第1話 神の慈悲と少女の空論
意識がある。
まず最初に、そんな違和感を抱いた。
私は、あの日の下校中、工事現場から落ちてきた鉄骨に押し潰されて「死んだ」。夢や妄想ではない、確証こそ無いが明確にそれは知覚できている。
それなのに……何故、このような思考が出来ているのか?それどころか、何か床に仰向けで倒れているかのような感覚さえも─────
「……っ!?」
悪夢から覚めるように、私は飛び起きた。
其処は……白色の光が飽和し、無限に続くかのような広がりを見せる謎の空間だった。
「……ここは……?」
軽いパニック状態に陥りかけた私の頭を、「死後の世界」「天界」等といった文言が過る。
そして、それを裏付けるように、私の頭に声が響いた。
「……目覚めたか、少女よ。」
幾重にもエコーがかかった、幼い様にも、、成熟している様にも感じる謎の声。
それが、「神」……或いはそれに準ずる超存在であることを、私は理性の外にある第六感らしきもので確信した。
神の声は続く。
「……名前は、
「へー、やっぱり死んでたんだ、私……ってことは、ここは天国……それか地獄なの?」
こんな一人の女子高生風情に、神が返答をする可能性なんてあるのか、なんて無粋な思考を追いやって、私は言葉を紡ぐ。
すると……予想とは異なり、神は少しの沈黙と共に私の質問にこう返した。
「……否。ここは天国でも地獄でもない。……いや、善悪で道を決める場ではない、と言った方が適切だろうか。」
成る程ね、と呟き、私はその言葉に対して更なる疑問を投げ掛ける。
「……じゃあここは、どういう場所なの?後、貴方は誰?そして私は……これからどうなるの?」
神を質問攻めにするなんて、罰当たりも良いとこだな、と心の中で自身に苦笑したが、神は律儀にもその全てに答えた。
「うむ……順に説明しよう。ここは[再誕の場]。人にはどうしようも出来ない因果によりまだ若い命を失った者達が行き着く場所である。」
成る程、不運にも事故死した子供が死後に来る場所ってことね、と自分の中で分かりやすく言い換えて、更なる説明を待つ。
「私は、[再誕の場]にたどり着いた魂を、第2の生に導く者。……まぁ、人々が良く想像する神格存在の一種だ。」
やはり、この声の主は……神だ。
遅まきながら沸き上がる畏敬と神聖さに薄ら寒さを感じつつ、私はどうしても気になった言葉について指摘する。
「第2の生……って何?私は生き返れるの?」
「それは今から話そう。……結論から言えば、君があの世界に蘇ることは不可能だ。不幸な因果の巡り合わせと言えど、それもまた世界の
「……」
冷酷にも感じる、神の宣告。どう返して良いのか分からず、私は沈黙する。
「……しかし。蘇れないというのはあくまで、あの世界での話だ。。」
「……!?それは……どういう……?」
「死者が蘇れる、その概念と方法が理として存在する世界になら、お前はその魂と身体、そして記憶を保持したまま新しい生を受けることが出来る。」
先程の畏怖とは違う、別の感情が私を震わせた。
高揚、そして未知への好奇心。
かつて抱いた夢想の扉が、すぐ目の前にある事への感動。
「そう、君達の言葉を借りるなら、異世界への転生だ。」
「……嘘……」
異世界。剣と魔法が織り成すファンタジーの世界。
誰もがそれを夢見た。まさか……自分がそこへ降り立てるとは!!
興奮を抑えられず、私は異世界転生ではお決まりの「アレ」について問いかける。
「つまり、アレでしょ!!!!チート能力とか最強武器で無双出来るんでしょ!!!!魔王を倒す勇者の伝説の主人公になれるんでしょ!!!」
そう捲し立て、私は神の肯定と、羅列されるチートスキル一覧を幻視した。
しかし……
「……はぁ。ここに来る者達は、いつもそうやって言うのだ。」
神は、何か疲れたようにそう言った。
その声色は、思ったより人間臭くて、それが尚更私の無双計画に不穏な雰囲気を漂わせる。
「……私が与える能力は、あの世界での言語と読み書きをこれまでの母国語の様に認識し行える、只それだけだ。怪物を豆腐のように切り裂く魔剣も、闇の軍勢を薙ぎ払う大魔法も存在しない。」
「……え。」
間抜けな声を出し、私は神の言葉をどうにか理解しようと試みた。
つまり、チートスキル無双は出来ない。思い描いていた最強伝説は所謂「捕らぬ狸の皮算用」だった。
残酷な事実を前にして、無様に硬直する事しか出来ない私に、神はとても有難い慈悲の言葉を投げ掛けた。
「……まぁ、頑張りたまえ。」
「嘘でしょおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」
眩い光に包まれて、私は3割くらい望み通りの異世界転生を果たした。
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