第6話
「志賀光蔵さんは、言葉のリズムを大切にする書き手でしてね。俳句や短歌みたいに、五音や七音で区切れるのがテンポ良い、と……。さすがに小説本文まで全部徹底するのは無理ですが、せめて作品タイトルや章題などには、そうこだわっておられました」
羽美が明るい声で説明するのを聞きながら、明田山探偵は頭の中で言葉を並べてみた。『あしたあなたが あいたいと』ならば自然に七音プラス五音となり、確かに『あすあなたが あいたいと』よりは語感が良い気もする。
「京戸さん、叔父は殺されたんですよ。そんな嬉しそうに言うのは、不謹慎じゃないですか」
冷たい声で指摘しながら、羽美を睨む維偉斗。視線に込められた敵意も、先ほど以上に増しているようだった。
「あら、私『嬉しそう』だなんて、そんなつもりじゃなくて……」
「もしかして、あんたが叔父を殺したんじゃないですか? 共同出版に関するトラブルが原因で……」
「なんてこと言うんですか!? そんな恐ろしいことを!」
維偉斗の発言は、根拠も何もない言いがかりに過ぎない。それでもこの場の全員が、殺害の動機として「共同出版に関するトラブル」はあり得ると想像できたに違いない。
もしも志賀光蔵が新作の出版を中止する気になったとしたら、担当者である羽美の立場は悪くなる。それを止めようとして、勢い余って……。
「そもそも叔父は、いわゆるダイイングメッセージとして、わざわざあの本を残したのでしょう? その出版に関わった羽美さん、あんたが犯人だと示す意味だったんじゃないですか? いや『その出版に関わった』どころか……」
維偉斗の口調がヒートアップする。
口に出すことで自分でも曖昧だった考えがまとまって、決定的な新説を思いついた、という雰囲気だった。
「……共同出版、それこそがダイイングメッセージだ! 共同出版に関わっただけじゃなく、あんたの名前にもそれが含まれてるからね! 『
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