第10話 ファイナルラウンド

 蛇のような男は楽しそうに笑っている。魔導師を貫いたダガーナイフを一振りし、刃先に着いた真っ赤な血を払った。


 「あは、嬉しいなぁ。これで今日は三人目だ。ああ、駄目だ!興奮しすぎて逝きそうだぁ♪」


 (おいおい、なんだよアレ!完全に狂ってるじゃないか。しかも、三人目って、まさか噂の魔導師殺しか!?)


 青年は、男の雰囲気に完全に呑まれていた。魔女も若干、引いている。


 「ああ、ごめんごめん。君たちのことを忘れていたよ。君たちが、この魔導師を弱らせてくれたんだろう!ありがとう!感謝してるよぉ!」


 男はこちらに気味悪く笑いかけてくる。そして、


 「あれぇ、でもなんだか、この場所に見覚えがあるような気がする。あれぇ、なんでだろう!以前に来たことがある気が…………」


 男はう〜んと考える素振りをみせた。


 「あっ♪思い出した!確か、この森に住む魔女を殺す仕事をした時だ!4年前だっけ?いやぁそんな昔のことを覚えているなんて僕って頭いいなぁ〜」


 魔女の体がぴくりと動く


 「感覚が蘇ってくるよ、魔女の肉を割く感覚!あの時は本当に気持ちが良かったぁ!……あぁでも、不快なことも思い出しちゃった。だって、あのが自分よりも他人を守ることを優先したんだよ。そんなの気持ち悪いだろう?」

 「っ!お前がぁっっっ!!」


 魔女が勢いよく腕を振るった。空気の壁が放たれる。もう魔力は空っぽだというのに、どうやって魔法を使っているのか。


 空気の壁が蛇のような男を襲う。男は「どうしたんだい?」というように飄々としながら、ゆらりと空気の壁をかわした。あまりにも自然。自分が攻撃されたとさえ感じていない。


 魔女は次々に魔法を繰り出す。両腕を突き出し、両手で空気を圧縮するように動かした。すると男の周りに結界が現れ、それが急激に圧縮される。そのままでは、男がぷちっと潰される。


 「おやぁ、これは?」


 そう言って、男はナイフを振るった。刃先が結界を貫通する。そのまま、縦に横にと切り裂いて、「よいしょっ」と結界から脱出する。


(なんだあのナイフは?純粋な魔力でできた結界を切った?いや原理は俺のジェイソンmark2と同じなんだろうけど、それにしたってあの小ささで魔女の結界を切り裂けるのか?)


 義手の青年は考える。結界は純粋な魔力で出来ているため、現実の物質、質量での攻撃では効果が薄い。無いとは言わないが、それこそ魔女レベルの結界を破るには超巨大質量だったり高密度のエネルギーによる攻撃が必要になる。そのため、純粋な魔力には魔力をもって対応するのがセオリーだ。例えば、ジェイソンmark2のような。そして相応の魔力量が必要になるので必然、大型化されてしまう。だが、あのダガーナイフは特に魔石を積んでいたりする様には見えなかった。


 魔女は更に腕を振るう。再度、空気の壁が――出来なかった。魔女は前のめりに倒れ込む。ゼェゼェと荒く呼吸し、目は虚だ。そう、魔女の魔力はとっくに空っぽになっている。ではどうやって魔法を使っていたのか。答えは単純、自身の生命力を即座に魔力に変換していたのだ。まず生命力があり、食事や休息などで余剰になった分が魔力の蓄積に回される、というのが通常である。しかし、魔女はすぐに魔力を使うために、生命維持に必要な分の生命力を魔力に変換した。


 「あれぇ、この結界って何処かでみたことがあるなぁ?あれ、あれぇ?もしかして君って、と何か関係がある?」

「だ、まれぇっ!そ、の汚い口で、お母さんの名前を呼ぶなぁっっ!!」


 そう叫んで魔女は腕を振るう。――魔法は発動しなかった。


 「あはははは!今日は本当に面白い日だなぁ!まさか娘がいたなんて!……あぁ、でもそっか、じゃあ殺しておかなきゃねえ」


 そう言って、男は笑いながら魔女に向かって走り出す。魔女はもう死に体だ。一歩も動くことができないだろう。このままでは、見るも無惨に殺される。



 ――俺は何故か一歩を踏み出していた


 男のナイフが倒れた魔女に振り下ろされる。その間に義手の青年が入り込む。驚く魔女とニタリと笑う蛇のような男。


 「へぇ君は死にたがりなんだねぇ。じゃあ死んでね」


 男は容赦なくナイフを青年に振り下ろす。1秒もしないうちに青年の命は刈り取られるだろう。青年はもう存在しないはずの――を開けるイメージをする



 魔道具が駆動する――何処の?



 魔力の青白い光が溢れ出す――何処から?



 魔力は熱エネルギーに変換されて、包帯が巻かれた青年のに収束する。青年の右眼が熱を持つ。包帯はその熱に耐えきれずに焼け落ちる。


 青年の右眼には、魔道具が一つ埋め込まれていた!



 これには流石の蛇の男も驚いた様子。青年の右眼に集まったエネルギーは熱線となって一直線に蛇の男に襲いかかった。


 「は?そんなのあり?」


 そう呟く蛇の男を熱線が貫いた









 義手の青年は、後方に吹き飛ばされていた。あれだけのエネルギーを放ったのだから反動で吹き飛ばされるのは仕方のないことだ。更には右眼に集めた熱エネルギーのせいで顔の右上は大火傷。仕舞いには、あれほどの魔力を何処から用意したのかと言うと、他ならぬ生命力というわけだ。だから、魔女と同じで青年も死に体になってしまった。







 「おいおいおいおい。なんだその右眼は!かなりイけているじゃないかぁ!そして僕も逝きそうになったわけだ!」


 蛇の男は生きていた。そして何故かとても嬉しそう。男は顔の左下、首の左、左肩から左上腕までに大きな火傷を負っていた。どうやら、体をずらして直撃を避けていたらしい。


 (なんだよ、それ……こっちは自滅覚悟の、カウンター、だってのに、ピンピンして立ち上がり、やがって)


 「ねぇもうないの?奥の手とか切り札とか最終手段とか!あるのなら見せてよ!もっと逝きたいよ僕!」


 そう言いながら近づいてくる精神異常者。


 (残念ながら、さっきので最後だよ、くそっ)


 青年は心の中で悪態をついて、諦める。


 「ホントはまだあるんでしょ!!ねぇ見せてってば!!!」


 男は声を荒げる、瞬間、男の周りに青白い光の結界が現れた。結界は緻密に練り上げられている。すごい魔力密度だ。そして何より


 「三重結界……」


 その結界は三層から構成されていた。この結界は紛れもなく魔女の魔法だ。しかし、彼女は魔力切れで尚且つ生命力もギリギリの状態。


 (いったいどうして……?)


 青年が魔女の方に顔を向ける。するとそこには、倒れながらも魔法を発動する魔女の姿が。その右手の人差し指には、青白く輝く指輪が嵌められていた。


 




 

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