第3話金髪バチクソヤンキー

 テンの提案で、私達は校舎裏へと移動した。もう一人のターゲット、冴島琥生さえじまこうを確認する為。彼に関しても特段、名前以外の情報は開示されていないので、自分達の目で見て確かめるしかない。全く、こんな所はアナログよねー。テレワークが出来ない理由がこれなのよ。結局現場に行かないと始まらないの。


「リウたん、その冴島ってどれ?」


 テンが指差す先、校舎裏には複数の生徒がいる。みんな校舎の壁の方を向いてるから、顔がまるで見えない。……ん? 待って、何か聞こえる。


「うらぁ! グダグダ行ってねえで出すもん出せっつーんだよ!!!」

 


「ちょ、ちょっとあれって……?!」


 よく見たら校舎の壁に追い詰められる様にして縮こまる一人の少年。見るからにいじめられっ子って感じの見た目ね。じゃなくって……!


「ね、ねぇリウたん。あのいじめられっ子が冴島琥生なのかな……? だとしたらヤバくない? イジメは天界でも犯罪だよ……?」


「あんな複数で寄ってたかって一人を追い詰めるなんて! なんて悪い奴らなの?! 琥生くんを助けてあげないと……」


 私達の任務は、人と人を繋ぐ事。もっぱら恋愛がメインだけど、犯罪は見過ごせないわ! なんとか干渉して、あれを止めないと……!


「も、もう勘弁してください……持って無いものは持って無いんです……」


「ああ?! 聞こえねーなぁ?! てめえ、あんま舐めた口聞いてっと、もぉっっと酷い目に合わせるぞぉ〜いいのかぁ〜?」


 琥生くんに詰め寄ってる男、なんて悪い顔してるの?! この世の悪を全て寄せ集めた様な顔してるわ! ……は! もしかして悪魔が干渉しているとか?! 最近大人しくしてると思ってたけど、こんな所で悪事を働いていたのね?! ならば容赦する必要はないわね……。えっと、天使のお仕事道具セットの中に、確か悪魔退治用の十字架とかあった筈だけど……


「リウたん見て! なんかボスっぽい奴が出てきた!」


 テンが指差す先に、一人の男。金髪オールバックで、学生とは思えない程バッキバキに身体が仕上がっている。ワイシャツの上からだって分かるわ。あの厚い胸板……。只者じゃないわね。


「あ! 琥生さん! チーッス!」


「え??? 琥生? 今あのいじめっ子、琥生って言わなかった?」



「なぁに……やってんだよ……?」



 琥生さんと呼ばれていた金髪バチクソヤンキーは、これまた高校生らしからぬ渋い声で下っ端っぽいいじめっ子達を見下ろしている。え、本当にちょっと待って。あれが今回のターゲット、冴島琥生なの? どう見たってカタギじゃないじゃない。名前からして、多分18人は殺ってるわよ? 人生の半分以上ムショで暮らしてそうな見た目じゃない。


「リウたん、もしかしてあのヤンキー、あのいじめっ子を助けに来たんじゃない?」


「! そうよ! きっとそうだわ!! 恋愛物のテンプレ、悪かと思ったら見た目が悪なだけで中身はいい奴! その見た目で勘違いされがちだけど、ヒロインだけはその優しさに気が付いているってやつよねーー! なあんだ、心配して損しちゃった! これで私の連続営業成績トップの座はゆるが……」


「面白そうじゃあねぇか……俺にもやらせろやぁ……」



「全然いい奴なんかじゃない!!!!!」



 金髪バチクソヤンキーこと、冴島琥生はいじめっ子の持っていたバットを引ったくる。な、なんて邪悪な顔……! てかここはお約束でしょ?! 何見た目通りの行動とってんのよ?! 見た目も悪くて素行も悪かったら、ただの悪い奴なのよ! 趣旨変わっちゃう! このお話の趣旨が変わっちゃうじゃない!


 ポロン♪


 その時、私の会社用のスマホが鳴った。軽快な音とは裏腹に、画面に表示されたのは優月綾音ゆうづきあやねと冴島琥生のカップリング度を示すパーセンテージ。今どこまで二人の仲が深まっているかを可視化出来る優れ物なんだけど、マ、マイナス?! まだ出会ってもいないのに既に破綻のカウントダウンが始まっているって言うの?!


「テン! このまま行ったら、二人が出会う前に恋が終わっちゃう! そんな事になったら、私の連続営業成績トップの座が……! なんとかしないと!」


「えーでもリウたん。どうやってあれを止めるってのさ? あのヤンキー、今にもいじめられっ子にバット振り下ろしそうな勢いだよ?」


「あんたのがあるじゃない! 今こそ使う時よ!」


 そう、テンはただの天使じゃない。他の天使が使えない能力を持っている子なの!


「え、やだ」


「は?」


「だあってぇ! 面倒くさいんだもん! それに、アレ使ったら結構疲れるんだよ? リウたんは見てるだけだからいいかもだけとさ、僕は実際にんだよ? そんな、面倒くさ……」


「あんたが力を使ってくれたら、一つだけ願いを叶えてあげる」


「!!!!」



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