第9話 開戦準備(1)


 模擬戦を行った後、俺、聖司、彼方の三人は聖司の自室である総隊長室に集まっていた。


「……ちょっと待ってくれ。つまりは何だ、人類の本当の敵は『女神』という事なのか?」


 俺の目的――『女神』を倒す――や、そこに至る経緯を話すと彼方は頭痛を堪えるかのように頭を押さえる。

 まぁ、そんな風になるよな、と内心苦笑する。


「あぁ。だから、俺は全面戦争を仕掛けるつもりだ」

「……なるほどな。だが、勝算はあるのか? 分かっていると思うが、これまで【影】との大規模な戦争で人類は一度も勝っていないんだぞ?」

「勿論、勝算はある……と言いたいが、ないに等しい」

「ほぼ、ってことはあるにはあるんだな?」


 彼方の問いかけに俺は頷くと『英雄神話』を解放する。


「俺の『英雄神話』は他人に貸すことも出来るんだ―――こんな風にな」


 そう言うと、俺は彼方の身体に先ほどの試合で使った鎧を纏わせる。


「こんなことまで出来るのか……だが、一度に出せる、もしくは貸しだせる数には限りがあるのではないか?」

「まぁな……あくまでこれは神本来の力ではなく、その。故に制限はある」


 だが、と付け加えると、俺は聖司の方へ視線を向ける。


「義父さんと義姉さんの『偽神兵装』を使えば、その制限を一部は取り外すことが出来ると考えている」

「総隊長と、義姉って……理華さんのことか⁉」

「あぁ。この二人による全力の支援があれば俺は無限の『英雄神話』を呼び起こすことが出来る」

「ちょ、ちょっと待て⁉ 理華さんは怪我が原因で引退したはずだ! 彼女も参加するのか⁉」


 動揺した声をあげる彼方に、聖司が落ち着くよう声をかける。


「他ならぬ理華がそう望んだのだ以上、私達に止めることは出来ない」

「ほ、本人が望んだのであれば、仕方がありませんが……」


 そう言いながらも納得できない表情を浮かべる彼方。いくら本人が望んだこととはいえ、危険な戦場に連れて行くのは気が引けるのだろう。


「勿論、義姉さんには後方支援に徹してもらう予定だ。あの身体じゃ満足に戦うことは出来ないからな」

「そ、そうか……なら、大丈夫……なのか?」

「今は考えても仕方なかろう。それよりも他の総隊長にはどう連絡するのだ?」


 聖司の問いかけに俺は一つ、考えていた案を口にする。


「『総隊長会議』をもう一度、開くってのはどうだ?」

「……確かに、それならば全総隊長に協力を要請できるが……」

「総隊長を全員集めること自体、難しいんですよね……」


 俺の提案に二人は難色を示す。

 総隊長は各自の担当地域に常駐し、【影】がいつ襲って来てもいいように備えているため、余程のことでない限り―――それこそ『総隊長会議』のような大規模なイベントでないと全員が集まるのは難しいのだ。


 しかし、俺の頭にはそれを可能にする、ある一つの仮説が生まれていた。


「これはあくまで仮説なんだが……【影】が大規模な侵攻をしてくるようなことはないと考えている」

「ほう……それは何故だ?」

「理由は二つある。

 一つはこれまで大規模な【影】の侵攻は『虹』が崩壊した時にしか起きていない―――つまり、崩壊途中の今なら総隊長がいなくても対処することの出来る段階だと考えたからだ」

「……なるほど。総隊長という強力なカードを使えないだけで、【影】自体はこれまで通り。倒せないことはない、という事だな」

「なら、もう一つの理由は?」


 彼方の問いかけに、俺は少しだけ黙り込む。しかし、ここで溜めても仕方がないと意を決し、もう一つの理由を口にする。


「これは俺個人の見解だが———『女神』は『虹』が崩壊する直前まで待たされることを望んでいると考えている」

「……どういうことだ?」


 首を傾げる彼方に、俺はここに至るまでの会話を思い出しながら話を続ける。


「『女神』は『虹の巫女』が苦しむ姿を見たいんだろうが、同時にと俺は考えたんだ」

「過程?」

「あぁ、『女神』は『虹の巫女』は『虹』になるための生贄だと俺達人類に伝え、苦悩する俺達人類を見て、鹿と心の中で嗤い、愉悦に浸ろうとしている―――というのが俺の見解だ」

「「――――――」」


 俺の言葉に二人は声を上げることが出来なかった。

 「いくら何でもそれは」と声にしたくても出来ない。むしろ、あの『女神』ならやりかねないと二人は同意してしまう。


「ギリギリまで待って『虹』が再構築されたなら快楽嗜虐を、されなかったら適当な数を【影】で掃除殺戮。どっちに転んでも『女神』にはメリットしかないってことだ」

「……否定する余地もないな」

「話せば話すほど、『女神』の性格が破綻しているのを認識してしまいますね……」

「まぁ、それはもう気にしても仕方ないだろ―――ってことで『総隊長会議』、開けるな?」


 確信をもって問いかけた俺に二人は無言で、されど力強く頷くのだった。


―――――――――


 それから、僅か三日後。


 聖司達の手によって、再び『総隊長会議』が開かれ、俺は前回と同じように扉から一番近い席に腰掛けていた。


「おう、司! 今日は先に来ていたか!」


 すると、見知った声と共に肩を強く叩かれる。少しだけ顔を顰めながら、俺は背後に立つ声の主へ挨拶をする。


「……焔総隊長、叩くのはいいですけど、もう少し加減をしてください。ただでさえ馬鹿力なんですから」

「悪い悪い! ついつい力が入ってしまってな!」

「はぁ……」


 相変わらずな態度に俺は悪態をつきながらも、いつも通りに接してもらったおかげで少しだけ緊張がほぐれた。


 そして、予定されていた会議開始の時間になると、彼方が聖司の横で空席のない会議室を見渡す。


「では、これより『総隊長会議』を始めさせていただきます。今回の議題は———『虹』と『虹の巫女』についてでございます」


 彼方の言葉に、一人の女性が疑問の声を上げる。


「どういう事? その話はつい最近したばっかりでしょ?」

「実は新たな情報が手に入りまして、本日はそれを伝えるために皆様に集まっていただきました」


 そう言うと、彼方は俺の方を向く。


「詳しい説明は彼―――神木司がしてくれます」

「どうも」


 椅子から立ち上がり、俺は軽く頭を下げた後、ここに集まった面々の顔を見る。



 そして、今回集まることになった経緯を話し始めた。



~~~~~~~~~


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