第10話 開戦準備(2)
「はぁ⁉ なんだよ、それ! 俺達は『女神』に騙されていたって事か⁉」
一連の説明を聞き、怒りをあらわにする焔。他の総隊長も声にこそ出していないがその顔は険しくなっている。
「はい。そして、真実を知った私は『女神』を倒そうと決めたのですが、私一人では当然、勝機はありません。今回集まってもらったのは皆様にも『女神』陣営との戦いに手を貸してもらえないかとお願いするためです」
俺がそう言うと、焔が「当然だ!」と返しながら立ち上がる。正義感溢れる彼ならばそう答えると分かっていた。そして———
「悪いけど、私は反対だよ」
「俺もだ」
「……僕も」
―――このように反対する者達が出てくることも、分かっていた。
「な、なぜだ、お前達! 『女神』の所業は許されるものではないだろう!」
「焔。アンタの気持ちは分かるけどね、それでも総隊長と言う立場に立っているからには、そう簡単に頷くことは出来ないんだよ」
目を少しだけ釣り上げ、俺の方を見るのは八番隊総隊長『
冷静沈着、頭脳明晰と称され、その上、総隊長と言う称号に恥じない強さを持つ戦士である彼女に見つめられ、俺は少しだけ身を固くする。
「私達が命令を出すことで、大規模な戦いに部下達を送ることになり―――結果、多くの命を失わせる事もあり得る。それは分かっているな?」
「はい」
「正直なところ、聖司さんや君には申し訳ないが私達は神木理華を手っ取り早く『虹』にしてしまえばいいと思っている」
「…………」
天音の言葉に俺は何も返さず、黙って続きを促す。
「君が
「…………」
「それでも、君は私達に協力を要請するのかな?」
「はい」
問いかけに対し、迷うことなく答える。
「その理由は?」
「『女神』を倒したいからです」
「なぜ倒したい? 神木理華を最悪の
なぜ?
そんなの決まっている。
「―――気に入らないからに決まっているだろ?」
『―――ッ!』
俺の嘘偽りのない本心からの言葉に、会議室にいた全員が目を見開く。
「『虹』が再び構築されようが、
―――だから、倒す。
俺がそう視線で問いかけると―――
「―――うん、いいね! 最高の答えだよ!」
そう言いながら天音が笑い、他の総隊長達も破顔する。
「建前とか全部捨てた答えが『気に入らない』とか子供すぎ! でも、私は良いと思う!」
「俺も同意見だ、司! 共に『女神』に倒そうぞ!」
「……あぁ!」
賭けではあったが、無事、全部隊の協力を得ることが出来た俺は彼らと具体的な案を決めていくのだった。
―――――――――
「まず、今回の戦いで一番重要になるのは当然、大量の【影】との戦闘だ」
聖司の言葉に全員が頷く。
『女神』の力は未知数。故に、今、自分達が考えるべきは無限に等しい【影】との戦闘について。
「物量、という点で私達は簡単に押しつぶされるでしょうね」
「うむ……一匹一匹は大したことがなくても、数で圧倒する。集団戦の特徴だな」
「その圧倒的不利な状況をどう打破するかだが———司、説明を」
「はいよ、っと」
俺は『英雄神話』を解放させ、総隊長達に『英雄の武具』を手渡していく。
「こ、これは……!」
「触れたわけで分かるね……この武器、相当強いよ」
「俺の『英雄神話』っていう『偽神兵装』で、このように他の人にも使えるようにすることが出来ます。これを全隊員に一式渡すっていうのが俺の案です」
俺が考えた案を口にすると、一人の総隊長が疑問の声を上げる。
「でも、『偽神兵装』ってことは制限があるんだろ? 全隊員に渡すのは流石に難しくないか?」
「それに関しては、
「なるほど、って、待ってください……神木理華も参戦するのですか⁉」
「……私としても反対だが、本人が望んだのでな」
聖司の言葉に総隊長達が息を呑む。
『神木理華の参戦』
それは彼女の『偽神兵装』をよく知る総隊長達にとっては朗報だった
「彼女が参戦するのであれば、こっちにも僅かですけど勝機が生まれますね」
「と言っても、娘には後方支援に徹してもらう予定なので『戦士』としての力は期待しないで欲しい」
「いえいえ。むしろ、彼女の支援を貰えるだけ有難いですよ」
口々に賞賛する総隊長を見て、俺は理華が本当に優秀な隊員だったことを実感しながら、話を続ける。
「一先ず、これで【影】との戦闘は何とかなりそうか?」
「ん~、どうだろ。過去の記録を見る限り、今まで私達が戦ってきた以上の強さを持つ【影】が出てきてもおかしくないからね~」
「過信はせず、臨機応変に対応していくしかあるまい」
天音と聖司の言葉に、俺は「だったら」と考えていたもう一つの案を口にする。
「総隊長達にはもう一つ、やってもらいたいことがある」
「やってもらいたいこと?」
「あぁ、これは隊員にはやってもらうつもりはない。総隊長っていう”最強”とも言える称号を持つアンタ達にしか頼めないことだ」
「私達にしか、ねぇ」
「あぁ、アンタ達には―――――――――を頼みたい」
『…………』
俺の考えていた案を聞いた総隊長達は皆、少しの間だけ沈黙した後―――
『え、マジで?』
―――全員が声を揃え、信じられないといった表情で俺を見てきた。
「……司、本気か?」
「あぁ、義父さん。これが出来るようになっておく必要があると思ってるんだ」
「……分かった。ならば、『虹』の崩壊までに出来る限り、私達が協力しよう。皆もそれでいいな?」
全員が首肯を返したのを確認した聖司は、最後に一言。
「では、各自準備に取り掛かってくれ―――頼んだぞ」
『了解っ!』
その一言に込められた万感の想いに、俺達は力強い返事で答えるのだった。
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