テンプレだらけの世界でテンプレが効かない2人にテンプレエンドさせたい話

佐和己絵千

第1話テンプレ実況天使

「テン! 見てみて! あそこの二人、桜の木の下で告白してる……! 鉄板ねぇ〜〜〜〜この高校にもあるんだね、桜の木の下で付き合ったカップルは、永遠に結ばれるってやつ! あれさぁ、気を付けないと、時期によっちゃ、毛虫が上から降ってきたりして危ないわよねぇ。漫画やゲームでは綺麗な景色に描かれてるけど、実際は落ちた花びらが腐って茶色くなって地面にベッタリ……なんて事もあるから、あの場で告白は、結構ハードル高いと思うのよ」


「うう……、ボクもう眠いんだけど……一体いつになったら今回のターゲットが現れるのさ?」


「ちょっと! テンったら、私の名前はリウ! 勝手に変なあだ名つけないでよ。こう見えて私、1万飛んで35歳よ? もう立派な大人なんだから、なんて変な呼び方しないで! あんたも、1万飛んで23歳なら、もう少しシャキっとなさい?」


「うー。リウたん厳しい……営業成績トップのリウたんとパートナー組めたのに、全然良い事ないよ! お腹空いたし、ターゲットは来ないし、眠いし……ボクもう帰りたい!」


 私ははぁとため息をついた。私達二人は、今とある定時制高校のグラウンドが見渡せる木の上に、もうかれこれ3時間はいる。私のパートナーであるは、抑えの効かない子供みたいにブツブツ独り言ちながら、目の前の木の葉っぱをムシムシしている。葉っぱにも生命があるんだから、やめなさい。


 全く、子供っぽいのは見た目だけにして欲しいものだわ。私達は天使。大人になっても殆ど見た目は変わらない。だから私もテンも、人間から見たらほんの子供に見えるわね。まぁ、見えたらの話だけど。


「あんた、それでも全世界幸福舎の社員なわけ? 我が社は老舗中の老舗よ? あんたみたいに意気地のない子が、よくこんな超有名企業に入れたわね?」


「ボク、外面はいいからね! それにここに入れば、一生女の子に困らないと思ったんだ! だのに、入社して最初にパートナーになったのがおっさん天使だよ?!」


「おっさんかどうかは分からないじゃない。私達、見た目変わらないのに」


「分かるよ!! もう加齢臭? みたいなのしてたし! それに、ボクは女の子のパートナーになりたかったの! おっさんと二人、オタクカップルの縁繋ぎなんてまっぴらだよ! あいつら二人でデュエルしてた! 彼氏が大会に出るとかで、おにぎり作って応援してたよ?!」


「いい彼女じゃない」


 そう、私達の仕事は俗に言う縁繋ぎ。恋愛の神様エロスの化身として、世界各地の人間達をカップルにするのが役目。最近は少子化なんて言われているけれど、こうやって私達が裏でせっせと縁繋ぎをしている現実も知って欲しいものね。


「てか、そのおっさん天使とパートナー解消して私の所に来たんでしょ? 良かったじゃない? ほら、私女の子よ〜」


「それが一番問題! せっかく童顔爆乳天使とパートナーになれたってのにさ、リウたんおっぱい触らせてくれないじゃん!」


「触らせる訳ないでしょ?! いい? 私達、全世界幸福舎は、恋愛の神エロス様の化身として、生涯忠誠と純潔を誓った……」


「うわーーーーー! もう! エロスとか言わないで! そのワードでもうおかしくなりそう!!!!」


 全く……これだから童貞は。確かに、今時の天使は純潔なんか守ってない。みんなそこかしこでヨロシクやってるわよ? でも私は、この身を全て捧げているの……エロス様にね。大体赤ちゃんや子供の頃の絵を使われがちなエロス様だけど、今の姿を見たら、きっとみんなびっくりするわ……。フェロモンだだ漏れの超絶イケメンなんだから。この会社で営業成績トップを維持し続けて、いつかエロス様に謁見を賜るのが、私の夢。その為なら、こんな童貞猿天使とだって、喜んでパートナーになりますとも。ええ。


「ほら、テン。ぐずぐず言わないの! どうせ今回の仕事だってすぐに終わるわ。この通りに仕事をこなせば、あとは待っていたって勝手にくっつくんだから」


 そう言って、私が取り出したのは、2024年度版恋愛テンプレマニュアル。これには、ありとあらゆる恋愛のテンプレ展開と、その展開へ持っていく為の方法が載っている。過去のデータをもとに、ほぼ毎年改訂が行われている、私達天使にとって切っても切れない大切な資料。そして、微力ながら、私もこのマニュアルの編纂に携わっているの。なんてったって、5年連続営業成績トップだからね。現場作業だけじゃなく、後進の育成にも手を抜かない。これも全て、エロス様の為よ。


「でもさあ! そのマニュアル通りになんていかない事もあるんじゃないの?」


「テン、あんた何も分かってない。マニュアル通りにのよ。仕事なんてねぇ、マニュアル通りにやってれば誰だって出来んのよ。たまにいるでしょ? 私がいないと仕事がまわらないの〜っていうバカ。あれ大抵勘違いだから。そいつ一人がいない事で仕事がまわらなくなるなんて、会社として破綻してるのよ。誰でも出来る様にする。それが仕事よ」


「り、リウたん! 格好良い……!」


 フッ……また一人、迷える後輩天使くんを導いちゃった……かな? これでまた一歩、エロス様に近付いたと言っても過言ではないわ。


「まぁそんな訳で、今回もサクッと仕事を終わらせて、祝杯でもあげましょ? テン、頼りにしてるわよ? あんたにもが出てくるんだから」


「まかせてよリウたんっ! ボク、今回の仕事、一生懸命やるからね! ちゃんと見ててよねっ」


「あ、そんな事言ってる間に、来たわよ! 今回のターゲットの一人、優月綾音ゆうづきあやねよ!」

 

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