ユリスカ
小仲翠太
はらってもはらっても消えぬユリスカに命の重さを問われておりぬ
右の目にユリスカ一匹まよいきて我の視界に羽をやすめる
はらってもはらっても消えぬユリスカに命の重さを問われておりぬ
目に入れても痛くも痒くもないユリスカ、ときにおまえの出自はどこだ
消しゴムをかけるみたいにこする目になかったことにできない記憶
照準を合わさせまいと逃げ回る羽虫が出ようとせぬ世界線
「目の端に虫」とたたけば痒くなる程Googleに「飛蚊症」の字
我の見る風景、我の読む文章、我の闇をも飛蚊が覗く
虹彩に映るすべてを捉えんと留まる羽虫に覚える愛着
Googleで調べてDeeplで訳して答え合わせをするクリニック
ユニフォームだろうか眼科の受付嬢二人そろって眼鏡をかける
瞳孔を開かせますよと目薬をさされ海へとしずかに沈む
Delキーを押すよう閉じた目を開ける 変わらずシュールな現実世界
Cだけでないアルファベットがランダムに直立している視力検査器
覗くだけで良いと言われて覗く穴 一軒家が立つ地平線の先
Décollement du corps vitréデコルモンデュコーヴィットレ(硝子体剥離)と告げられし我が目に寄生する羽虫の名
「治りません、でも気にならなくなりますよ」先生につられ笑ってみせる
治療法もなく処方もなくただ水を飲めと言われて終わる診療
入室から退室までに十五分七五ユーロをカードで払う
開いてるままの瞳孔で外に出る ぐわんと歪む初夏の街並み
砂漠にも飛ぶのだろうかユリスカは ステンレスボトルの水を飲み干す
ユリスカ 小仲翠太 @OnakaSuita22
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます