第16話 覚悟
「裏切り者、だと……お前は何を言っているのだ!」
回復担当の隊員に傷を癒してもらっている俺の目の前で、いつになく声を荒げる聖司。その隣に立っている彼方も同じ気持ちなのか、声にこそ出していないがその顔は真っ赤になっていた。
「どうして気づかないのですか……そこにいる
それに対し、礼二は第一部隊の
「そのガキは『女神』から『虹』の核を奪い去り、人類を【影】で蹂躙させようとしているのですよ! そんな存在、放置しておけるわけがないでしょ!」
「……本当に、何を言っているのだ?」
「俺達は『女神』から直々に”
「お前は……お前達はどうしてしまったんだ⁉」
狼狽の声を上げる聖司を無視し、礼二達は俺の方へ殺意を向けてくる。
「―――ということだ。覚悟しろよ、ガキ」
「へ、っ……馬鹿、かよ。不意打ちで、殺せなかった時点で……お前達の負け、だろうが!」
「――――――――――――やれ」
次の瞬間、禍々しい『偽神兵装』をしてナニカで一斉に襲いかかってくる礼二達。
「く、そがぁ……!」
完全に回復はしていない傷を必死に押さえながら、複数の『英雄神話』で防ぎながら距離を取る。
「止めろ、お前達!」
「邪魔をするなって言ったよな?」
「ぐはっ……!」
助太刀しようと彼方が飛び出すも、礼二の放った一撃に抵抗することも出来ず、吹き飛ばされてしまう。
「その力……本当に『偽神兵装』なのか⁉ 威力が桁違いだぞ!」
「お前の指摘通り、これは『偽神兵装』ではないぞ、彼方。この力の名は―――『
生まれ変わった力で俺へ絶え間なく攻撃を仕掛けてくる礼二達。
「ちく、しょう……!」
その一撃一撃が重たく、完璧に防ぐことは出来ず、俺は悪態をつきながら次々と武具を生み出していく。
「ったくよ~! 何で、あの『女神』の言葉を信じるんだよ! あんな性悪女に騙されるとか滑稽だな!」
「黙れ! お前みたいなガキよりも、あの方が仰る言葉を正しく、俺達が信じるに決まっているだろう!」
沸点低すぎるだろ、と心の中で突っ込んでいると、礼二が鎧に手を当てる。
「お前には勿体ないと思ったが『
そう告げると、礼二は詠唱を始める。
「【喝采せよ これより誕生せしは、真なる神】」
「【偽善の力を振るう者へ、天罰を】」
詠唱と共に暴風が吹き荒れ、俺達が吹き飛ばされないよう足に力を入れる。
「『
そして、高らかな宣誓がなされた次の瞬間―――
「マジ、かよっ……!」
―――俺は切り飛ばされた左腕を見ながら、思わず笑みを浮かべてしまった。
「おいおい、容赦なく人間の腕を切り飛ばすとか正気か?」
「黙れ。この【神影解放】を使った以上、お前に勝ち目はない」
さらに禍々しくなった剣を片手に近づいて来る礼二に、俺は傷口を押さえながら問いかける。
「ならさ、その【神影解放】について教えてくれよ。これから殺されるなら、それくらいはいいだろ?」
「ふんっ、本来ならお前のような裏切り者に教えるのは癪だがいいだろう!」
俺の態度、言葉に気分を良くしたのか笑いながら話し始める礼二。
「【神影解放】とはその名の通り、神の影を解放させる技であり、発動させることで『偽神兵装』以上に神の力を再現させることが出来るようになるのだ!」
「へぇ~それは何とも凄そうな技だな」
「普通であれば簡単には習得できないようだが、俺達はお前のような凡人とは違い、選ばれた存在だからな! この短期間で自分の物とするのが出来たのだよ!」
その言葉と同時に『神影鎧装』を身に纏った隊員達が【神影解放】を発動させる。
「なるほど……そういうことか」
告げられた内容からある程度、推測することが出来た俺は『英雄神話』で一つの瓶を作り出し、中に入っている液体を傷口に直接かける。
すると、切り落とされ失ったはずの左腕が瞬く間に再生した。
「なっ⁉ 再生しただと⁉」
驚きの声を上げる礼二達を眺めながら、俺はゆっくりと態勢を整える。
「大方、年下のガキに負けたことを認められず喚いていたところ、『女神』から俺を殺すよう命じられ『神影鎧装』っていう力を渡された、って感じだな?」
「ッ!」
「はぁ……優秀な
「黙れ黙れ黙れっ! お前に何が分かる! 常日頃からエリートとして生きてきた俺達の気持ちが、お前に分かるのかっ!」
その雄叫びに呼応するかのように、放たれる数多の攻撃。
一つ一つが命を簡単に奪うことの出来る威力を秘めており、礼二達は俺を本気で
殺しに来ているのだと改めて感じながら、小さなため息をつく。
そして———
「……くだらねぇな」
―――礼二達が放った攻撃は、俺の目の前で全て消滅した。
「……え?」
「こ、攻撃が……」
「消え、た……?」
普通に考えればあり得ない光景に、目を見開いて驚く礼二達。
「くだらねぇよ、お前ら」
俺はそれを一瞥しながら、呆れを含んだ本音を零した。
「……くだらない? 何がだ?」
「全部だよ、全部」
首を傾げる礼二に、俺は少しだけ棘のある声で続ける。
「俺に負けたのを認められないって、子供かよ。エリートの気持ちなんてどうでもいいし、本当のエリートは敗北を受け入れることが出来るんだよ」
「それは正当な敗北であればの話だ! お前が俺達に勝てることはあり得ないんだ! 何か不正をしたに決まっている!」
「そこを『女神』に利用されて、簡単に強大な力を貰った、と。それで本当に強くなったと思っているなら、正真正銘の馬鹿なんだろうな」
「こ、のっ、ガキがぁ……!」
激高する礼二達に、俺は剣を構える。
「お前らは足りないんだよ―――覚悟、ってやつがな」
「覚悟、だと?」
「俺はな、
『英雄神話』で武具を次々と作っていき、その全てを空中で待機させながら、俺は話を続ける。
「もし、強大な力が手に入る代わりに命を失うとしたら、お前達はどちらを選ぶ?」
「な、何だと?」
「俺の『英雄神話』の原点となったのは当然、英雄だが、中には命を代償に人々を守って、最後には死んだ奴らもいる
―――そいつらと同じように、お前達は命を賭すことは出来るのか?」
「そ、そんなの、無理に決まっているだろう!」
「だろうな!」
『ッ⁉』
俺の発した怒声に、礼二達が怯えた表情を見せる。
「小さなプライドに縋りつくお前達が出来るはずがないよな。『女神』に力を与えられたのは自分達が選ばれた存在だから当然だと、自分に酔いしれるような奴らが本当の意味で強くなれるはずがない!」
「これ以上ッ……! 俺達を、馬鹿にするなっ!!!!!!!」
言われっぱなしで我慢できなくなったのか、一斉に動き出した礼二達。その全てを見据えながら、俺は———
「だからよう―――邪魔すんな」
―――――――――
数分後。
「ぐ、っ……」
「ば、化け物……」
「こん、なにも、力の差が……」
俺の足元には、礼二率いる”
「はぁ……はぁ……!」
「……司、大丈夫か?」
「なんとかって、ところだ……!」
アレと使った影響で、激しく肩を上下させながら俺は聖司に返事をする。
「ただ、しばらくは休ませてくれ……流石に疲れた……」
「……あぁ、分かった。後のことは任せておけ」
聖司の言葉に俺は安心し、目を閉じるのだった。
「……総隊長」
「……彼方。礼二達を拘束しておいてくれ。俺は地上で戦う焔達に連絡する」
「……一つ、よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「アレの使用を許可するおつもりですか?」
「……あぁ」
「……分かりました。こちらはお任せください」
諸々の感情を飲み込み、礼二達の拘束を始めた彼方を一瞥すると、聖司は連絡機に手を伸ばすのだった。
(司がここまでやったのだ……俺達もそれに応えなければな!)
―――――――――
時は戻り、戦場にて。
―――――――――
「強いて言うならば―――覚悟、だな」
『覚悟?』
連絡機の向こうで疑問の声を上げる焔へ、聖司は告げる。
「俺は俺で、命を賭してでも叶えたい目標が見つかったのだ。故に、今、アレを使おうと覚悟したのだ」
『……その目標とは何なのだ?』
「―――”家族”を守りたい。司や理華だけでなく、愛する隊員、民の全員を俺は守りたい」
『―――フッ、そうか。お前らしいな』
そう言うと、焔は連絡機の向こうで大声を上げる。
『ならば、聖司! 俺達に命令しろ―――使え、と』
その言葉に対し、聖司はただ一言。
「あぁ、各総隊長に告げる。汝らはアレを用い、人類を勝利へと導け!」
『了解ッ!』
総隊長達がそう答えた次の瞬間―――戦場に、唄が響きだした。
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