第一部

夜明けのハーブ

マロウブルー 1

 この喫茶店には様々な種類の飲物がそろっている。一般的な珈琲から紅茶、緑茶、ハーブティーなどその種類は数百にもおよぶ。

 日本では緑茶が主流ではあるが、世界的にみると最もメジャーなのは紅茶だといえる。

 一方で歴史的に見て、紀元前から存在していたといわれているのがハーブティーだ。そもそもハーブティーとは、ペパーミントやカモミールなど「ハーブ」と呼ばれる植物を煎じ、煮出した飲み物のことを指す。

 この店でもハーブティーは取り扱っているが、注文されるお客様はとても少ない。

 ここ最近はハーブの仕入れ量が極端に少なくなっている。

 ハーブの入った棚には小さなビンが並んでいるが、そのどれもが随分と前に仕入れたものだ。ドライハーブであれば2年ほどもつ。


「キュー」


「どうしたんだい、リーナ」


 リーナがカウンターに段ボールの箱を押して入ってきた。

 見覚えのあるその箱は昨日届いた新しいハーブだ。

 すっかり開けるのを忘れていた。


「ああ、ありがとうリーナ。お客様の案内、よろしくね」


「キュー」


 するとリーナは店の小さな入り口から外に出た。

 彼女が出た後、ドアがしばらく前後に動いている。そこからオレンジ色の光が店に刺した。もう夕方のようだ。

 閉店時間もそろそろ近づいてきているため、カッターを取り出し、箱を開けてみる。

 梱包材の奥にパックに入った例のハーブが入っている。以前に一度だけ飲んだことのあるハーブティーだ。


「なつかしいなあ……」


 そのまま棚にしまい、箱を処分するため店の裏にもっていく。

 店の裏には小さな倉庫があるが、ここはもう段ボールのごみでいっぱいだ。


「そろそろ片づけないと…」



 カランカラン



 カウンターに戻ろうとしたその時、店の入り口のベルがなった。どうやらリーナが見つけたようだ。

 急いでカウンターに戻るとそこには制服姿の学生の姿があった。

 長い前髪に丸眼鏡をかけ、カバーのかかった本を片手に持つ中学生ほどの少女だ。細い手足に以上に白い肌。対照的に感情の色は暗く、どこか悲しい色をしている。

 

「いらっしゃいませ。純喫茶ノワールでございます。どうぞお好きな席におかけください」


「……」


「どうかされましたか?」


「あっいや、えっと……あの、白とオレンジの狐を追いかけてたらここに来ちゃって……か、帰りたくても道がわからなくて、道をお聞きしたくて……」


「なるほど、そうでしたか。その狐というのは…リーナ!」


「キュッ」


 床から軽くジャンプをして僕のカウンターの目の前に座る。


「この子のことですか?」


「あっ、はい、この子です。でも、どうして……」


 今日もお客様を迎えられたことに胸がキュッとした。

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