グロウアップ・エクスプレス:引きこもり少年、ロードバイクで未来を拓く
品川あきら
第1話 "あれ"との出会い、そして再開
いつからだろうか?俺、回夜蒼太郎(まわりやそうたろう)が変わってしまったのは。いつからだろうか?世界がこんなにも暗いと思ったのは。俺はずっと暗い性格だったからそう感じるのかもしれない。今ではそんなくだらない事ばかりを考えている引きこもりの中学三年生だ。
幼稚園から小学校までは普通に過ごしていたんだ。だが、小学五年の終わりに幼馴染の神谷晃太(かみやこうた)が親の仕事でイタリアに引っ越してしまった。俺としんちゃん(神谷のあだ名)はいつも一緒だった。公園で遊んだり、家でゲームをしたり、毎日が楽しかった。
「あの頃は良かったな...」俺はため息をついた。イタリアに引っ越すと知った瞬間、膝から崩れ落ち、何も考えられなくなった。それからの三年間、友達もできず、成績も振るわず、いじめに耐えきれず、引きこもってしまった。最初はまだ「耐えれる」と心の底からそう信じていた。そんな地獄の日々についに俺の心の器にも限界が来たのか、「ピキッ」とガラスのように割れて俺はその日からろくに家に出ることができなくなった。しかし母は俺の話は全然聞かず、
「早く学校に行きなさい!!」
と俺に怒鳴るだけだった。
そんな酷いことを言われ、さらにやる気をなくした俺の生活は朝遅く起き、ゲームをして昼食を取りyoutubeをみて、夕食後amazon primeでアニメを夜遅くまで見る。そんなニートと変わらないものだった。そして今日も同じような一日が続くはずなのだが...
ピンポーン!
真夜中、突然家のインターホンが鳴った。こんな遅い時間に配達だろうか?いや、そんなことは俺には関係ない。「無視、無視」と思いアニメを再生する。
ピンポーン!
ピンポーン!
うざい。こんな夜中に連打するのは何者だと腹立たしく思いながら、家の窓から玄関前を覗く。
「えっ、は??」
俺は混乱していた。それは混乱を超えて感動を覚えるくらいのものだろうか...
そこには俺は目の前にもう二度と会えないと思っていた“あの人”がいた。
「しんちゃん!」
と心の内から思わず叫んだ。そう俺の幼馴染、そして俺の最高の親友である「神谷晃太」が俺の玄関前にいるのだ。俺はせまっこい部屋を飛び出し、まるで飼われた犬が玄関に向かいに行くように興奮しながら玄関に向かった。
やっと。やっとこの日が来たのかと。思わず涙ぐみそうにもなったが、再開早々に涙を流すのもどうかと思ったのでパジャマで涙を拭い、玄関扉のドアハンドルを強く握りしめた。バクバクと心拍が鳴っている...緊張してるんだなぁと改めて実感した。
ゆっくり、ゆっくり扉を開けようとすると...
ガタ!ドン!
と俺に強い痛みが襲い、低い打撃音が響いた。
「いっててて...」
「何やってんだ、お前。」
昔とは変わった、すこし大人びた顔面が上から見下ろしている...
「お前さ、子犬みてぇだな」
とにやりと悪い顔で笑っていやがる。
というか、なんで慎重に開けたのに盛大に転んだのか?思い出してみると、一瞬の速度でしんちゃんがドアを引っ張ったのだ。
「おい!神谷!なにすんだ!」
と俺は早々に怒った。
「まったく。ばかだなぁ、蒼ちゃんは。」
と軽くあしらわれ、
「この痛みぃ!かしこみかしこみ謹んで、お返し申す。」
と某映画のセリフでぽんぽんと軽くたたいた。
しんちゃんは前までの悪い笑顔がさわやかな笑顔になっていた。
俺も自然に笑っていた。久しぶりに。引きこもってから、忘れていたことがあると思った。それは笑うこと。その久方ぶりの感情は感じてとても嬉しかった。しかし、こんな自然に笑うということも忘れていたのかと悲しくもあった。
今は、今だけはこの再開を祝おう。単純にうれしかった。すこし間が空き、
しんちゃんは真剣な顔に戻り、こう俺に言った。
「ずっと待たせて悪かった。蒼ちゃんにずっと会いたかった。」
「……っ」としんちゃんはぽろぽろと涙をこぼした。
「俺もだ。俺...」
感情がこぼれすぎて上手く言葉にできない。いまにも目から涙が落ちそう。でも、これだけは。これだけでもいま伝えなくては。
「おかえり。しんちゃん。」
言えた。この日、この言葉をどれだけ待ちのぞんたか...
二人は、濡れた顔をふき取る。
「蒼ちゃん、たくさん家で話したいことがあるけど、街をいろいろ回らないか?」
そうか。久しぶりのこの故郷だからいろいろ思い出しながら回りたいのだろうと思った。引きこもってから今まで、プライドが許さず外は出なかったが、今はどうでもいい。なぜなら、神谷晃太がここにいるから。ここから俺たちの物語は始まるそう確信した瞬間だった。
あれ?いま気づいたのだが、しんちゃんはどうやって俺の家まできたのだろう?
なんせこの町は電車もろくに通らない町だ。普通なら、車で来るはずなのだが...
車もバイクもどこにも見当たらないのだ。
「ところでしんちゃん、どうやって空港から家まで来たの?タクシー?電車?まさかヒッチハイク??」
しんちゃんはきょとんとしていた。そして聞きなじみのない単語がこちらに飛んできた。
「ロードバイクだ。空港から、片道90kmだった。」
「ろ、ろー、ロードバイク??」
「ああ、自転車って言えば分かるか。」
「あーね、自転車ね。。。って、自転車で90kmだって!?」
へっ???こいつ今なんて言った??自転車って...
「って、、、ええええええええ!?」
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