第4話テンの力
「り、リウたん……今なんて……?」
「だから、あのいじめを止めてくれたら、あんたのお願い聞いてあげるって言ってんの」
「
「但し1個だけね」
「……言ったな? その約束、違えないでよね?」
なんでもという条件がついた事で俄然やる気に燃えるテン。瞳孔バキバキでさ、気持ち悪いのよ。まぁ、後輩のおしりを叩いてやるのも、良い先輩の役目よね。こいつが希望するお願い事なんて禄でもないのは確定だけど、そこは長年営業成績トップを走って来た私。どんな要求が来ても上手く躱してやるわよ。
「リウたん見ててね! 僕行ってくるよ!」
「行ってらっしゃ〜い。頑張って〜」
手をブンブン振りながら、テンは一直線に学生達の群れの中へと突っ込んで行く。あの子、あんな俊敏な動きも出来るのね。ふーん。
「てぃや!!!!」
「ぬぁあ゛?!」
入った。ところてんの逆バージョンみたいにドゥルンって感じで、テンが冴島琥生の体の中に入って行った。入られた側の冴島琥生も、何かしらの違和感を感じたのか変な声をあげている。
そう。テンの力とは、人間の体の中に入って直接干渉する事。これが出来る天使はそう多くない。一応、みんな子供の頃は出来るらしいんだけど、大人になるにつれて出来なくなっちゃうみたい。つまりテンはまだ子供なのよ。頭がね。
でもこの能力の凄い所って、入られた相手の思考や行動の全てを自由自在に操れる事なのよ。なんで今回、私がテンとパートナーを組みたがったのか理解出来た? この力があるから。この力がなかったら、あんな低俗な天使となんて絶対に関わりたくなんかないわよ。
「こ、琥生さん? どしたんすかァ! ほら、ちゃんとバット持って!!」
「……すご」
「え?」
「すっごいよリウたん! 今まで入ったどの人間よりもすっごい! なんか力がみなぎってくる!」
ああ! バカテン!
「テン! ちゃんとやりなさい!!!」
「あ、そっか!」
私の声は人間達には聞こえていないから、今の冴島琥生は端からみたらただの変人。意味不明な言葉を叫んだかと思えば勝手に納得している様に見えるわね。ほら見て。周りの舎弟みたいないじめっ子達もドン引きよ?
「琥生さん……マジで今日どしたんすか? 腹痛いとか……?」
「ん? ああ、まぁな。そんな事よりお前ら、いつも
テンが真面目に冴島琥生になりきっている。それにしても声が低いわね。あんなフレッシュじゃない高校生、絶対に嫌なんだけど。
「へ? いつもって……俺達琥生さんに言われて……」
「じゃあ今日からいじめは無しだ。その代わり、明日からお前らデュエルしろ」
「デュ、デュエル?!」
「そうだ。デュエルしとけば大抵仲良くなんだよ。明日から、この校舎裏で毎日デュエルな? ちゃんと自分のデッキ組んどくんだぞ? お前もだからな?」
テン、こと冴島琥生はいじめられていた男の子にも目を向ける。見た目はヤンキーを通り越してヤクザだから、男の子もビクビクしているわね。
「え、僕も?」
「そうだ。お前なんかデッキ組むのうまそうだし、友達とか居ねえんだろ? ここらで友達を作れ。でもシャカパチはするなよ? あれやるとキレる奴もいっから!」
「は、はい……」
いじめられっ子も舎弟達も、いまいち状況が読み込めていないみたいだけど納得はしてくれたみたい? ほ。良かった。これであの子がこれ以上傷付かなくてすむわね。
******
「よくやったわテン。やれば出来るじゃない♪」
「えへへーリウたんもっと褒めて〜」
「その姿でデレデレするのやめてよ。なんかキモくて怖い」
誰も居なくなった校舎裏。冴島琥生の中に入ったままのテンが嬉しそうに体をクネクネしている。仮に今の姿を見られたら、私の姿は人には見えないから本当に変質者。
「それにしてもなんでデュエル? いじめをやめさせるにしても、他に言いようがあったでしょ?」
「だって人間の遊びってデュエルしか知らないんだもん! 前に担当したカップルは四六時中デュエルしてたよ? シャカパチはその時覚えたんだ〜」
「ふうん……シャカパチの意味は分からないし興味もないけど、これでひとまずは安心ね!」
「ところでリウたん、大事な事忘れてない?」
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