第2話

「それで場所は?」

ライムは早く依頼を終わらせて寝たい。

その一心で話を進める。

「あぁ、下水道に蔓延る蜘蛛のバケモノの退治だ」

「……わかった」

「場所はここだ」

男は地図をライムに渡し、去っていった。

「……行くか」

ライムとライナはナイフを懐から取り出して下水道へ潜っていった。

下水道の中は暗く、ジメジメとしていてとても居心地が悪い。

下水特有の生臭い匂いが鼻をつんざく。

ライムは暗闇の中を歩く、ナイフを片手にゆっくりと歩を進める。

この暗闇は敵の独壇場だ。

いつ奇襲されてもおかしくは無い。

そんな緊張感を味わいながら進んでいると少し広い空間に出た。

「ここか」

どうやら地図によればここが目的地のようだ、だが蜘蛛のバケモノなんてどこにもいない。

「どういうことだ?」

「あれ?蜘蛛なんかいなくない?」

すると突然、ライムの背後から大きな蜘蛛が襲いかかってくる。

ライムは咄嗟にかわして反撃をしようと試みるが、蜘蛛のバケモノの素早さに振り切られる。

「クソっ」

ライムは悪態をついて一旦距離をとる。

その隙にライナが蜘蛛に攻撃をするがかわされてしまう。

ライムら相手を見失わないように静かに息を潜めて敵の出方を窺う。

するとまた背後から何かが襲いかかる気配がする。

今度はすぐさまナイフで受け止めた。だが、その重みは人間のものではなく、もっと重量があるものだった。

「なんだこれっ!」

それは人の体だった。

まだ年端もいかない子供が、無残な姿で蜘蛛に抱えられていた。

「クッソ!やりやがったな!」

ライムは怒りのままにナイフを振るが、その刃は当たらない。

すると蜘蛛のバケモノの鋭い牙がライムに襲いかかってくる。

「ライム!危ない!」

「っ!」

ライナとひと声で間一髪避けるが、少し掠ったようだ。

腕に痛みが走る。

だがそんなことを気にしている暇はない。すぐに反撃に出る。しかしやはり避けられる。ライムは一旦距離を置いて体勢を立て直す。

すると再び蜘蛛のバケモノが襲いかかってくる。

「おらぁ!」

ライムはその攻撃を寸前で避けて、ナイフを振り下ろす。しかし今度は受け止められてしまう。

そしてそのまま投げ飛ばされる。壁に叩きつけられ一瞬意識が遠のくがすぐに持ち直す。

「ふぅ」

ライムは大きく息を吐いて呼吸を整える。そしてもう一度立ち向かうため、ナイフを構える。

だがその時、後ろから大きな影が現れライムに覆い被さる。

「うわぁ!」

ライムは為す術なく押し倒され、蜘蛛のバケモノに捕らえられる。

「クソっ」

必死に抵抗するがびくともしない。それどころかどんどん強く締め付けられる。骨がミシミシと音を立てる。このままでは死んでしまうだろう。だがライムは諦めない。

ナイフで切りつけようとするがその前に蜘蛛の牙によって腕を噛みちぎられる

「ぐわぁ!」

激痛が走るが歯を食いしばって耐える。

蜘蛛がライムに夢中になっているうちにライナが蜘蛛に深くナイフを刺す。

「グギャァァァァ!!!」

すると今まで聞いたことのない悲鳴をあげてライムを解放する。そしてそのまま倒れ伏した。

「はぁ……はぁ……」

ライムは息を整えてから立ち上がり周りを見渡す。そこには蜘蛛の死体と、無残な姿の子供がいた。その子供はもう息をしていないだろう。だがまだ子供だったこともあり、体もそこまで大きくなく、腕や脚が食いちぎられているだけで済んでいる。

「クソが!」

ライムは怒りに身を任せて蜘蛛のバケモノにナイフを突き刺す。

グチャっと嫌な音が耳に残り、その感触で更に苛立ちを募らせる。

「随分と酷い殺され方だね」

「あぁ、全くだ。本当に不愉快だよ」

そしてもう1度刺そうとすると後ろから声をかけられる。

「おつかれさん」

その声は聞き覚えがあるものだった。振り返るとそこには先ほどの初老男がいた。

「お前か……」

ライムは怒りを抑えつつ問いかける。

「あぁそうだ、依頼達成おめでとう」

「…悪いが今は素直に喜べない」

「そうか」

あっさりと答える男にライムはさらに怒りを覚える。

だがここで爆発しても意味がないので我慢する。

「……とりあえず報酬をくれ、あとその子も埋葬したい」

「あぁわかった、ほらよ1000万だ」

男は懐から札束を取り出しライムに投げ渡す。

それを受け取ったライムは中身を確認することなくポケットにしまう。

「それで依頼の内容を詳しく教えてくれ」

「ん?だから言っただろ蜘蛛のバケモノ退治だ」

「それじゃない、その情報の出処だ」

「……依頼人のことか?悪いが教えることはできない。企業秘密だ」

男は言う。

それが更にライムをイラつかせるがぐっと堪える。

「また依頼の時に会おう」

初老の男性は闇の中へ消えて行く。

取り残された2人は子供の亡骸を抱えて下水道から出る。外はもう朝になっており鳥たちが鳴いていた。

「じゃあ俺はこれで。また会えるといいな!」

こんなことがあったばかりなのに無邪気な笑顔を見せるライナにライムは若干の不信感を感じた。

ライムは近くの公園に行きベンチに座る。

腕や脚を失った子供の遺体を見て思うことはただ命は簡単に消えてしまうと言うことだけだった。

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酒とタバコのネオンテトラ @suzume0515

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