戦慄させる物だった。
「アレは……俺達、だよな……?」
「……あぁ」
突如として現れた、新たな【影】
『――――――ァア』
その姿は焔達、総隊長を模した物だった。姿だけではない。『偽神兵装』までも複製した、新たな【影】が静かに唸る。
「俺達を模倣した【影】……」
「ってことは……」
二人が油断することなく構えていた次の瞬間、【影】の内の一体が二人の真正面に現れ、
『アァ——————!!!!!!』
「「ッ⁉」」
ドゴォオオオオオオンンンンンン!!!!!!
手にしていた大剣で先ほどまでいた場所を轟音と共に粉砕した。
「やっぱりか……」
「能力も俺達と同等、下手したら上か……」
『ァア——————』
粉々に砕けた地面の中心で空を見上げながら唸る【影】
「海城……どのくらいだ?」
「へっ、そんなの気にするな」
「……死ぬ気か?」
「お前もおなじだろうが」
「……そうだな」
互いに視線を交わし、これまでよりもさらに意識を戦闘に集中させる。
「さぁ、行くぞ……!」
「おうよっ!」
『『アァアアアア————————!!!!!!』』
二人の総隊長と二体の【影】
同じ能力を持つ”者”と”物”
巨大な衝撃と共に、地上の勝敗を決める戦いが今、始まった。
―――――――――
―――仮定の話をしよう。
―――人類は一気に不利になるだろう。
それは敗北が確定する、ということだろうか?
―――いや、総隊長がいれば負けることはない。
では、総隊長と同等の戦力が『女神』陣営から出てきたら、どうなるだろうか?
―――決まっている。
―――人類の勝利は絶望的だ。
―――――――――
「さぁ、蹂躙の時間ですよ」
そう言いながら、『女神』は不敵に笑うのだった。
~~~~~~~~~
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