第17話 真銘解放


『【傾聴せよ これよりは真なる神話物語】』


『【あらゆる想いの原点たる、神秘の物語】』


『【何人にも変えられぬ、至高の神々が送りし物語】』


『【我はここに、その伝説を後世に伝え続けることを誓う】』


『【故に、神々よ どうか、我に汝の力を】』


 最後の一節を口にし終えた総隊長達は、力強い意志を瞳に宿す。


「『静寂ノ護手アテナ』———」


「『陽光ノ星冠アポロン』———」


「『審美ノ金珠アフロディーテ』———」


「『暴虐ノ戦士アレス』———」


「『純潔ノ星華アルテミス』―――」


「『豊穣ノ大地デメテル』―――」


「『真朱ノ鍛冶ヘファイストス』―――」


「『千謀ノ奇師ヘルメス』―――」


「『震万ノ海王ポセイドン』―――」


「『聖炎ノ神竈ヘスティア』―――」



 そして、己の『偽神兵装』の名と共に、真なる力を解き放つ。



『―――真銘解放オーバーロード!!!!!!!』



―――――――――



 変化が真っ先に現れたのは、だった。


「こ、これはっ……!」

「戦場全てを壁が囲んでいくぞ!」

「この力、間違いない! これはの!」


 戦場を囲うように現れた巨大な石壁。それを目にした隊員達は歓喜の声を上げながら、一人の少女へ視線を向ける。


 視線の先にいる少女は戦場を俯瞰しながら、連絡機に手を当てる。


「こちら、三番隊、戦場全体を囲うことに成功しました。これで民間人への攻撃は防げます」

『つまり、俺達は【影】との戦闘に集中すればいい、ってことだな!』

「はい。こちらは私達に任せてください―――誰一人、死なせませんので」


 三番隊総隊長、御守みもり 静音しずねはそう言いながら、部下達に防衛戦に集中させ、自身は槍の形をした『静寂ノ護手アテナ』を構え、”ヒトガタ”との戦いに挑むのだった。



―――――――――



 次に変化が訪れたのは隊員達の身体だった。


「す、凄い……!」

「これが、総隊長の本気……!」


 先程まで重傷を負っていた隊員が一瞬で回復し、全身から力を漲らせながら再び【影】との戦闘に臨んでいく。


 彼らの瞳に、先ほどまで映っていた恐怖は全くなく、文字通り、全力で【影】に立ち向かっていた。


「皆様! 安心して戦ってください! どれだけ傷つこうとも、私共が完璧に治癒してみせます!」


 彼らが安心して戦える理由たる総隊長象徴が声を張り上げる。


「回復だけじゃない! 俺達の単純な能力も強化されているぞ!」

「いける! これなら!」


 隊員達は身に纏った炎をもって、次々と【影】を撃退していく。


「相変わらず、凄いわね。貴方の『偽神兵装』は」

「そんなことはないさ。君みたいな完璧な治癒は、僕のでも難しいよ」

「二人とも、十分、化け物だから! というか、この新種の【影】を私一人に押し付けないでよ!」


 そう叫ぶのは、六番隊総隊長、金森かねもり 珠江たまえ


「あ~、ごめんごめん!」

「と言っても、アンタ一人で何とかなるでしょ?」

「戦いながら隊員達を強化させるのは流石に辛いの!」


 十二番隊総隊長、神薙しんなぎ あおい

 五番隊総隊長、豊丘とよおか らん



 『真銘解放』によって、埒外の回復と強化が可能となった人類軍はさらに勢いを増すのだった。



―――――――――



「ははっ、凄いね、姉さん! 葵ちゃん達の強化、半端じゃないよ!」

「感心する暇があるなら、さっさとその新種を倒しなさい!」

「無茶言わないでよ! この新種、距離を詰めてくるから厄介なんだよ!」


 そう言いながら”ヒトガタ”と戦う、七番隊総隊長、天音あまね よう


 八番隊総隊長である天音花の実の弟である。


「うるさい、文句を言うな! アンタと私は新種コイツを早く倒して、他の隊の援護をする必要があることぐらい分かっているでしょ!」

「だけど、流石にこれはしんどいよ!」

「いいから撃て! 私よりアンタの方が近距離戦も得意でしょ!」

「嫌だよ! アレと接近戦とか軽い怪我じゃ済まないもん!」


 文句を言う陽に花は痺れを切らし、奥の手を使う。


「もし五分以内にここにいる三体の新種を倒せたら、この戦いの後にデートしてあげる!」

「――――――――――――」

「ちょ、花さん⁉ そんなことを言ったら―――」


 その言葉を聞いた九番隊総隊長、紅林くればやし 朱蘭しゅらんは狼狽しながら、花と陽を交互に見て―――


「―――陽さんが暴走しちゃいますよ⁉」

「やってやるぅうううううううう!!!!!!!!!!!!!!」


―――次の瞬間、陽が大声で弓から双剣へと形を変えた「『陽光ノ星冠アポロン』」で”ヒトガタ”へと接近する。


『ッ――――――⁉』

「遅い!」


 並々ならぬ迫力に”ヒトガタ”は恐怖しながらも己の武器を振るうが、それよりも陽の振るう双剣の方が速かった。


 光り輝く二本の剣閃が”ヒトガタ”の胴体を十文字に切り裂いた。


『ァ――――――』

「ごめんね、後は姉さんがやってくれるから!」


 陽がそう告げながら、他の”ヒトガタ”へと向かったのと入れ替わるかのように、背中から地面に倒れ込んだ”ヒトガタ”の胸に一本の矢が突き刺さる。


「どうか、安らかに眠ってください」

『――――――ァ、アリ、ガ、トウ』

「…………」


 『純潔ノ星華アルテミス』の矢によって射抜かれた”ヒトガタ”から光の粒子が溢れ出て、空へと昇っていく。それと同時に聞こえてきた、穏やかな声で紡がれたお礼の言葉に花は数瞬、目を閉じる。


 花は確信した。光の粒子は【影】として捕らわれた人間の魂であり、あの新種は人間で作り出されたのだと。


 故に―――


「絶対に倒してよ……司!」


 ―――神域にて戦う司達に『女神』の討伐を託すのだった。



―――――――――



 そして、四、十番隊が集まる近接部隊では―――


「オラオラオラァアアアア!!!!!!!」

「道を開けろぉおおおおお!!!!!!!」


 ―――二人の闘神が猛々しく暴れていた。



「どうした、焔! 勢いが落ちているのではないか!」

「はっ、冗談きついぞ、海城かいじょう! ここからが本領に決まっているだろうが!」


 十番隊総隊長、海城 ばんが巨大な槍を振り回す反対で、禍々しく燃える炎を纏った大剣を振るう焔。


『ァ――――――!』

『――――――ッ、ツ!』


 並々ならぬ危険を感じた二体の”ヒトガタ”が最高峰の一撃を放つも、二人はそれを軽々しく受け止めると、一閃。


『『――――――ァ、アアアア』』


 身体を真っ二つに切り裂かれた”ヒトガタ”が霧散していく中、二人はそれを気にも留めず、他の【影】に迫っていく。


「民間人を守るのは御守三番隊が引き受けてくれた! つまり、俺達は暴れることに専念できる!」

「はっは! ならば、見せてやろうぞ! 俺達の力を!」


 『真銘解放』をしたことで、より殲滅能力が上がった焔達は次々と【影】を倒していく。


「お二人さん~盛り上がるのはいいけど、無茶はしないようにね~」


 十一番隊総隊長、仙方せんぽう 賢斗けんとは苦笑しながら、己の『偽神兵装』で攪乱用の罠を【影】の進路に設置していく。


 知性無き怪物である【影】は簡単に罠を踏み抜き、敵は至る所で瓦解していった。



 ある程度、倒すことが出来た焔はゆっくりと空を見上げる。


「地上は俺達で何とかするから、そっちも気張れよ―――司!」


 拳を高く突き上げ、神域で戦う者達へ意志を託すのだった。



―――――――――



『――――――希望なんて、持っても意味がないのに』



 白の空間に、寂しげな女の声が響くのだった。



~~~~~~~~~


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