SF×ボーイミーツガール×セカイ系?「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」

 前回の更新からだいぶ時間が経ってしまった。



 手に取った本のすべてが良い出会いになるとは限らない。読み終えて「ちょっと違ったな」という感想で終わってしまう本もたくさんある。「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」も、途中までそうなりそうな予感がった。読書のペースが上がらず、1か月以上かけてだらだらと読み続けていた。



 しかし、終盤に突入してすべてが変わった。本作の主人公、夏紀と登志夫に関わる謎が明らかになり、話の展開が決定づけられた時、一気に切なさがこみあげてくる作品だ。SF特有の設定の難しさや字の分の複雑さはあるが、最後まで粘り強く読んでよかったと思う。



 宙開発が飛躍的に進んでいるが、インターネットが生まれたばかりの世界を生きる夏紀と、宇宙開発はまだまだだが量子コンピュータが開発運用されている世界を生きる登志夫。本作はそんな異なる今を生きる二人が主人公だ。二人はかつて飛行船「グラーフ・ツェッペリン号」を見たという記憶を共有している。「グラーフ・ツェッペリン号」の探求と、日常で起きる小さな異常は次第に異なる世界を生きる二人を近づけていく……



 本作は基本的に茨城県土浦市という地方都市、いわば田舎を舞台とし、夏休みの間の短い期間であり、それでいて少年と少女の出会いはセカイを巻きこんでいく。そう、この作品はボーイミーツガール・セカイ系・ラブコメといった要素も含んだ作品といえるだろう。だからラノベだと思う人もいるのではないだろうか。



 ただ、序盤のこれから何が起こるのだろうとわくわくする段階から、主人公二人が出会って物語が加速するまで結構時間がかかるので、ラノベだと思って読むと途中で脱落してしまうかもしれない。



 やはり、粘り強く読んでほしい。待ってましたと言わんばかりの衝撃が必ずやってくる。そうして、物語を駆け抜けた後には、切ない余韻に浸ってほしい。



 個人的には、こういう話を書いてみたいと思わされる作品だった。カクヨム10なるコンテストがそろそろ始まるらしいので、良いタイミングだったかもしれない。



 

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