第4話 森を抜けて家に帰る


「じゃあ行くか」


 俺は後ろを振り向いて森を出るために歩こうとする。


「あ、っ!」


 アズが歩こうとしたが歩けずに右足を抑える。


「あー、そっか。お前、足怪我してたんだったな」


 俺はアズの足を見る。アズの足は何も履いていないせいで小さな傷がたくさんついている。それはミカも同じだった。


「………よっと」


「うぇ!? な、何やってんだ?」


「お、お兄さん?」


 俺は2人を持ち上げる。これ以上裸足で歩かせると2人の足が駄目になるかもしれないからだ。


「いいから。アズもそうだけど、ミカも足痛いんだろ?」


 俺はミカが僅かに足を引きずったのを見逃さなかった。だから2人が歩かなくても良いようにこのまま運んでいくつもりだ。


「あ、ありがとう」


「ありがとう。お兄さん」


「ああ、それにしてもお前ら軽いな」


 俺はこいつらを持ち上げても思った程の重さを感じなかった。やはり見た目通りに痩せているせいで軽いのだ。


「じゃあ、走るからちょっと揺れるぞ。しっかり掴まっとけよ」


「う、うん」


「分かった」


 2人は俺の服をぎゅっと握る。俺はさっさと森を抜けるために結構早く走ることにした。


「わわ! すごく早い」


「すっげー!」


 2人は俺の服を握って目をキラキラとさせながら周りを見ている。あんまり、体を乗り出すとバランスが崩れるからやめて欲しいが、楽しそうだから言えないな。


「もう少しで森を抜けるからな」


 俺は2人に端的に伝えて森を抜けた。俺は走るのをやめて歩く。もうここまでくれば走らなくても大丈夫だ。


「もう少しで俺の家だ。少し歩くぞ」


 森を抜けてから少し歩けば俺の家だ。そこまで森との距離は遠くないがすごく近いわけでもない所に俺の家がある。


「ほら、着いたぞ」


「これが家」


「…大きい」


 2人は俺の家を見上げて呟く。2人はこう言っているが俺の家はそれほど大きくはない。普通の人が住む、くらいの普通の大きさの家だ。


「ほら、入るぞ」


 俺は2人を抱えたまま家の中に入る。2人は緊張したような顔つきで俺の服を強く握る。


「お前ら体汚れてるだろうし。風呂に入るぞ」


 俺は2人を風呂に入れることにする。ミカもアズも傷だらけではあるがそれと同じくらい泥だらけなのだ。


「え? 風呂?」


「風呂って、あの体を洗う所?」


「そう、そしてここがその風呂だ。ほら、ちょっとここで待ってろ」


 俺は2人を下ろして風呂の準備を始める。風呂場を洗って、湯を貯めているところを2人が後ろから見ているのがなんとなく分かる。


「湯加減は…良い感じだな。じゃあ2人とも入って良いぞ」


「わ、分かった」


「じゃあ、」


「待て待て! 服はそこで脱ぐんだよ。風呂場では服は着ないんだ」


 俺は風呂場に服のままで入ってきた2人を止める。そうか、こいつらは風呂の入り方すら知らないのか。


「しょうがないな。ほら、ここで服を脱いでから入るんだ」


「す、少し恥ずかしいんだけど」


「うん、裸になるのはちょっと」


 2人は服に手をかけてピタッと止まる。どうやら2人は服を脱ぐのは抵抗があるようだ。


「ここじゃ毎日風呂に入るんだからその内慣れる」


「あっ!」


「きゃ!」


 俺は2人の服をパッと脱がした。2人はその場で胸を隠してしゃがみ込んでしまう。ミカとアズには男ならあるはずの物が2人にはなかった。


「お前ら、女だったのか」


「そ、そうだよ」


 ミカは顔を真っ赤にして俺を見る。まだ風呂に入っていないのにすでにのぼせているみたいだ。


「……まぁ、どっちでも良いか」


「ちょっ!」


「えっ!?」


 俺は構わず2人を抱えて風呂場に入る。別にこれくらいの歳の子供は男でも女でもそんなに大差はない。だから別に俺はなんとも思わない。


「ほら、まずはミカからだ。ここに座れ。髪洗うから」


「わ、分かった」


「シャンプーが目に入ったら染みるから目は閉じとけよ」


「うん……」


 ミカは俺の前にちょこんと座る。俺は着ているズボンと上服を捲ってミカの頭を洗っていく。


「良し、次は体……だけどそれは流石に駄目だな。ミカ、これで自分で洗える部分は洗え。」


「これで洗えば良いのか? 分かった」


 俺はミカに石鹸を渡して、もう一つの石鹸でミカの背中を洗っていく。やっぱりこいつらの体は見ていて痛ましい。体は痩せ細っているし、あざもたくさんだ。


「これで終わりだ。風呂に浸かって体を温めな」


「うん、ありがとう」


「じゃ、次はアズだ。ほら」


 ミカが風呂に入ったのを見て俺はバスチェアを叩いてアズを呼ぶ。


「よ、よろしくお願いします」


「はいよ。目に入ると染みるから閉じとけよ」


 そうしてアズも同じように洗って風呂に入れた。


「どうだ? 熱くないか?」


「ああ、気持ち良い」


「うん、あったかいよ」


 2人は肩までしっかりと浸かっている。俺は2人が眠ったり溺れないように見張ることにした。


「さて、あとは服だな」


 俺は2人の体をパッと拭いてこいつらの服をどうするか考える。あのボロ布は駄目だ、あんな物をまた着せる訳にはいかない。


「……しょうがない。ちょっとでかいけど我慢してくれよ」


 俺は自分の服を取り出して2人に着せる。思った通りぶかぶかだったがそれでも前よりかは随分とマシだ。


「……ここからが正念場だ」


 俺は大きく息を吸って吐く。俺はこれからこいつらのことを親に話さなければならない。父さんや母さんに迷惑をかけてしまうと思うと心が痛い。


「……やっぱり僕たちが居たら迷惑だった?」


 アズは不安そうに俺を見ていた。ミカも同じだった。俺に捨てられるとかそんなことを考えているんだろう。俺は2人の頭に手を置いて頭をくしゃくしゃと撫でる。


「わっ! 何すんだ!」


「お、お兄さん?」


「子供がそんな顔するもんじゃない。大丈夫、何も心配することなんかねーよ」


 そう言ってやると、2人はどこか安心したような顔をする。すると玄関の扉が開く音がする。


「ただいまー。あら? ギルー、お風呂沸かしたの?」


 母さんが帰ってきた。俺は2人を連れて母さんの所に行く。母さんはそれを見て固まってしまった。


「え、えぇと。ギル? その子たちは?」


「うん、父さんが来たらそれも含めて全部話すよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界で平和を望む者 クククランダ @kukukuranda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ