英雄譚の脱落者 ~転生少女と自堕落魔術師~

だふにー。

プロローグ ある少女の終幕、そして黎明

乃亜のあっち、今度の金曜の放課後さ、カラオケいこーよ。」


 誘い方がギャル過ぎるだろ!

 というツッコミをなんとか心の中だけに留め、私は友人の言葉に「OK、金曜ね~、予定開けとく」と当たり障りの無い返事を返した。そして出来る限りの明るい笑顔で手を振り、逃げる様に教室から出る。

 直後、間違っても友人に聞こえない様に、私はボソボソと独り言を呟いた。


「どうせ私は、ドリンクとお菓子を食べながら相槌と少しの茶々を入れるだけの人間なんだから……誘わなきゃ良いのに……」


 正直、あの友人の誘いに応える度に鬱々とした気分が膨れ上がっていくのを感じる。あの手の人達は大人数で騒いで遊ぶのがステータスだと思っているのか?理解が出来ない。


「はぁ……」


 どうせそんな事思っても言い出せない癖に、と自分を貶し、溜め息を吐く。

 肩に掛けた学生鞄スクールバッグが、先程より僅かに重く感じた。



 ◇ ◇ ◇



 夕暮れ、街並みから陽光が薄れ、代わりに人工の光が視界に台頭し始める、その境界。

 いつもと変わらない大通り。いつもと変わらない下校時の風景。

 明日が来ることを疑わず、意識すらしない。そんな日常。


 後10分程で家に着くだろうか、なんとなくそう意識した瞬間に。


 ガッシャァァァァァァン!


 鼓膜を打つ騒音。



 その時、日常が永遠に消え去ったことを、私は何故か理解した。



 自身に落ちる影、大きな物体が風を切る音。

 ビルとビルの間に反響する喧しい金属音の中に、「危ない────」と、誰かの悲鳴と絶叫が、嫌に明瞭なボリュームを保有して私の耳に届く。


 それのせい、と言う訳では無いが、私は咄嗟に上を見上げる。

 その視界に入ったのは。


 赤みがかった大空と。



 私に落ちる、巨大な鉄骨。



「──────ぁ」



 反射的に叫ぼうと、空気を吸った私の体は。


 ───────鈍く光る、鋼鉄の塊に押し潰された。



 唐突すぎる「終わり」に、まとまった思考すら出来ず。


 プツン、と電源が消える様に、私の意識は暗転した。



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