ゾンビ免許更新

春雷

第1話

 ゾンビ免許更新の日がやってきた。私はゾンビ免許更新センターに行き、手続きを行なった。生体ならぬ死体データをはかるわけである。データをはかったあとは、写真を撮り、免許が発行されるまでの間、ビデオを見ることになっている。私は、「ゾンビ免許更新」と書かれた部屋に行き、席についた。するといかにもゾンビといった感じのゾンビが現れて、ゾンビ法の改正に伴ういくつかの変更点について解説したのち、ビデオが上映された。

 以下はそのビデオの内容である。


 より快適なゾンビライフを送るために。

 みなさんにはこれから、引き続きよりよいゾンビライフを送るために重要なことをお伝えいたします。


 まずは、ゾンビのスピードについて。

 ゾンビである以上、ゆっくりと歩かなければなりません。早歩きをしたり、ましてや走るなど、言語道断です。いくら急ぎの用事があると言っても、のろのろとした速度を維持するようにしましょう。両手を少し上げると、よりゾンビらしい歩行になります。また、「ああああ」や「ううううう」といったうめき声を出すことも忘れずに。自分はゾンビであると、市民の方々にしっかりと伝わる行動を心がけましょう。


 次に、積極的に、定期的に、人を襲いましょう。

 ゾンビとは恐怖の対象です。ゾンビはその怖さゆえにゾンビたることができるのです。市民のみなさんがゾンビに対する恐怖を忘れないうちに、市民を襲いましょう。集団で襲うとより恐怖感がでるので、おすすめです。夜襲うと、なおよしです。また、その際、市民を噛んで仲間を増やすようにしましょう。たとえば四人家族であれば、そのうち一人だけ、たとえば子供だけはゾンビにせず生かしておくと、ゾンビの恐怖を口コミで広めてくれるため、効果的です。


 また、体のメンテナンスも怠らないようにしましょう。

 ゾンビは人体が損壊、または腐敗していることが恐怖心を煽ります。体が治っていないか、血が通ってしまっていないか、きちんとチェックして、そのつど破壊、腐敗が進むよう調整しましょう。中にはほとんど人間と同じ姿をしたゾンビもいます。それはそれで、市民の間で疑心暗鬼を起こす効果があり、効果的ですが、基本は腐った死体が動いてこそ、ゾンビなのです。基本を忘れずに、きちんとルールとマナーを守って、ゾンビであることに徹しましょう。


 近年では、ルールを守らないゾンビが増えています。走ってしまったり、体をすっかり治してしまったり、スカッシュをしたり、マックで美味しそうなジュースを飲んだり、テニスをしたり、大戸屋で黒酢の定食を食べたり、テニスサークルに入ったり、デイリーヤマザキでパンを買ったり、テニスの大会シニア部門で準優勝したり、コンビニのWi-Fiでアプリをダウンロードしたり、テニスサークルでバーベキュー大会をして、肉を焦がしたあと、テニスをして、スカッシュもやって、爽やかな汗を流したりしています。これは明らかなルール違反です。ゾンビはテニスをしてはいけません。ラケットも持ってはいけません。もしどうしてもテニスをしたい場合は、ゾンビ免許を返納してください。周りにテニスをやりたがっているゾンビがいたら、ぜひ免許返納を勧めてください。


 ビデオは以上になります。みなさまのゾンビライフが、よりよいものになりますように。


 ビデオを見終わった後で、私は、なるほど、テニスって面白そうだなと思い、免許を返納した。そして、プロのテニスプレーヤーになった。

 今や、プロのテニスプレーヤーの八割が、ゾンビ経験者だということである。

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ゾンビ免許更新 春雷 @syunrai3333

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