第2話黒髪地味眼鏡女子
「あれが今回のターゲットの一人、優月綾音、16歳よ」
私が指差す先、下校時刻をとうに過ぎて、人もまばらになった校舎から出てきた一人の少女。彼女が今回のターゲットの一人だ。肩にかけたスクールバッグの持ち手を、両手でギュッと握りしめながら、トボトボと歩いている。
「あの子かあ〜! なんか、地味め? 黒髪で眼鏡で、見るからに気が弱そう」
「うんうん♪ まさに王道のヒロインって感じよね♪ 一件すると、あんな感じで恋愛とは無縁そうな女の子が、ある日突然恋に落ちる展開って、まさに少女漫画の鉄板よね!」
「でもさ、あの子こんな時間まで何してたの? もうとっくに下校時間過ぎてるじゃん?」
テンにそう聞かれ、私は会社用のスマホを取り出した。ここには、今回の仕事に関するありとあらゆる情報が入ってくる。えーっと……優月綾音の数時間前の記録は……
「クラスの女子に、図書委員の仕事を押し付けられたみたいね」
「うっわー。もう分かりやすくいじめられっ子じゃん! 面倒な仕事を全部押し付けられてるとか!」
「これだけじゃ判断のしようがないけど、頼まれると断れない性格みたいね。まさにヒロインって感じ」
ホッ。良かった。今回の仕事もまぁ楽勝ね。恋愛物のテンプレその1、主人公は不遇な方が良い、よ。
あ、今のは恋愛テンプレマニュアルに記載されている王道パターンの一例よ。大人しめの子にありがちな、頼まれると断れなくて無理しちゃう性格。このパターンの子って、相手もフォローに入りやすいから、自然と距離が近くなりやすいのよねー。
「見えたわね」
「え? 何が」
「この子のパターンよ。あれくらい分かりやすい子なら、この後の展開も容易に想像出来るってもんだわ。相手の男がどんなタイプかまだ分からないけど、概ね私の中では、もうハッピーエンドまでのプランは見えてるわね」
「リウたん流石っ!」
フッ……そんなの当たり前じゃない。私はこの会社の
「ねぇねぇリウたん、なに一人でブツブツ言ってるのさ?! それで? 相手の情報は?!」
「ちょっと! 少しくらい、事前に渡された資料に目を通しておきなさいよ?!」
「だあってぇ! 仕事中はそんな時間ないし、定時後は仕事の事なんか1ミリも考えたくないんだもん!」
プク〜っとほっぺたを膨らませてみせるテン。ぱっと見は可愛いショタにしかみえないけど、こいつは社内の女の子全員に警戒されているくらい、性の欲が強い。天界のエロコンテンツだけでは飽き足らず、人間界のコンテンツにまで手を出しているという噂。特に日本のコンテンツが至高だとか。だから今回も、担当する現場が日本だった事もあって大喜びしてた。
はっきりいって私はこいつが嫌いなんだけど、私の出世には欠かせない存在なの。こいつの
「まったく……1日1回でもいいから、仕事に活かせそうな勉強とかしなさいよね? そんなんじゃ社会人失格よ?」
「リウたんはすっごいよね! 毎日色んな勉強してて! なんだっけ、じこけいはつぼん? そういう、文字ばっかの本読めるの格好良いよ!」
「え? そう? テン、あんたってお世辞が上手いのね。今読んでるのは人間界の恋愛指南書よ! アマゾネス恵って人が書いた、アマゾン流! ワイルドな女になって意中の彼を落とそう! ってやつ! なんか途中から、ワニの解体方法とか説明しだしたけど、人間ってこんな遠回りな方法から恋愛のアプローチをするんだなって思って、すっごい勉強になるの!」
「ふ、ふうん……」
私が嬉々としてアマゾネス恵の本をテンの目の前に出したってのに、テンったらまるで興味なさそうね。こういう、屈強なボディラインの女性は好みじゃないのかしら?
「それより、もう待ちくたびれたよ! リウたん! もう一人ってもうとっくに帰っちゃったんじゃないの?!」
「そんな筈は……今GPSで確認する……まだ学校にいるわよ? 校舎裏にいるみたい」
「待ってても埒が明かないよ! ちょっと見に行こ!」
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