第6話武術に心得のある綾音ちゃん
「どういう事リウたん? ここは綾音ちゃんの方がドキッとする場面でしょ?」
テンに言われて少し考えてみる。よくある少女漫画のそれだと、大抵の場合は何故か男子と目が合ってドキッとして……
あれ? なんで私、こんな人にドキッとなんてしたのかしら……?
みたいな展開になったりするもんじゃない? 今のどこに好きになる要素あったの? みたいな。顔か? 大体みんな顔が良いからドキッとしてんのか?
「うーん……本当は少女漫画みたいに、女の子の方から恋に落ちてそれをお手伝いする展開がしたかったんだけど……仕方ないわね」
誠に残念だけど仕方ないわ。私のプランからは外れたけど、これはこれでアリ。ヤンキーくんが真面目ちゃんに恋する展開なんてのも可愛くって良いじゃない!
「それにさ、冴島琥生、なんか人が変わった感じしない? 急に童貞臭い反応になったというか……」
「うーん……確かに最初に見た時とはだいぶ印象が変わったわね……」
私は彼らの頭頂部を見下ろしながら考える。確かにテンが干渉するまでは悪魔みたいな人相してたし、実際にバットでいじめられっ子に良からぬ事をしようとしてた。でも今の冴島琥生と言えば、自分より明らかに握力のなさそうな女子にオロオロしているわ。
「考えられる事は一つね。テンが
「えーでも今まで何回か入った事あるけど、人格に影響を与えた事なんかなかったよ?」
「それはきっと干渉された人間側の問題だと思うわ。なんやかんやいって、冴島琥生って純粋な所もあるのかもしれない」
そんなもんなのかなーとテンは首を傾げているけど、この仮説は概ね間違っていないと思うわ。効果がどこまで影響されるか分からないけれど、この世の全ての悪を寄せ集めた様な姿形をしていた頃よりずっとマシね。これなら綾音ちゃんもきっと彼を好きになってくれる筈……
「さっき見てたけど、あなた武術に心得があるの?」
「は?! な、なんだよ急に」
「私、休みの日は映画を観て過ごす事が多いの。さっきの動き、カンフー映画で見た」
ん? 綾音ちゃん、何言ってるの?
「は?! 知らねえよ! なんだよ急に」
「やっぱり。そのガタイは見せかけね」
起き抜けで何がなにやら分かっていない冴島琥生に向かって、綾音ちゃんは真顔で辛辣な言葉を浴びせる。流石の冴島琥生も、さっきまでのトゥンク……は鳴りを潜め眉間に深い皺を寄せているわ。綾音ちゃん、急にどうしたの?
「そんな見せかけの筋肉して……いじめなんてする暇あるなら、その筋肉を活かして引っ越し屋のバイトでもしてた方がよっぽど有意義だわ」
「てめえ……! 黙って聞いてりゃあ……!!」
「私は強いものが好き。だから弱いものいじめをして優位に立ってる人間が嫌いなの」
そう言って綾音ちゃんは踵を返して去って行ってしまった。眼鏡をキラリと光らせて、黒髪をなびかせながら去って行く姿は、何故かとても強者のオーラを感じる。
「リウたん……綾音ちゃんってあんな子だったっけ? なんかもっとモジモジオドオドしてる子じゃなかった?」
「冴島琥生だけに留まらず、もう一人のターゲットもクセありみたいね……普段の大人しい雰囲気は仮の姿なのかもしれないわ……」
入社してうん十年……5年連続営業成績トップの数字は、今だ誰も塗り変える事の出来ない立派な勲章。先輩達から綿々と受け継がれてきたテンプレマニュアルのおかげで、今日もそこかしこでテンプレだらけのベタベタ展開が起きているわ。
そんな中、なんか微妙にズレている今回のターゲット達……
私の冬のボーナスの為、そして何より愛するエロス様の為……
この仕事、絶対にクリアしてみせるんだから!!
テンプレだらけの世界でテンプレが効かない2人にテンプレエンドさせたい話 佐和己絵千 @sawakikaichi
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