第11話
今日は非番の日だ……。
んー暇だ。
ちぎれたぬいぐるみの腕を修繕しよう。
とおもったけど、なにをどうまちがえたのか、腕が四本になったので、やめた。
しかたなく、テレビショッピングをみる。
(キッチンナイフの紹介だ……。ギコギコはせず、スーッとなめらかにパンを切ると紹介しているけど)
「スーッと!」
(すごいギコギコしている……切れ味悪そう。ノコギリとして紹介したほうがいいんじゃないかな?)
「今なら特別価格! このキッチンナイフ二本セットで、このお値段! さらに今だけ送料無料!」
(……買っておこうかな。請求先は黒騎士にしておこう。アイツ、刃物とか好きそうだし。私を助けるってことは、アイツ、ロリコンだし、プレゼントっていえばよろこびそう)さっそく電話をかける。
(でも、アイツ、これで戦場にむかったりしそう。戦車、ギコギコで切断できるのかな……)
テレビショッピングも終わり、やることがなくなった。
そういえば、以前凍結を実行した兵士から、お礼に服をもらったんだった。
姿鏡のまえで、ファッションショーをしよう。
このワンピース、かわいい。リボンがついている。
このドレスとか、雪原に行く時に合いそう……。でも、すこし大人っぽいかな。私の体躯には合わない。
あ、でもこのスニーカーとあわせれば、靴底が高いから、ちょっと背が高くなっていいかも……。
(……)
でも、外出許可がないから、綺麗に着飾ってもむなしくなる……本でも読むか。
(帝王が書いたとされる自己啓発本だ。ハートを熱く燃やせ! とか書いてある)
あまりにもつまらなかったので、マッチと油で、その本を燃やしてみた。
おー、よく燃える。
ハートよりも燃えているんじゃない?
火種を作れば、料理がしたくなった。
部屋に備え付けの簡易キッチンで、ピザでも作ってみよう。
私は部屋の前にいる衛生兵に命令し、材料を買いに行かせた。
「姉さん。暇でしょう?」
作っている最中に、花白がやってきた。
「え、姉さん。料理を作っているの」花白は、机の上にかざっていた、四本の腕をもつぬいぐるみをみて、ギョっとした。「まぁ素敵なぬいぐるみ。クモさんのぬいうぐるみかしら」
「ピザだよー。これはパンダ」
「ピザ?!」花白はオバケでもみたとでもいうように、とびあがった。(この黒いぼろ雑巾みたいなのが……)
きこえなかったけど、小声でなにかいった?
「姉さん。食材の焼却処分はやめなさい。国民の皆様が、汗水たらして一生懸命に作った食材ですよ? そんな生産性皆無な活動よりも、今日はお勉強をしましょう」
(花白との勉強にも、生産性を感じたことはない)
……花白は革鞄に書類をたくさん詰めこんでいる。
「勉強ってちなみに何について?」
「黒騎士様についてです!」
(まだ猿の生殖行為について勉強したほうがおもしろそうだよ……)
「なんですか、その目は。黒騎士様は私たちの命の恩人なんですよ? そんな黒騎士様の英竜戦役時代をしらないのは、失礼だとおもいませんか?」
(ロリコンだから助けたんじゃないの)
花白は私のことなどお構いなしに自論をならべたて、かばんの中身をひろげた。
「みてください! 黒騎士様の英竜戦役の時代……つまり、『異端竜』と呼ばれていた時のことをいっぱい調べてきました。いっしょにお勉強しましょ」
(花白に、黒騎士が『異端竜』と教えなければよかった)
☆☆☆~幕間おまけ~☆☆☆
焼け落ちた帝王の自己啓発本からでた灰から、しみこんでいた、原生生物がすがたをあらわした。青色で、粘々していて、つつくと腕にからみついた。これは、人々に陶酔作用と頭痛をもたらす、特殊の毒素を吐きだすんだ……。きっと、この本の読書を、帝王のファンにするために組み込んだ『仕組み』だね。
私にまとう冷域によって凍結され、それは、おいしそうな色の氷になった。
(首に巻くと冷たくてきもちいい……)
のちにかき氷とよばれるお菓子になるとは、この時の私はまだしらなかった。
ところで、マフラーは市民権を得ているけれど、アイスマフラーはあまり知られていない。私が開発して、巨万の富を得ようかしら?
いや、首がこりそうか……。
耳にイヤリングをつけた部族は、耳がとっても長くなってるんだって。
私の首も、キリンさんみたいになったらどうしよう?!
ア……でも、キリンさんと仲良くなれたら楽しそう……。
いっしょに、巣で休んでいるスズメたちと世間話したりして。
首が長いから、屋根に風船がひっかかってもすぐにとれるなぁ……。
……。アイツ、キリンだったらよかったのに。
その夜、夢のなかでみた竜は、いつもより、首を長くしていた。
なんだか怒っているようにみえた。
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