ひとさまのため、学びのため
えっと、何かとても良いことがあったあと、とてもとても嫌なことがあった気がします。ですけど何も思い出せないのはどうしてなのでしょうか? たしか私は久しぶりに外出して突然降り出した雨に……。公園? たぶん公園。そんな場所のぼんやりとした情景がかすかに残っています。
「最近の小学生は、2Bがふつうなのか?」
「うん。4Bを使ってる子もいたけど友だちはみんな2Bだよ。パパの言ってるHB使っている子なんていないよ」
「ふーん。そうなんだ……。時代が変わったのかな?」
「たぶんね。ジダイだよ」
父親と息子の微笑ましい光景ですね。ですけど2Bとか何かの暗号なのでしょうか、聞き覚えのある気もするのですけど。それにしても大きな人たちです。巨人さんなのでしょうか? ん? あ、あっ!? 私がつまみ上げられてしまってます。見えるこの景色は……。もしかして私が縮んでしまった、ああ、そうなのですね。
「これはね、廃材を再利用した鉛筆なんだ」
「あっ、リサイクルだね。学校で習ったよ! この箱のマークはエコマークだね」
「おおっ、ちゃんと勉強してるな、偉いぞ」
「えへへ」
はあ……。どういうわけか私、鉛筆になってしまったようです。まあ、人さまのお役にたてる存在になったのであればそれも良いでしょう。私、これまで部屋に引きこもって社会貢献なんてたいしてしてこなかった駄目なやつでしたからね。
「そうそう、ここからがパパがやらせてみたかったことだ」
「何それ?」
「ボンナイフ。もう廃盤になってて手に入らないんだよ。東京はこれで大阪にはミッキーナイフってのがあってそっちも生産中止になったんだったか。その復刻版が100均にあったんだよ。これで鉛筆を削るんだ」
「へえ。うまくできるかな?」
えっ!? 今なんておっしゃいましたか? ぐおっ、痛い! 止めなさい、痛い、痛いです。肉を削がないで。
「まだ、難しいか……」
「うん。宿題の計算ドリルをする時間が……」
ふうっ、な、なんとか助かったようです。身体の焼けるような痛みは無くなりませんが、とりあえず死なずにすんだようです。
「仕方ないな。削る練習はまたにしようか」
「そうだね」
あれ? 少年何をするのですか? 何ですかその穴は……。私の頭のサイズにぴったりです。あらっ? ちょ、ちょっと、真っ暗です、何も見えませんよー。
「鉛筆削るならやっぱりこっちか。パパは手動のを使ってたな」
「電源いれるね!」
がっ、が、ぎぇ、ぎょえーーーーっ!
一
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます