第2話 どちらに味方するか
行き交う人々と木組みの街並みが視界に入る。
いつもとは少し違う喧騒が鼓膜を撫でる。
「来たんだ……異世界に……」
私……
「中世っぽい景色、レンガ作りの道……全部思い描いてたのと同じだ……!」
感動と喜び、そして高揚のまま、
「……ぃやったーーー!!!!」
突如として飛び跳ねながら叫んだ私に、道行く人々が少しの驚愕と「ヤベー奴がいる」的な目線を向けた。
◇ ◇ ◇
「冒険者志望なら、この先の通りを左に真っ直ぐ進んだ所にある
あの後、一旦落ち着いた後にちょっと恥ずかしくなって逃げるように入った路地で聞いた情報を元に、私は道を歩いていた。
どうやら其処は魔法や剣等の才能を魔道具で測定し、適した役職を選んでくれる、という想像より簡単で便利なハロワ的な所らしく、私も取り敢えず行ってみることにしたのだ。
そうだ、もしかしたら私には隠された魔法の才能があるのかもしれない。無双ものはチート能力以外にも才能開花的なそれもあるし、それならまだ希望がある。
懲りずに皮算用の無双計画を組み立てながら、路地から通りに出ようとした。
その瞬間。
「そこの人!!!頼むから匿ってくれぇ……っ!」
というボリューム抑え目の悲痛な絶叫と共に、目の前に身長175cm程で白髪の青年らしき男が現れ、群衆が行き交う通りから路地の奥へと駆けていった。
「……?」
唐突過ぎるその事態に、私が疑問を呈するより先に。
「ちょっと、そこの君。此方に怪しい……そうだな、雪のような白い髪の青年がこなかったか?」
と言って、見るからに屈強な、大剣を背負った男二人が私に対してそう問い掛けた。
確かに通っていったね。特徴一致してる、見るからに怪しい奴。
でも……どうしようか。これ。目の前の厳ついムキムキマッチョメンと、走り去って行った青年、どちらに味方しようか。
「えーっと……」
私は頬を掻きながら、男達に対してこう言葉を返した。
「……こっちには来てないかもですね……」
沈黙。私の中で勝手に緊張が走る。
男達は、こちらを見て……
「……そうか、クソ……あいつどこ行きやがった……。」
とだけ言い、二人でブツブツと言い合いながら通りを右側に走っていった。
◇ ◇ ◇
「いやはや、君には本当に感謝してもしきれないよ。君が助けてくれなかったら僕は今頃15回位殴られてた。」
男達が去った後、物陰から出てきた白髪の青年は、冷や汗を垂らしながら私に対してそう言った。
膝まで伸びたローブに、長めの革靴。未だ血の気の引いた様に青白くなっている顔は、長い前髪により半分が隠されているもののかなりの美形である事が充分に分かる程に整っている。
「そうだ、名乗りが遅れて済まない。僕はエル。しがない
ウィザード。魔法使い。
まぁそれらしい格好だとは思っていたが、改めて名乗られると、魔術が実在しそれを操る者と邂逅しているという究極の非日常、異世界にいるんだということを実感せざるを得ない。
そんなとりとめの無い思考を他所に、あちらの名乗りに対し私も軽く一礼し、口を開く。
「えーっと、私は乃亜。です。」
「ノア……そうか、良い名前だね。宜しく。」
彼の言葉に対し、洋名っぽい名前で良かった~等と下らない感慨を抱く。
そして、私は目の前の魔術師に、先程から頭に纏わり付いていた疑問を投げ掛けた。
「えっと、エルさんは……何であの人達に追われていたんですか?」
そんな、私の質問に対し─────
「いやはや、これは複雑な事情があってだね……」
「複雑な事情、とは?」
「……まぁ恩人だからな。話そうか。────僕は先程言った様に魔術師だ。それ故に杖を持つ。僕の杖は、いわゆる
「でも、今持ってなくないですか?それ。」
「……そうだね。今もあの酒場にある筈だ。壊されてなければ。」
「……?」
話が読めず、首を傾げた私に、青年は焦るように捲し立てた。
「あぁ、そうだね、出来るだけ簡潔に説明しよう。あの時、僕とあの男達は酒場に居た。その時点では僕も彼等も見ず知らずの他人だった。けれど……」
「けれど……?」
「いやぁ……僕の杖が少し彼等のグラスにぶつかってだね?弁償しろって怒鳴られたんだが、如何せんお金が無くてね……」
「……」
その瞬間、私は心の中でこう叫んだ。
──────味方にする人、間違えた!!!!!!
英雄譚の脱落者 ~転生少女と自堕落魔術師~ だふにー。 @daphne0087
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