第11話 悪意の胎動


「くそっ……くそっ……くそくそっ! くそがぁああああああ!!!!!!!!」


 司達が『女神』との全面戦争に向けて準備を進める中、とあるホールでは男が怨嗟の声を上げながら、机を何度も何度も殴り続けていた。


礼二れいじ……もうやめろ! 手から血が出てるぞ!」

「うるっせぇ! あんなガキがっ、選ばれた俺達より優れているなんて認めれねぇんだよ!」


 同期の隊員に止められるも、礼二と呼ばれた隊員は構わず机を殴り続ける。


「お前達は悔しくねぇのかよっ! あんなガキに負けてよ!」

「く、悔しいに決まっているだろうが!」

「俺達は選ばれた存在ナンバーズだ! 一般隊員如きに負けるはずがない!」


 礼二の問いかけに、当然だと言わんばかりに負の感情を剥き出しにする隊員達。しかし、どれだけ吠えようと自分達が負けたという事実は変わらない。


「ちくしょうがっ……!」


 その現実を否定することが叶わない礼二は、苛立ちながら再び机を殴る。


 どうにかして、あのガキに吠え面をかかせる方法はないのかと考える礼二。


 仮に、この光景を司や彼方が見ていたとすると『強くなるよう努力すればいい』と言っただろう。


 だが、今、このホールにいるのは彼方よりもプライドが高く、他人の強さを素直に賞賛できない真のエリート出来損ない。努力する、という選択肢など最初から存在していないのだ。



 そんな時だった。



『力が欲しいのですか?』

『ッ⁉』


 突如、礼二達の脳裏に女性の声が響き渡ってきた。驚く礼二達に”声”は気にすることなく話しかける。


『私は『女神』、皆様を【影】から守る『虹』を構築している存在、と言えば分かるでしょうか?』

「なっ、女神だと⁉」

『皆様はとある少年に敗北し、今度は勝つために力を欲している。そうですね?』

「ッ⁉ な、ぜ……それを……」

『全て見ていましたから』


 事も無げに答える『女神』を名乗る”声”に礼二達はさらに目を見開く。そして、一瞬だけ礼二は周りで視線へ問いかける。


 どうするか、と。


 普段の彼らであればもう少し慎重になっていただろう。得体の知れない『神』を自称する存在の言葉を簡単には信用しようとはしなかったはずだ。

 しかし、今の彼らは格下に『圧倒的な敗北』と『屈辱』を与えられた身。


 故に、彼らは『力が欲しい』と視線で答える。


 あのガキを見下したい。ただ、それだけの想いで『女神』を名乗る存在の提案を受け入れることを決意したのだ。


 そして、それは礼二も同じであり、彼らの答えに満足げに頷くと『女神』へ話しかける。


「本当に力をくれるのか?」

『えぇ、もちろんです。ただし、一つだけ、やってもらいたいことがあるんです』

「やってもらいたいこと?」

『はい。皆様を負かした少年―――神木司が少々、をしようとしていまして……』

「ッ! あのガキが何かしたのか?」


 そう問いかけると、『女神』は悲壮を纏った声で礼二達に語る。


『これは皆様の上司である総隊長達にも言っていないのですが、あと一か月もしない内に『虹』が崩壊してしまうのです」

「『虹』が崩壊⁉ それは本当なのか⁉」

『はい……そこで私は『虹』を再構築するための『核』を用意していたのですが、彼がそれを奪って行ってしまったのです』

「は⁉ そんなことしたら『虹』は……!」

『再構築できず、抑えられていた【影】が一斉に放たれる―――過去と同じ末路を歩むことになってしまいますね』


 『女神』の言葉に礼二達は唖然とする。そんなことをして何になる、多くの人間の命を奪うだけの行為だろ、と全員の心情が一致する中、礼二が『女神』に問いかける。


「……つまり、頼み事と言うのはあのガキから『核』を取り戻せってことだな?」

『はい。私は神と言う立場である以上、人間界に過度な支援は出来ないため、皆様を頼るしかないのです。どうか、引き受けてはもらえないでしょうか?』

「もちろんだ! 人類を守るためにも、俺達がアイツから『核』を取り戻してみせます!」

『……本当に、よろしいのですか?』


 どこか不安げに問いかけてくる『女神』

 何か厄介なことでもあるのだろうかと礼二達が考える。


『実は『虹』の『核』には非常に稀有な特性がありまして……神木司はその特性を利用して、自身の心臓に『核』を埋め込んでしまったのです』

「なっ、心臓に⁉ ってことは……」

『……『核』を取り戻すには、彼を殺すしかないのです』


 『女神』から告げられた内容を頭の中で反芻する礼二達。



 彼らの思考はただ一つ―――



 プライドをへし折った存在を

 そんな機会を逃してなるものか、と彼らの瞳は暗く輝く。


『仲間である皆様に酷な事を言っているのは重々承知しているのですが……』

「別に構わないぞ」

『……えっ?』

「人類を破滅へと導こうとしているんだ。遅かれ早かれ殺される運命なんだよ」

『ほ、本当に引き受けてくれるのですか⁉』

「あぁ、俺達に任せてくれ」

『……分かりました。では、彼に対抗するための力を今から皆様に授けます』


 一瞬、礼二は自分達の言葉を聞いて『女神』が笑ったように感じたが、次の瞬間手元に現れた強大な力を放つ『何か』に思考を奪われる。


『それは『種』、それを皆様の『偽神兵装』と合わせてみてください』

「あ、あぁ……!」


 礼二が自身の『偽神兵装』――『天嵐豪破エンファウル』を解放し、その手にある『種』を重ねる。


 すると……


「す、凄い……『偽神兵装』が変わっていく……!」

『この『種』によって『偽神兵装』は生まれ変わり、新たな名が与えらます』

「新しい、名……」

『はい。その名は『神影鎧装ディオ・ヴォイド』―――『天喰影嵐ヴァンラース』』


 武器から自身を守る鎧へと生まれ変わった新たな『力』を前に、礼二は興奮を隠し切れない。

 その様子に、他の隊員達も『種』を『偽神兵装』に重ね合わせる。


「す、すげぇ……!」

「攻撃だけじゃなく、防御まで完璧だ……!」

「これなら勝てる……勝てるぞ……!」


 口々に喜ぶ隊員達。


『喜んでいただけたようで何よりです』

「あぁ、アンタのおかげで俺達はさらなる力を手に入れることが出来た。で、あのガキを殺す件だが、具体的な案はあるのか?」

『あの少年は『虹』が崩壊するその日に【影】との全面戦争を行おうとしています。それまでは総隊長達と共にいるので、皆様が動くのは危険でしょう』

「……そうだな、今の俺達でも総隊長にはギリギリだが勝てないだろうな」

『なので―――狙うは、全面戦争当日。皆様は指示に従う振りをしながら、隙をついて『核』を奪う、というのはどうでしょうか?』

「分かった。その案で行こう」


 こうして、神木司を殺す方向性が定まった礼二達。


 最後に『女神』が一言。



『では、どうか頼みます―――私が選んだ、真なる勇者達よ』

「ッ! あぁ、任せておけ!」



 そして、今、この瞬間。



 歪みに歪み切った悪意が胎動した。



~~~~~~~~~


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