第15話 死闘と邪悪
戦いが始まって、どのくらいの時間が経っただろうか。
倒しても倒しても生み落とされる【影】に徐々にではあるが、隊員達が押されていく。
『――――――ァア!』
「くっ……⁉」
そして、焔達、総隊長もそれは同じであり、新種の【影】―――ヒトガタに苦戦を強いられていた。
「マズいぞ、天音! 支援や回復が段々、追いつかなくなっているぞ!」
『分かっています! 新種の【影】は支援・回復部隊の方にもいるわけですから私達が早く倒して助太刀にいかないと……っ⁉』
連絡機の向こうから聞こえてくる苦悶の声に焔は奥歯を噛みしめながら、自身も強烈な攻撃を次々と放つ【影】から必死に身を守る。
このまま行けば間違いなく自分達は敗北すると分かっていた焔達は何とかこの状況を打開しようとするも、中々、名案が思い浮かばなかった。
そんな時だった。
『どうやら、そちらも苦戦しているようだな、焔』
「ッ! 聖司⁉」
神域に突入した防衛隊一番隊総隊長である聖司から突如、連絡がきた。
「お、お前っ⁉ 俺達に連絡なんかしていて大丈夫なのかよ⁉」
『今は少し余裕があってな、多少の連絡であれば問題あるまい』
『それよりも』と言うと、聖司は本題に戻る。
『目の前に現れた突如として現れた新種の【影】に苦戦している、そうだな?』
「……あぁ」
『ならば、お前達にアレを使うことを許可する』
「なっ⁉ 本気か、聖司⁉」
連絡機を通して告げられた言葉に、焔は驚きの声を上げる。
『勝つためにはそれしかあるまい。それに、そちらには
「……一つ、聞かせろ」
『何だ?』
「アレは確かに強力だ。使えば、この局面を一気にひっくり返すことが出来るだろうな。しかし、お前はアレだけは使おうとはしてこなかった」
『……そうだな』
「なら、どうして使うことを決めた? 勝てないから、という理由以外でな」
『それは———』
―――――――――
時は遡り、聖司が率いる部隊が神域に突入した直後。
―――――――――
「入れた、のか?」
「そうなんだろうだが、何だこの空間……」
「どこを見ても真っ白だな」
『虹』に突入した俺達が目を開くと、そこはとにかく白かった。
「なるほど、神域と言うだけあって、我々の世界とは『何か』が違うことは分かるな」
「どうします? 我々が目指しているのは『女神』のいる領域ですが、闇雲に探すのは危険な気がするのですが……」
彼方の問いかけに対し、聖司は俺の方へ視線を向ける。
「司、何かいい道具はないか?」
「ちょいとお待ちを、っと……ほいっ、これなら『女神』のいる場所が分かるはずだぜ」
俺がそう言いながら、取り出したのは小さな羅針盤だった。
「この羅針盤は?」
「こいつは【黄金の羅針盤】って言ってな。かつて、苦しむ人々の為に黄金を求めてたった一人で海に出た名もなき英雄が使っていた物を再現したんだ」
「これを使えば、迷うことなく『女神』の所まで行けるのか?」
「あぁ、この羅針盤に込められた概念は”望みし物までの道を指し示す”だからな。俺達が『女神』の所に願えば……」
俺の言葉に反応するかのように、手にしていた羅針盤から一筋の光が飛び出て、何もない空間に突き刺さる。
「こんな感じで光が飛び出て、俺達を案内してくれるってわけだ」
「なるほど……ならば、司。先頭はお前に任せてもいいか?」
「分かった」
そして、俺達は【黄金の羅針盤】を頼りに『女神』の所へと向かうのだった。
―――――――――
数分後。
「……いや、何でだよ」
真っ白な空間を進んでいたはずの俺達は気づけば、広大な海の真上に立っていた。
聖司の『偽神兵装』によって作られた空中の足場を軽く足でつつきながら、周囲を見渡していた俺から零れたのは素直な疑問だった。
「俺達、あの無駄に白い空間を歩いていたよな?」
「あぁ。一瞬、空間が揺らいだような気がしたが、まさかその時に……?」
彼方が現状の分析に集中する隣で、聖司は静かに海面を見つめていた。
「……総隊長? 何か海に気になる物でもあるのですか?」
「いや、そうではないのだが……少々、嫌な気配を感じてな」
「すまない、気にしないでくれ」と聖司が告げようとした次の瞬間―――
ザッパアアアアアアアアンンンンンンンンンン!!!!!!!!
『グギャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』
「「「ッ⁉」」」
―――耳をつんざくほど大きな鳴き声と共に、海から巨大な龍が現れた。
『グルゥウウウウ…………!!!!!!!!』
遠くから見ても分かるほど厚い鱗に、鋭い牙。どんな得物でも逃がさないとばかりに見開かれる金色の瞳。
一般隊員であれば、その威圧だけで倒れているだろうが、残念ながらここに集まっているのは「一般」の人間ではなかった。
「総員、迎撃せよ!」
『了解ッ!』
聖司の素早い指示に、一瞬で応じる
『グラァアアアアアアアア!!!!!!!!』
「ぐあっ⁉」
「きゃあ⁉」
多少のダメージは与えることが出来たようだが、龍は気にすることなく自身の得物による爪で反撃とばかりに多くの隊員が吹き飛ばした。
「何なんだ、コイツは⁉ あれだけの『偽神兵装』を一度に受けて、ちょっとしかダメージを受けていないぞ⁉」
「ッ⁉ 彼方、危ない!」
接近して攻撃を仕掛けようとしていた彼方の死角から振るわれた尻尾。完璧な防御は間に合わないと判断した俺が咄嗟に『英雄神話』で再現した盾を彼方と龍との間に生み出す。
「すまんっ! 助かった!」
「気にするな! それよりも、親父! この龍について何か分からないのか⁉」
「今、調べているところだっ……!」
光り輝く本を片手に龍の攻撃を捌く聖司。
本の名は『
その能力は———数多の知識が記された書物の顕現。どんなことでも調べれば分かる、まさに「全知」を体現した『偽神兵装』である。
戦いながらページをめくり続けていた聖司はとあるページで目を止める。
「その龍の名は”
「ヨルムンガンドって、神話に出てくる怪物じゃないですか! 何でそんなのがいるんですか⁉」
「ここは神域―――文字通り、神の世界だからな! 何でもありなんだろう!」
狼狽の声を上げる彼方に、俺も必死に攻撃を防ぎながら推測を述べる。
「総隊長! では、この怪物を倒すためにはどうすればいいのですか⁉」
訓練をした影響なのだろうか、新しい『偽神兵装』を身に纏いながら戦う礼二が大声で問いかける。
「ヨルムンガンドの前では小さな攻撃が無意味に等しい! 倒せるとしたら極限まで高められた強力な一撃だ!」
「強力な一撃って、具体的にはどの程度の威力なんだ⁉」
「大体だが……山三つを軽く吹き飛ばせるぐらいの一撃だ!」
『無理だろっ!』
聖司の言葉に俺達は声を揃えて、不可能だと答えた。『偽神兵装』の全力をもってしても、所詮は模造品。その威力は山一つを吹き飛ばすのが精一杯だろう。
「問題ないだろう! 司、お前の『偽神兵装』なら何とかなる!」
「根拠はっ! あるのかよっと!」
「勘だ!」
「ふざけんなぁ!」
あまりにふざけた情報を目にしたせいで自分のキャラを忘れたのか、威厳を感じさせない聖司に突っ込みを入れながら、俺は後方へ下がる。
(だが、それも一理あるんだよな……一か八か、やってみるか!)
自身の『偽神兵装』ならばいけるかもしれないと考えた俺は聖司達に頼み込む。
「可能性に賭けてみる! 時間を稼いでくれ!」
「分かった!」
「任せろ!」
そう言い、ヨルムンガンドへ攻め込む聖司達から視線を外し、手に持っていた剣の形をした『英雄神話』へ意識を集中させる。
「今、あの怪物を倒す、強大な一撃を……!」
そして、これまで目にしてきた
―――逆境を覆せる、強大な一撃を!
―――圧倒的な暴力を倒せる、至高の一撃を!
―――味方に希望を与える、そんな一撃を!
俺の強い想いに応えるかのように形を変えていく『
「出来た……!」
そして、出来上がった巨大な大剣を正面に構える。
「全員、下がってくれ!」
「ッ! 総員、後方に退避!」
俺の持つ大剣を一瞥した聖司がすぐさま指示を出す。
全員が後方へ移動するのと入れ替わるかのように前に出た俺は大剣を振り上げる。
大剣に込められし概念。それは———龍殺し。
『グラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』
これまでとは比較にならない程、尋常でない力を感じ取ったのか一際大きな声で吠えながら大量の毒液を放つヨルムンガンド。
しかし、その攻撃を数多の盾で防ぎ切り、俺は大剣を勢いよく振り下ろす。
「これでも食らって、倒れろぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
『グギャアアアアアアアア!!!!!!!???????』
右上から左下へと斜めに振り降ろされた全身全霊の一撃を真正面から食らい、ヨルムンガンドは悲鳴を上げながら、後ろから海面へと倒れ込んだ。
「討伐、完了……っと!」
肩を激しく上下させ、二度と起き上がらなくなったヨルムンガンドを眺めながら俺が告げた次の瞬間―――
『オ、オォオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
―――後方で見守っていた隊員達が歓声を上げながら、俺の方へと駆け寄ってきた。
「すげぇ! すげぇよ、お前!」
「あの龍を一発で仕留めれるなんて!」
「流石、総隊長が次代に選んだだけのことはあるな!」
口々に賞賛の言葉を上げる隊員達。
「ギリギリだったが、何とかなったな」
「ほれ、言うとおりだっただろ?」
「親父……終わり良ければ総て良しじゃないからな?」
他の者と同じように駆け寄ってきた彼方と聖司にも視線を向けながら、俺はゆっくりと立ち上がる。
「よしっ、時間も少ないし、急いで『女神』の所まで行くぞ!」
『オウッ!』
そして、戦意が高まり続けるのを感じながら、【黄金の羅針盤】を用い『女神』のいる神域へと向かおうとした次の瞬間―――
ザクッ!
「…………はっ?」
―――俺の腹を禍々しい漆黒の剣が貫いていた。
「どう、いう……つもり、だっ……!」
背後を振り返ることなく、剣を振るい、使い手から俺の腹を貫いている剣を手放させる。
その場にいた多くの隊員が信じられない者を見るかのように、とある人物へ視線を集中させる。
「これは一体、どういうことだ―――礼二!」
僅かな困惑と怒りを含んだ声で問いかける聖司に対し、小さく舌打ちをしながら新しい剣を生み出し真正面に構える礼二。
「どういうこと? そんなの決まっているでしょう―――裏切り者の抹殺ですよ!」
まるで自分達が『正しい事』をしているのだと言わんばかりに、声を張り上げた。
―――――――――
『あ~あ、活躍の場を奪われて、勝手に動いちゃったか~』
『まっ、面白そうだし、このまま眺めていようっと♪』
―――――――――
あらゆる情報が入り乱れ、俺達の思考は上手く回らなかったが、これだけは理解出来た。
―――今、目の前にいる
~~~~~~~~~
『アレ』が何なのか、使うことを決心した理由は後の数話で明らかになります!
※補足
『
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