オッパブと僕にまつわる混沌について

久々原仁介

第1話

 大学一年目の夏、僕はオッパブに通い詰めていた。あの暗がりでギラつくミラーボールの下で、顔も見えない相手との会話が好きだった。


 オッパブとは「オッパイ・パブ」の略称だ。


 いわゆる風俗とキャバクラが合体したような形態でキャバクラのように席に座ってお酒を飲みながら、女性の乳房を触ったりキスをすることのできるお店のことだ。


 ちなみに「セクキャバ」と銘打ってだしている店舗もあるが、サービス内容としては「オッパブ」と変わらない。地域によって呼び方が違う。それでも僕はセクキャバとは呼ばない。僕はオッパブというちょっと抜けた語感も含めて好きだった。


 当たり前だけど何事にも経緯がある。僕にも、オッパブにも。僕だって生まれたときからオッパブが好きだったわけじゃない。生まれたときは、誰しも母親のおっぱいを求めている。しかしなぜか、大学生だった僕はオッパブに夢中だった。


 当時、劇的なきっかけがあったわけではなかった。ただオッパブにはまる前の僕は、大学の雰囲気に上手く馴染めずに悩んでいた。

男子高校の出身にも関わらず、進学した大学は元女子大学だったことが災いした。今は共学になっているものの、男女比率は2対8という絶望的な男子の少なさに変わりはなかった。


 それでも入学当初は、人間関係を含めてうまくやれていたように思う。男子の人数が少ないぶん、協力していこうという一体感があった。学部には九人の男子がいた。誰が端を発したわけでもなく、入学式が終わったあとに僕らは大学近くのマクドナルド集まり、食事を囲んだ。


 大量に頼んだマックポテトは専用のカップに納まりきらずに緑色のトレイに載せた。山のように積もったポテトを前に、各々が自己紹介をしていく。まるでキャンドルの集いの時間だ。


 一通りの自己紹介が終わったところで、ポテトをつつき出す。メンバーの一人だった関東出身の男子学生は「こっちのポテトは味が薄いな」と呟いた。「福岡出身だけど、ここのポテトは薄いと思うよ」と隣にいたスポーツ刈りの学生が同意する。

僕は鞄のなかで眠っていた「ヒマラヤ・ピンク岩塩」をテーブルの上に置く。

すると周りは騒然。驚きの声があがった。

「お前、まさか予知能力者か?」

業務スーパーで買ったまま忘れていたのは内緒である。

「これが……賢者の石、ですか……」

 違います。ヒマラヤ・ピンク岩塩です。

「神かよ、崇めるわ」

 マクドナルドで宗教団体が発足されてしまった。


 その場は笑いに包まれ、僕は皆から岩塩と呼ばれるようになった。もうちょっと良い呼び方あっただろ。


 しかしあの日、大量に頼んだマックポテトは萎びてはいたけれど、今まで食べたどんなマックポテトより美味しく感じた。


 たぶん、岩塩のおかげだろうと思った。




――――――――――

近日中に2話公開予定

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