第5話トゥンク…
「忘れてるって?」
今だに
「リウたん、いじめを止めたらなんでもお願い叶えてくれるって言ったよね?」
うう〜喋り方はいつものテンだから気持ち悪い〜! タンとか呼ばないで欲しいわ……
不味いわね、思ったより約束の効力が残ってるみたい。テン一人ならなんとかねじ伏せられるとは思うんだけど、この大男を相手にやり過ごすのは難しい……? いや、まだこいつのお願い事を聞いてないわね。一応聞いておく? どうせ碌な事言わないと思うけど。
「それで? テンのお願いってなんなの?」
チラッと私の胸元に目をやるテン。言わなくても分かる。本当に最低な天使ね! やっぱり禄でもないお願いだったわ。いくらフィクションとはいえ、天使として、一人の女として、こんなクズの為に尊厳を捨てる様な真似はしたくない……! 私、負けない……!
「その、おっぱい触りたいなぁ~って……」
流石のテンですら、少し言い淀むのね。ふん、結構じゃない。営業成績トップの座にかけて、この仕事は絶対に落とせない。そのためには、このクズの協力は必須条件。この難関、波風を立てずにやり過ごしてやろうじゃないの!!
「いいわよ」
「え?! いいの?! じゃあ……」
「ストーップ! 何も今すぐじゃなくたって良いじゃない? 時間はたっぷりあるのよ?」
私がそう言うと、明らかに不満げな様子のテン。いや、正確には冴島琥生に入ったテンなんだけど。冴島琥生の口先が、もう不満と分かるくらい唇を尖らせている。見た目が完全にカタギじゃないから、そんなブリっ子したって全然可愛くないんだから。
「テン、良いこと? 私達の目的はあくまで今回のターゲットの恋を成就させる事。今切れかかっていた糸を繋ぎ止めた所なの。これから二人は恋に落ちる。そのお手伝いの為に私達はここにいて……」
「ダアーーーーー! くだらないお説教は聞き飽きたよ! 約束を違えるなんて言語道断! こうなったら無理矢理にでも触ってやる!!!」
「ちょ?! テンやめなさい?!」
完全に我を忘れたテン(冴島琥生)が私に掴みかかろうとしてくる。私はこの俊敏な羽根を使って上手いこと避けるんだけど、血走った目の冴島琥生は最早そこらのホラー映画より怖い。
「ほんとにもう、いい加減に……!」
「ひゃっ?! 木人拳?!」
突然真横から女の子の声が聞こえてた。そこに立っていたのは、もう一人のターゲットである優月綾音。綾音ちゃんは両手で口を抑えて何やらびっくりした様子。てか、え……? 何? 木人拳? 聞き慣れないんだけど。
「あ、やっべ……!」
ドゥルン
綾音ちゃんに見られて驚いたテンは、冴島琥生の身体から勢いよく飛び出した。その瞬間、冴島琥生は身体を仰け反らせてその場に倒れてしまう。なんかあの効果音と共に身体から抜け出てくるの、気持ち悪いわね。されてる本人もゾワッてしてそう。
どうやら綾音ちゃんには冴島琥生が一人校舎裏で謎の武術の特訓をしている様に見えたみたい。それもそうよね、私の姿は彼女には見えないんだから。今はいきなり倒れた冴島琥生に驚いてオロオロしている。
「え、あ、え……? だ、大丈夫ですか?」
「り、リウたん。僕やっちゃったかな……?」
心配そうに冴島琥生に近付く綾音ちゃんを
「やっちゃってなんかないわ。むしろ、これはチャンスよ! 二人を引き合わせる事が出来たんだから!」
少々荒っぽい方法ではあったけど、なんとか二人は出会う事が出来たみたいね。
「ん……」
「あ! 冴島琥生が起きたよリウたん!」
頭を抑えながらむくりと起き上がる冴島琥生。その姿を心配そうに見ている綾音ちゃん。来たわ……何度経験しても心が躍る。人が恋に落ちる瞬間。
「テン……聞こえる……聞こえるわ。綾音ちゃんの胸の鼓動……少女漫画でよくある展開、パチリと目があった瞬間、恋に落ちるアレよ!! 今まさにこの瞬間、綾音ちゃんの胸がトゥンク……って……」
トゥンク……
「聞こえた! リウたん! 僕にも聞こえたよ!!! でも……んん? 今の胸の鼓動って……?」
「お、おい何だよ?! 急に?! 顔ちけーよ!」
バクバクバクバク……!
「「いや
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