第14話 ヒトガタ
司達が『女神』の住まいでもある『虹』―――もとい『神域』に突入した一方、地上では―――
「オラオラオラァアアアア!!!!!!!!」
『ギィイイイイイイイイ!?!?!?!?』
―――焔が率いる近接部隊が【影】と次々と倒していき、
「まったく……無茶しすぎですよ、っと!」
『グギャアアアア!?!?!?!?』
天音が率いる遠距離部隊が近接部隊の少ない所へ強力な攻撃を放ち、一度に大量の【影】を殲滅していった。
予想以上の善戦。
しかし―――
「キツイな……」
「これは、思った以上に大変な戦いになりそうですね……」
―――二人の口から零れ落ちたのは、先ほど司達が懸念していた通り、持久戦に対する感想だった。
いくら倒しても減る気配のない【影】の軍勢。
それに対し、こちらは強力な武装があるとはいえ、人数や回復には限りがある。
二人は時間が経てば経つほど、向こうが優勢になると感じていた。
そこで適度に【影】の数を減らしつつ、少しずつ体力を回復するよう二人が指示を出そうとした次の瞬間―――
『―――――――――ッ!!!!!!!!』
―――大きな雄叫びと共に空から複数の黒い物体が降ってきた。
「な、なんだっ⁉」
謎の物体が地面と激しく衝突したことによって辺りに土煙が立ち込み、すぐ近くにいた焔達は咄嗟に顔を覆う。
「煙のせいで何も見えない……!」
天音がその物体の姿を正確に視認しようとするも、煙のせいで何となくの大きさしか分からなかった。
しかし―――
(姿が見えなくても……分かる……!)
(これまでの敵よりも……強い……!)
―――二人の脳内は最大級の警鐘を鳴らしていた。
そして、だんだんと煙が晴れていき、二人の視界に黒い物体がはっきりと映った。その黒い物体は【影】だった。
「何だ、こいつは……? 【影】なのか……?」
戦闘態勢は崩さなかったものの、焔はその【影】に不可解な点を覚えた。全身が真っ黒なのは他の【影】と同じなのだが、問題はその大きさだ。
(弱い【影】でも三メートル以上の大きさはあるのだが、こいつは人間とほぼ同じ大きさ……こんな【影】は今までで一度も見たことがないぞ)
目の前に現れた十体の【影】を一言で表すとすれば『全身を真っ黒にした人間』だった。
「この【影】は私が相手をする! お前達は引き続き、他の【影】を殲滅しろ!」
『了解ッ!』
隊員達に指示を出した焔は他の総隊長達に連絡を取る。
「出現した新種の【影】は十体。地上に残った
『了解』
『まっかせて~!』
それぞれの持ち場についている総隊長からの返事を確認した焔は新種の【影】へ意識を集中させる。
『――――――アァ』
集団の中にいた一体の【影】が小さく唸ると、他の【影】は素早く四方八方へと散っていく。
(珍しいな。【影】は基本的に数を活かした複数戦を基本とするんだが、この新種は一対一を取るタイプか……厄介な相手になりそうだ)
警戒をさらに強め、腰を低くする焔。
「どんな行動を取るか分からんが、サッサと倒させてもらうぞ」
そう言い、戦場を駆け抜ける焔に対し、新種の【影】は同じように腰を低くさせると―――
『――――――ッ!』
「なっ⁉」
―――いつの間にか持っていた漆黒の刀で一閃。その速さは常人であれば視認することすら出来ない程だったが、焔は驚きながらも、ブレーキをかけ後退する。
「今のは、抜刀術か……?」
頬から流れ出る血を拭いながら、先ほどの一撃を冷静に分析する焔。
「ただの【影】にあんな鋭い一撃が放てるのか? そもそも、武器を使う【影】なんて聞いたことがないぞ……!」
『今度はこちらの番だ』と接近しながら、凄まじい速度で刀を振るう新種の【影】
あまりの速度と重さに焔は冷や汗をかきながら、必死に自身の『偽神兵装』である大剣を振るい応戦する。
「これじゃあまるで、人間を相手にしている気分だな―――ッ⁉」
『――――――ッ!!!!!!!!』
背後から放たれる強烈な一撃。何とか大剣を間に挟むことには成功したが、完璧には防ぐことが出来ず、吹き飛ばされてしまう焔。
「ちくしょうが……!」
何とか受け身は取ることが出来たが、所々傷を負ってしまった焔は唇を嚙みしめながら大剣を構え直す。
『焔! アンタは大丈夫⁉』
すると、別の場所で戦っている天音が連絡機を通して、声をかけてきた。
「天音か! 全然、大丈夫じゃないぞ! 今までの【影】とは桁違いの強さだ!」
『アンタの所もなのね……』
「……どういうことだ?」
『アンタの目の前で新種が四方八方に散らばったのは覚えてる?』
「あぁ」
『散らばった新種は総隊長一人に対し一体ずつ、目の前に現れたの』
「……つまり何だ? 向こうは俺達の戦力を把握している、ってことか?」
『おそらくね』
天音の言葉に焔は再度、唇を噛みしめる。
戦力。それは戦いにおいて最も重要とも言える情報であり、それがバレているということはある程度、こちらの動きが相手方に予測されているということなのだ。
『でも、そんなことはどうでもいいの。相手は『女神』と呼ばれる超常の存在、戦力が把握されるのは仕方ないの』
「なら、それよりも深刻な問題があるって言うのか?」
『……えぇ、残念ながらね』
声にならない雄叫びを上げながら襲い来る【影】の攻撃を防ぎながら、焔は天音に続けるよう促す。
『これはあくまで仮説なのだけれど……私達の前にいる新種の【影】は元人間の可能性があるわ』
「………………は?」
天音の言葉に焔は戦闘中にもかかわらず、素っ頓狂な声を上げる。
「こいつが、元は人間だった……そう言いたいのか?」
『……えぇ、アンタも感じたんでしょ―――人間を相手にしているみたいだ、って』
「ッ!」
信じたくなかった。
目の前にいるのは確かに【影】だ。人類の敵であり、殺戮の為だけに生きる知性無き獣なのだ。
しかし、天音の言葉をハッキリと否定できないのもまた事実。
刀を使った攻撃に、死角から技を放つといった駆け引き。
力任せに攻撃するただの【影】とは根本的に戦闘スタイルが異なっていた。
何より―――あの『
「クソ野郎がっ……!」
胸の奥からとめどなく燃え上がる激情の炎を抑えきれず、焔は鬼の形相で大きな怒声を上げ、今も崩壊を続ける空―――『虹』を睨みつける。
『焔。他の奴らにも伝えたけど、この新種はなるべく早く倒すよ。こんな強敵、残しておく方が危険だからね』
「あぁ……任せておけ……!」
その言葉を最後に、焔達は新種の【影】を討たんと再び衝突するのだった。
―――――――――
『うんうん! こんなに早く気付くなんて、今回は聡い子達が多いね!』
水晶を通して、地上での交戦を眺めていた女は嬉しそうに笑い声をあげる。
『いや~気まぐれで強かった人間の死体で作った【影】だけど、期待以上の働きだね!』
女の視線の先にいるのは、総隊長達と対等に渡り合う新種の【影】達。
その正体は天音の予想通り、元人間。
具体的に言うと―――
『―――流石、元総隊長なだけあるね! 他の
そう言いながら、何もない空間で仰向けになる女。
『元は人間でありながら、今は人間を滅ぼすためだけに力を振るう私の可愛い
さぁ、死んだ人間を弄ぶ私への憎悪で身を焦がし、何度も何度も苦しみながら、最後には
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