第1話

一歩歩けばくっさいタバコと酒に溺れて倒れてる雑魚。

親から愛を注がれ、美しく育った人間からしたらここに住む人々は哀れな動物か卑しい悪魔に見えるだろう。

だが、そんな街のことをライムは気に入っていた。

手を出そうとしてくる不届きものももちろんいるが、それ以上にろくでもない人間しか居ないというのは存外気楽なものだ。

ライム自身が自分はクズだと言うことを自覚している。

自分の欲のために命を賭ける。

そうこうしているうちに第二工場後に着いた

日が当たりにくい位置にあるこの場所は奇襲するにはもってこいの場所だ。

ライムは警戒を怠らずゆっくりと進んでく。

ふと、暗闇の中に誰かがいることに気づいた。

先に仕掛けるべきか。

考えていると声をかけられた。

「依頼を受けにきたのか?」

未だ姿を見せないその声の主に臆することなく応じる。

「あぁ、1000万と言うのは本当か?」

「うむ、本当だとも」

ようやく声の主が姿を見せる。

声の主は初老の男性で灰色のコートを着ていた。

今は春でとても暖かい。

しかもこの街でしっかりと服を持っているものは少ない。

このひっかかりがライムの警戒心を強めていく。

「どうして、コートなんか来ているんだ?」

「寒いんだよ」

「寒い?今は春でとても暖かいだろ?」

「…寒いんだ」

「ふーん」

ライムは不思議そうに首をかしげる。

それをみて穏やかな笑みを浮かべる男性はなんだかライムにはこの街には不相応に思え

た。

「そんなことより依頼だよ、依頼」

ライムは自然と緩みかけた口角を元に戻して問いかけた。

「あぁ、依頼内容はしっているな?」

「いや知らない」

さも当然かのように返答してくるライムに対して男性は少し驚いたような素振りを見せたがすぐに説明を始めた。

「今回の依頼は下水道に蔓延る蜘蛛のバケモノを退治するものだ」

「そんな簡単なことで1000万?」

「そんな簡単なことで1000万だ」

ライムは何か裏があるのではないかと探りをいれようとしたが、何故そんなに高額なのかはすぐにわかった。

「退治に行った猟兵弾が腕だけになって帰ってきたんだ」

「うわーそれヤバくね?」

「そんなに危ないやつなのか?」

ライムはふと気づいた。

さっきまで話していたのは2人だったのに、

今は3人いることに。

「うわぁ!」

ライムは3人目がいたところにナイフを突き刺した。

「危ないじゃん!」

「危ないよりさきに言うことがあんだろ」

「テメェ誰だよ」

ライムの目の前にいる少年は殺されそうになったのにもかかわらず未だニタニタと笑っている。

「あれ?俺のこと知らない?依頼受けにきたんだけど?」

わざとらしいほど頭を傾ける少年にライムは未だ警戒を解いてはいない。

「って、俺自己紹介してないな!悪い!俺はライナ、よろしくな!」

「あ、あぁよろしく」

男性が律儀にライナに挨拶する。

ライムは相手に敵意がないことが分かるとナイフをしまった。

「そっちの嬢ちゃんもよろしく!」

「…よろしく」

この街には少ない明るい人柄にライムは少しだけ絆されていた。

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