第2話 制圧

〜前回までのあらすじ〜

 病室で目覚めた主人公・獅伝 開(しでん かい)は、事態を呑み込む暇もなく、戦いの渦中へと引きずり込まれて行くのだった・・・。

 


202X年6月X日

T都M区


 この日、警視庁警備部機動隊・左門 耕作巡査は、特級事案と呼ばれる事件で現場に駆り出されていた。


 特級事案とは、地球外生命体や未確認生物が街で暴れた場合、その生物の排除を任務とする自衛隊が現場に到着するまでの間、市民の避難誘導や、場合によっては、対象へ火力による制圧を試みるという事案である。

 

 ただ、制圧を試みた場合、機動隊の火力では返り討ちに合う事が多い。

通常の機動隊員は、ヘッケラー&コッホ社のMP5と呼ばれる小銃を装備しているのだが、それでは威力が弱い。

 その為、特級事案に対応する機動隊員には、米軍も仕様するコルト社のM4と呼ばれる小銃が支給されており、M4は、MP5の約3倍の威力がある。だが、それでも威力が足りない。制圧できるとしてもせいぜい小型の個体で、それ以上になると歯が立たない。

 当初発生していた特級事案の対象は犬ぐらいの大きさで、小型と分類されていた。しかし、最近発生している特級事案の対象は人と同じ大きさで、中型と分類されている。

 つまり、現在支給されているM4では、中型の対象を制圧するには威力が足りないのだ。人のレベルで例えれば、MP5はデコピンぐらいの威力しかなく、M4は顔面を平手で叩くぐらいの威力しかないからだ。

 

 「おい!左門!ボケっとするな!やつが来るぞ!」

 「えっ・・・あっ、はいっ!」


 先輩機動隊員の鈴木に活を入れられ、左門は現実に引き戻された。今、左門は、路上に止められた車の陰に先輩と一緒に隠れている。普段は取り締まり対象である迷惑な路上駐車も、この時ばかりは敵の攻撃から身を守る、非常にありがたい防御壁となるのだ。


 「(クソー・・・!地元じゃなくて東京で採用されて、成り行きで機動隊に入ったけど・・・おれはこんなバケモノとやり合う為に警官になったんじゃねぇぞ・・・!)」


 心の中でそんなことをぼやきながら、左門は敵に反撃する機会を伺っていた。


 「おい左門・・・おれがヤツに攻撃している間に、おまえは後退するんだ・・・!」

 「いや、何言ってんすか先輩!先輩を置いていけませんよ!」

 「いや・・・あいつにM4じゃ通用しねぇし、残弾もねぇ。おれ達二人で残りの弾浴びせたところで、せいぜい一時足を止める程度だ・・・であれば、おれがヤツを引き付けている間に、おまえは後退して大勢を立て直してこい・・・!」

 「・・・くっ・・・先輩、死なんでくださいよ!」

 「へっ・・・よし!行け!左門!」

 「はいっ!」


 鈴木が車の陰から勢いよく飛び出すのと同時に、左門は姿勢を低くし、走り出した。

 鈴木は中腰のまま、敵にM4の照準を合わせ、引き金を引いた。


 「くらいやがれー!」


 小刻みに弾薬が弾ける音が響いた。弾薬の音を背にして、左門は必死に走った。先輩が体を張って作ってくれた時間を、無駄にするわけにはいかないからだ。


 「(先輩・・・!頼みます・・・!)」


 先輩に背中を託しながら、左門は前だけを見て走った。が、背中から頭上にかけて一瞬何かの気配を感じ、左門を黒い影が包んだ。何が起きたかを考える間もなく、上空から目の前に”ヤツ”が立ちはだかったのだ。


 「・・・嘘だろ・・・」


 眼前にいる敵になすすべなく、左門は絶体絶命の窮地に立たされたのだった。

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