第14話

 また別の非番の日、部屋の鍵が解錠され、黒騎士がおとずれた。

 休みの日なのに、やはり仮面をつけていた。

「その仮面洗ったら? かっこつけてるんだろうけど、くさそう。花白にお願いしておこうか」

「俺様のこの黒仮面は三十セットもあるから心配に及ばん。それより出かけるぞ。あの伝説の自動飛行機『ルエル・アータ』をチャーターしておいた」



 運転手を必要としない、自動飛行機――『ルエル・アータ』


 帝国の権力者の緊急避難用快速飛行機。

 あらかじめメモリに記憶された場所なら、ボタン一つでむかうことができる。

 武装はないが、機動力に優れているため、追撃を容易に振り切ることができる。

 所有権は帝王にあるが、先の戦いで武勲をあげた黒騎士には、当機体の鍵をあたえられていた。

 黒騎士はコックピットのボタンを操作した。「帝王はメンテナンスを怠っていた。その間、この機体は俺様の私用のための竹とんぼになった」

 ルエル・アータが浮上し、速度が安定すると、黒騎士は私のとなりにすわった。

「な? 簡単だろ」

「電子レンジみたい~」

 窓の外に、三角形のものがみえた。それは山の頂上だった。山にふりつもった雪が、すごいスピードで後ろにながれていく。鳥は、いつもこの景色を味わっているのか? それから、竜も。

「どこにいくの? 宇宙?」氷の上をすべるような、無重力な浮遊感をかんじる。どこまでもいけそう。「私は町のパンケーキ屋さんにいきたいけど」

「タイムカプセル……かな」黒騎士がいった。「外に出たいのか? 兵士付き添いでなら外出できるよう、俺様が取り計らってやる」

「黒騎士もいっしょにいこうよ」(財布係兼荷物運びにしてやろ。無駄に筋肉あるから、等身大パンダのぬいぐるみ運べそう)「プロテインくらいならおごってあげる」

「ガキにおごられる趣味はない。とおもったが、パンケーキなら食いてーな」



 しばらくの間、黒騎士は直近の戦いの己の武勇伝を語っていた。

 つまらなかったので、あくびをしながらきいていた。黒騎士は肉を切り裂く快感と、血管ごとの血しぶきの差異について、それはそれはうれしそうに語った。

「あの」話はさらに逸れ、英竜戦役の時代の武勲にまで遡ろうとしていたので、私はストップをかけた。「花白のこと、ありがとう」

「ン? あぁ、慰安業務はさせないって約束したからな」

「どうして私に優しくしてくれるの。やっぱりロリコンだから?」

「『保護』のためさ」

(ロリを保護するとかだいじょうぶかな)

 だけど、きっとそういう意味ではない。私と彼は、同族だ。

「『異端竜』と呼ばれているそうだね。黒騎士の竜は」

「その名前をきくのはひさしぶりだな。百年前にはそう呼ばれていた。だれからきいた?」

「老いぼれの白オオカミがよろしくといっておった。なぁ、私も、黒騎士の竜と仲良くなれるか?」

「ウーン」黒騎士の仮面の目の部分から、禍々しい邪気の光がこぼれでている。

 遠目から、それこそ空からみつめれば、涙のしずくのようにみえるかもしれない。

 竜が泣くのか、しらないけれど。

「イヤ、無理。俺様は昔、脳を壊された。残った竜には理知がなく、破壊衝動と欲動のみで活動している。いずれ俺様の体も宿主であると忘れ、食い散らかすだろう」

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