第12話

 銀椿の塔の頂上で、異端竜は、たった一頭で大軍と戦った。

 銃弾飛び交う空を優雅にとびまわり、急降下して、敵兵の肉をえぐりとった。

 塔は血飛沫でよごれた。夕陽が銀椿の塔をてらしていた。


 戦いを終え、異端竜は、血を洗い落とすため、海へむかった。


 その海では、新兵器「竜殺しの銀刃」を矢じりにした弓兵が、船にのって竜狩りをおこなっていた。





 英竜戦役の序盤は、人類は竜に蹂躙されていた。

 ミスリルの刃も、熱で固めた鉛玉も、硬質な鱗をまえに傷一つつけられない。

 強力な牙と爪によって、兵士は次々に死んでいった。


 さらに彼らは、異端な人々に血を与え、交配を行い、竜人を作り出していった。彼らは高度の力を有しているだけでなく、人の姿をしているため、敵味方の区別がつかず、人々は疑心暗鬼に陥ったという。


 人類の逆転のきっかけとなったのは「竜殺し」の鉱石の発見であった。

 月のない夜にもそれは妖しくかがやき、ふしぎと、みつめた人々の心をとらえ離さない。ハンマーで叩いても、加熱しても、変形する様子がない。だが、ふしぎなことに、調理用の刃物には、適していなかった。動物の肉を切り裂こうにも、野菜のいらない根を切り落とそうにも、途中で、鈍らにすがたをかえる。

 試しにその鉱石を用いて竜討伐の武器を作ったところ、鱗を易々と切り裂いた。


 とある酒酔いの自称哲学者は、竜の肉を「竜殺し」で切り分け、ステーキにしながら「ホッホッホッ……この刃には神が住んでおるのぉ」といった。とある異端の科学者はステーキを「竜殺し」のフォークで刺しながら「では、神は竜は必要ないと?」といった。とあるお腹のでた政治家は「そんなことよりお前ら、さっさと税金納めろ」と竜の血液で作った酒を飲みながらいった。


「竜殺し」の刃でつらぬかれた心臓は、闇が深い夜にも、金色にテカテカとかがやいていた。歌人はそれをみて「竜には涙をためる袋がないのですって。きっと、涙で濡れているのね」といった。


 腕力では竜に到底及ばなかった人類だが、知恵のほうは遥かに上回っていた。数々の罠や作戦を駆使し、竜の強靭な力を無効化し「竜殺し」の武器で殺傷した。

 害虫駆除でもするように、竜殺しのハードルは落ちていった。


 異端竜の最期も、この「竜殺し」の武器によるものだった。


 異端竜は、海を飛行中、竜たちの悲鳴をきいた。

 眼下をみると、子供の竜が、翼をうちぬかれ、海におぼれかけていた。

 一頭だけではない。何十頭もの竜が、海流に飲まれながら、必死にあがいている。

 同胞を助けようと、異端竜は高度をさげた。ひとりの弓兵が「竜殺しの銀刃」の矢で異端竜の脳髄を撃ち抜いた。

 竜は悲鳴をあげながら墜落し、海に飲まれ、みえなくなった。

 

「こうして竜を討伐し終えた人類は、戦争への戒めと、死者への弔い、それから不戦への誓いのため、『竜殺し』の兵器をすべて廃棄し――」

「……zzz」

「コラー! 姉さん、なに寝ているんですか!」

「ふわぁ! だいじょうぶ、ちゃんと起きているよ! 花白が宇宙妖怪ウサギノドンを、聖剣ニンジンブレードで真っ二つにしたんだよね」

 バン! 

「すごいキレそう」花白は机を思いっきりたたいた。眼球は赤く血走り、今にも破裂しそうになっている。

(聖剣の切れ味の話? ……あのギコギコナイフと、どっちが切れ味いいのかな?)

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