第15話
しずかな雪山の氷の張った湖の岸辺にルエル・アータは着陸した。
雪がほんのりとつもった岩肌に、ちいさな洞窟があった。
洞窟のなかは、ランプの明かりがつづいていた。
しばらくすすむと、銀色のとびらがみえた。
地下に向かうためのエレベーターのようだ。
「湖の底の下には、空洞が広がっている。そこにつながっているんだ」
エレベーターが降下する間、黒騎士は、他国のミサイルについておしえてくれた。
原子力をエネルギーにするそのミサイルは、破裂すれば、生命を一瞬で塵にする。
人類の英知の結晶ではあるが、崩壊の象徴でもある。
各国のスパイが情報をぬすみだし、ミサイルは量産体制に入った。
「帝国が火種を作った。そして、発火装置を握りしめているのも帝国だ」一度導火線に火がつけば、それは一瞬にして燃え上がる。
報復の嵐にのみこまれ、星は火の手につつまれる。
膨大なエネルギーは、生き残った命をおびやかす。
汚染された物質が大量にふくまれていて、土壌と大気をよごし、星を壊す。
「異端竜は破壊を司る竜だ。だが、母なる星には敬意を払っている。星を壊そうとするなら、それは母殺しと同意だ。俺様は、特攻覚悟でミサイルをせん滅を敢行する」
よくわからないけど、こわかった。
ふるさとの町が、火に包まれる光景をおもいだす。
眠るまえの安眠をさそう、ちいさな火が、私は好きだ。ほのかな温かさは、花白のてのひらのようだ……。しかし、私は氷竜とともに生きている。火は、氷を溶かすものだ。氷竜は破壊のための火をおそれ、飛行をおそれる。
「黒騎士なんとかして」
「尽力するが、難しいだろうな。竜の時代は終わった」
「でも、花白がいっていたよ? もう、竜殺しの兵器は、争いの象徴になるから、廃棄されたって。なら、黒騎士を倒せる人はいないんでしょ?」
「俺様たちの英竜戦役は、おままごとでしかない」ズンと不快な振動とともに、エレベーターは静止した。自動的にとびらがひらくと、青白い光の空間があらわれた。「おまえは、アリが喧嘩しているところにトカゲがあらわれたらどうおもう?」
その空間にあったのは、十個の水色のカプセルだった。
大人がひとり入れるほどの大きなカプセル……。透明な液体でみたされている。そのうちの七つには裸の人が眠っている。
「このエレベーターは内側からロックがかかるようになっている。地下奥深くに眠っている空間だからな、よほどのことがないと侵攻できない。百年前の貴族が、竜を恐れて作った、避難用のシェルターってわけだ」
「黒騎士、この人たち、死んでいるの?」
「あぁ、俺様が殺した。生命維持装置のスイッチを切ったんだ」
黒騎士は、カプセルのちかくにあった、キーボードをカタカタと操作した。
「
「冷凍睡眠……」
「このシェルターへの侵攻は容易ではない。だれにも妨げを受けることなく、眠ることができる。彼らは自らの富と命を、よりよい時間軸にシフトすることにした。今がだめでも、百年後なら、平和な時代がおとずれるかも、そんな願望をもった。だが、人間はそんなに長く生きられない。そこで彼らは、莫大な金をかけ、科学者たちに、代謝機能と細胞劣化を凍結させるシステムを作らせた」
(は……?)
「百年前の危険だった戦役時代は眠りにつき、未来の平和な時代に起きたかったんだよ、この貴族たちは。
氷漬けの状態で肉体を保管すること。
それを冷凍睡眠という。
俺様も百年、ここで眠っていたんだ」
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