妖石

稲荷先輩と廊下ですれ違ったことはあるが、近くで見たのは初めてだ。

(綺麗な顔……)

ぱったりした鮮やかな赤い瞳に、ふわふわの金髪。小さな顔にすらっとした身体は、まさにモデルのよう。こんな綺麗な男のひとがいるんだ、と思う。女子達に囲まれ、困惑して苦笑しているの眩しく見える。

「珍しいね、稲荷先輩の方からうちら二年の教室に来るなんて」

「二年の方から行ってることは何度もあったけどね…」

結衣の言葉に私が苦笑しながら返す。

そんな事を話している間に、稲荷先輩は女子生徒達に囲まれてすっかり見えなくなってしまった。

「せんぱーい、誰かに用事ですかー?」

「うん、人を探してるんだけど…」

「誰ですか!?」

「私呼んできましょうか!?」

我先にと手を上げて自分の存在をアピールする女子生徒達。

そんな生徒たちに対して、稲荷先輩は笑顔でさらっと爆弾発言を投下した。

「えっと……鈿女彩葉さん、って子なんだけど」

「………」

「え、鈿女…さん?」

予想外のところから自分の名前が聞こえてきて思わず絶句してしまう私と、困惑している女子生徒達。

待って、鈿女彩葉?稲荷先輩今ほんとに鈿女彩葉って言った??

「え、あの、もう一回お願いしても……」

稲荷先輩の周りにいる女子生徒の一人が、そう聞いた。

うん、だよね、流石に間違いだよね…?

「鈿女さん。鈿女彩葉さんだよ。今教室にいる?」

私の願いも虚しく、ご丁寧に私の名前を繰り返してくれる稲荷先輩。他の女子の名前なら嬉しさで発狂してただろうけど、私は悪目立ちが嫌過ぎて発狂しそうだ。

「…彩葉、ファイト」

小声でめちゃめちゃ目を輝かせて応援してくる結衣。そんな結衣と真逆の鋭い目つきで睨んでくる女子生徒達。


どうしよう、私の学園生活終わったかも……








_放課後、屋上にて。


「お、お待たせしました…」

「大丈夫、時間ぴったりだから」

そう言って私に微笑みかける稲荷先輩。

だ、ダメだ、イケメンの笑顔が眩し過ぎる……

「ごめんね、わざわざ呼び出しちゃって」

「い、いえいえ…!寧ろ助かりました!」

結局教室で私を呼び出した稲荷先輩は周りの女子達を見て、『こんな人の多い所じゃ言えない事だから』と放課後屋上に呼んだのだ。

でも、正直私も助かった。

(あのまま周りの女子達の視線に耐えられる自信、なかったし…)

稲荷先輩が自分の教室に帰って行った後、私は稲荷先輩好きの女子達にめちゃめちゃ詰められたのだ。でも何も心当たりなんて無いし、ましてや話した事すらない。一度だけ廊下ですれ違ったきりだし、そんなの向こうは覚えていないだろう。今日がほぼ初対面だ。

学園の王子が一体、何の用事で私を呼び出すんだろうか。

「…それで、今回呼び出した理由なんだけど」

「は、はい!」

真剣な表情で話し出す稲荷先輩に、思わず私も背筋をピンと伸ばす。

次の瞬間、稲荷先輩は予想外過ぎる言葉を発した。


「君は、そのペンダントについて何処まで知ってる?」

「…はい?」

予想外過ぎて、思わず間抜けな声が出た。

「ペンダントって、この無色透明の石のついた…?」

私は首から下げた母の形見ペンダントを見る。

「そう。それは君の母上が残した、大切な〝妖石〟なんだ」

「ようせき…?」

「君は選ばれし〝巫女姫〟の血を引く娘だから、その石は君に託された」

先輩は次々に訳の分からない言葉を述べる。

ハッキリ言って怖いとすら思う。

そもそも、みこひめ とか ようせき とかなんの事?何でほぼ初対面の先輩が、私の母の事を知ってるの?

「僕の役目は、代々巫女姫を守る事。だから……」

「あ、あのっ!」

「え?」

なんだか恐ろしくなって来て、稲荷先輩の言葉を遮る私。

「ごめんなさい!私、バイトがあるので一旦失礼します!」

別にこれは嘘じゃない。ただ、バイトまでまだちょっと時間の余裕があったが、そんな事は言ってられない。私はそう言って一目散に駆け出す。先輩が私を呼び止めて、まだ何か言っているのが聞こえたが、心の中で謝りつつ振り向かずに屋上を後にした。

(あーいうのなんて言うんだっけ…厨二病…?兎に角、あんな訳わかんない事急に言われても怖過ぎるんだけど…!!)



「ちょっと鈿女さん!今日は危険だ、待って…!」

僕の声に振り向きもせず、鈿女さんはあっという間に走り去り、見えなくなってしまった。

「クソッ…!最近は良からぬ〝あやかし〟達が動いてるっていうのに…」

…いや、こんな所で一人で悔しがっても仕方がない。取り敢えずに連絡を取ってみるか。

そう思って僕は、スマホを取り出してとある人に電話をかけた。

「…電話して来たっつー事は、例の巫女姫、説得出来たんだろうな?」

電話をかけるなり、いきなり苛立ち気味の男の声が聞こえる。相変わらずマナーのなってない奴だな…と呆れつつ、僕は『…いや』と返事をする。

「逆だ。正直に説明したらヤバい奴だと思われて、鈿女さんに逃げられた」

「はあああああ!?!?!?!!」

電話越しにも関わらず、耳がキーンとするような大声を出す男。

「なんで正直に話したんだよ!!そんなん警戒されるに決まってんだろ馬鹿が!!!!」

「はあ……お前が正直に話せって言ったんだろ、バカ也」

呆れ声で僕がそう言うと、男は先ほどよりも大きな声でこう返す。

「オレの名前はな・る・や!!石紅鳴也いしべになるや!!よーく覚えときやがれクソ狐!!」

「僕の名前はクソ狐じゃない」

「はいはい、そこまでよ」

アイツの低いドス声から、澄んでいて綺麗な女の人の声に変わる。

小さくアイツの『あ…おいテメェ!返せ!!』という声が聞こえるが、女の人は聞こえないふりをして続けた。

「取り敢えず、今から鳴也と私で其方に向かうわ」

その後に、『は?オレも!?』と続くアイツの声。

「貴方は彩葉さんを追って。あの子が襲われたら大変な事になるから」

「大変どころじゃないですよ…取り敢えず、鈿女さんの気配を辿ってみます」

「ありがとう、朝香。今屋敷には鳴也と私、それと鈴音しかいないのだけど、他の非番の〝守護隊〟の子たちにも連絡取ってみるわね」

「何から何まで本当にありがとうございます、みやびさん」

「ふふ、お礼は後よ。取り敢えず貴方は、早く彩葉さんを追って頂戴」

「了解しました。では」

そう言って僕は電話を切った。


「鈿女彩葉さん………君は絶対、僕たち〝守護隊〟が守る」

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貧乏JK、巫女姫になる。 鏡崎ユミ @kagamizakiyumi

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