丁寧なくらし(短歌二十首連作)

浦本 立樹

丁寧なくらし

アンテナに登れるほど身軽でして今日は花火が上がってもいい日


ひとり歩きが踏む葉が赤くなればクジラの潮吹きは宇宙まで


祭りの喧騒をこわがる犬を抱いて足許の少しだけ浮く


十字路でじゃあねと別れし児らをみるわれは湿った石像である


アメリカの迷惑電話で起きる深夜まっくらな窓をそっと開ける


古いアパートのトイレにまで行って捨てたし耳の生えたわれの心


布団のなかは閉園のディズニーランド足の裏には毛は生えない


必要なものが私にだけない感覚その天国は真空


ハサミに浮かぶ錆のにおいはいつかの私が流した血のにおい


非力な私たちにまとわりつくバスルームやプールの毛髪は虫


Memorabilia 歯ブラシ・ラブレター・ドラゴンの習字バッグ・あなたの唾液


飼い犬を呼ぶ低い声はわれのものだと雨のなかで気付くこと


雨が降る前のしんとした町の旗の音をわれと犬は聴いて


「にっぽんの祭りはすでに廃れたね」と言って少女は風車に息


街灯がチカチカする時間帯にわれの扉に蔦は巻きつき


犬の目線でホバリングする羽虫「飛んだとしてもいいことはない」


先生になりたいという君の夢に入って昨夜お酒を飲んだ


死ねバカと言う男の低い声は静かな部屋を漂い消える


こどもたちが雨を理由に帰ってもずっと残っている花のおうち


血管を血がとんとんと通る音われの半分は死体である

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丁寧なくらし(短歌二十首連作) 浦本 立樹 @taz_ura

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