第2話 姫君のお父様のお願い

何となく気まぐれに追加しました。


―――――


 和子が俺と一緒に住み始めてもう十年以上が過ぎていた。だが最近和子がモジモジしている。

 一緒にベッドに入るのだけど

「一郎」

「うん?」

「あのね」

「うん」

「……………」



 この前、故郷アンドロメダ銀河に里帰りした時、お父様から信じられない事を言われた。

「和子、儂ももう二千歳を超える。そろそろ孫の顔が見たい。お前が地球という天の川銀河の辺境星域の星に住むと言われた時、私もまだ若かった。

 しかし、もう十分に年を老いた。ここの治世もお前のお陰でしっかりとしている。だが儂が他の宇宙に行った時、統治者をレジデントしない世界はまた闇の世界に戻る。

 和子、お願いだ。子を産んでくれないか」


「あの、お父様。その話は既に済んだ事。アンドロメダ銀河を統治する我が一族は、マクシミリアン・クロ―ネル・アンドロメダにその統治を委ねるとお約束したはず」


「そのマクシミリアンが、他の銀河に行きたい。天の川銀河の辺境星域に嫁いだ我が一族の銀河など欲しくないと言って来てな」

「そんなぁ!」


 一郎にこんな説明なんて出来るはずも無い。私の体は一郎さえ良ければと受胎可能な体に変えている。しかし、彼は子に対する期待を諦めている。今更何を言い訳すれば。



 翌朝、一郎が目が覚めると

「和子していいか?」

「えっ?!」


 どういう事。でも偶には有る事。

「いいよ」


 地球人は限りある時間の中で生命の存続を維持しようとする。だから偶に朝起きるとそうなるらしい。


 彼の思いを私の体は思い切り受けた。それから少しして体に変化が現れた。



「どうしたの和子。いつもと違う」

「そうかな。お仕事から帰ってきたら話そうか」

「それは良いんだけど」




 一郎が仕事から帰って来て、食事をしてお風呂から出た後、風呂上りのビールは上手いと言って飲む一郎に

「ねえ、聞いてくれる」

「なに?」


「私、赤ちゃんが出来たみたい」

「ぶっ!」


 俺は直ぐに手で口を押えたが少しだけテーブルにこぼれてしまった。和子が直ぐに拭き取ると

「ごめんなさい。いきなりこんな事言うと驚くよね」

「驚くも何も和子は妊娠出来ない体じゃなかったんだっけ?組成は俺と同じだろ」

「ごめんなさい。実は……」


 私、前回アンドロメダ銀河に帰った時、お父様から言われた事を話した。そして向こうにいる間に受胎できる体に変えた事も。


「なんで話してくれなかったんだ?」

「だって、最初の約束を違える様な事を勝手にしてしまって。嫌われたらどうしようと思って、つい言えなかったの」

「つい言えなかったのって。でももう妊娠したんだろう」


「うん、それでね。…地球では産めない。私の体は組成は似せているけど地球人とは違うのは知っているよね。だからお医者様に見せられない」

「…どうするんだ」

「一度、戻って…多分、生まれてくる子は地球では住めない組成だと思う。今は私の体の中に居るからいいけど」

「それって…。自分の子供を見れないって事?」


「……。ごめんなさい」

「でもリアルタイムで見れないのか?」

「流石に、二百六十万光年をリアルタイムでは無理よ」

「でも、和子はアンドロメダからこの地球迄三日で来れると言っていたじゃないか」

「それは…。私達の体の組成に起因しているの。人間では出来ない事。でも映像はメモリに出来るわ」

 分からない事だらけだけど今更か。



「分かったよ。いつ産まれるんだ?」

「あと、半年で産まれる」

「あの、地球人より偉く速いな」

「それは、そういうものだと思って。だから後一ヶ月でアンドロメダに帰る」

「そうか、いつ帰って来るんだ?」

「それは……」


「もしかして帰って来れないという事か?」

「ごめんなさい。子が大きくなれば良いのですけど。地球時間で二百年位は」

「二、二百年…。俺が何回生まれ変わればいいんだ。…つまりこれが最後ということか」

「ごめんなさい」



 それから一ヶ月して、和子は例の半透明な液体の様な物が迎えに来て帰って行った。




 はぁ、俺もう三十だぞ。今更新しいパートナーを見つけると思うとなぁ。しかし、いきなり現れてあっという間に十年が過ぎて、勝手に体を受胎できるようにして、赤ちゃんが出来たら、さようならか。


 やっぱり遠くの銀河から来た姫様はまさに高嶺の花ならぬ、銀河の花だったというわけか。

 

 さて、これからどうするのかな。どちらにしろ、いずれ俺の記憶も消されてしまうんだろう。まあいいか。




 会社では、俺の様子を心配した先輩や後輩、主に女子が心配してくれて

「藤間君、最近元気ないよ。相談にのるよ」とか

「体調悪いなら医者に行った方がいいよ」とか

「私、フリーだから」とか


 最後の言葉は意味不明だが一応心配してくれている。アパートに帰っても明りは付いていない。


 洗濯物はそのままだ。でも不思議な事に和子がいた形跡もそのままだ。あいつらだったら、俺の記憶も含めて全てにおいて消す事が出来るだろうに。


 

 あれから、一年が経った。戻ってこない和子の事を忘れようとして、他の女性とも付き合おうとしたけど、どうしても彼女の事が思い出されてその気にならなかった。




 それから更に一年が経って、もうこのアパートも引越して和子の事を忘れようとした時だった。


 アパートの階段を登って部屋の前に行き、鍵を回すと、あれっ?空いている。朝はしっかりと閉めたはずなのに。


 恐る恐るゆっくりと音がしない様に開けると、えっ。そこには一段と美しくなった和子と可愛い半透明の液体の様な物が浮いていた。


「和子!」

「一郎!」


 しっかりと抱き合って、俺は彼女の背中やお尻をしっかりと触った。確かに人間と同じ体だ。

「戻って来たのか?」

 彼女は首を横に振ると


「少しの間だけ。この子は長い時間地球の環境の中には入れない。でもあなたにその姿を見せる事が出来る」


 和子は、右手をその半透明の液体の様な物に掲げると段々実体化して来た。ほんの一分も経っていない。


 そこには、ギリシャ神話の絶世の美女もこれほどとは思う位の綺麗な少女が立っていた。そして

「お父様、藤間京子です」


 信じられない美しさとその笑顔に触れようとした時、

「駄目!地球人の体で触っては駄目」


「人間では触れないというのか。自分の娘に」

「はい。これは実体化している訳では有りません。そう見せているだけです」

「そうか。後、どの位入れるんだ」

「十五分位」

「そんなぁ」

「ふふっ、でも私は残ります」

「ほ、本当か」

「はい、私の使った物全て残っていますでしょう。それが証拠です」

「でもあの時、もう帰らないと…」

「言ってはおりません。お父様と説得して乳母を仕えさせるようにしました。でも一年に三回三週間ずつ帰らないといけません。この子の為にも」

「その位なら」


 話をしていると、俺達の横にいきなり半透明の液体の様のな物が二つ現れた。


「姫様、クレア様をお迎えに参りました」

「クレア?」

「向こうでの名前です。詳しい事はまた後で」

「またそれか」


「姫様!時間が有りません」


 クレアは和子が差し出した手によってまた元の形に戻ると他の二つと一緒に消えた。


「和子、良かったのか?」

「はい、私は一郎の傍がいいです。でも京子の事も心配です。だから一年に三週間を三回帰る様にさせて貰ったのです」


「和子、クレアというのは?」

「ふふっ、私の向こうでの名前は、ケレスヒナです。でも和子の方が幸せです。あなたが傍に居るから」

「なあ、こういう事を言ってはいけないのだろうけど、人間風に言うと前より少しだけ大人になったというか、綺麗になったというか」

「はい、あなたの為に」


 和子は思い切り俺に抱き着いて来た。そして

「もっと子が欲しいですね。今度は地球人の組成を持つ人間で」

「それが出来るのか?」

「試してみます?あ・な・た」


―――――

皆様からご評価頂ければ連載版も有りかなと思っています。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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俺が助けた人はアンドロメダ銀河のお姫様だった。多分? @kana_01

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