俺が助けた人はアンドロメダ銀河のお姫様だった。多分?
@kana_01
第1話 俺が助けた人はアンドロメダ銀河のお姫様だった。多分?
思い付きで書いた作品です。お楽しみ頂ければ幸いです。
―――――
俺が学校からの帰宅途中、目の前と言っても五十メートル位はあるんだけど、一人の女性が、手に持つ金属片を振り回しながら何かと戦っているように見えた。
演劇の練習でもしているんだろうか。でも凄く必死な感じだ。
気になって小走りに近付くと、霞んだ、そう半透明な得体の知れない液体の様な物から繰り出されるスパークの様な光を手に持つ金属片で防いでいた。
でも防ぎも限界でその半透明な物から振り下ろされるスパークの様なそうソードの様な光がその人の頭に振り下ろされる時、体が反射的動いてしまった。
俺が持っている短槍をその振り下ろされるスパークに向かって下から上に向かって振り上げた。
確かに手応えが有って音が聞こえた様な気がしたが、俺が振り上げ終わった時には、もう半透明な物は消えていた。
そして目の前には俺と同じ学校の制服を着た女の子が地面に腰を落としながら座っていた。先程まで持っていた金属片は無い。
「大丈夫か、あんた?」
「失礼ね。私に向ってあんたとは」
「はぁ、何言っているんだ。頭可笑しいんじゃないか。良く分からないけど、じゃあな」
「ちょっと、待ちなさいよ」
面倒くさそうなのでそそくさと帰ろうとするといきなり俺の制服を掴んで
「私を勝手に助けておいて何よその態度は」
理解不可能な事を言う女の子に
「知るか。それに何なんだ、あの訳の分からない奴は?」
「あなたが知る必要はないわ。それより勝手に助けたついでに今日泊めて。私今日寝る所ないの」
俺はとんでもないビッチ?を助けてしまったのか。それにあれは何だったんだ。そんな事はともかく、
俺は改めてその女の子の姿を見るとあれっ?さっきまでボロボロだった制服は綺麗になり、顔や腕に有った切り傷が消えている。
「何言っているのか分からないけど家出少女は警察に保護されると決まっているんだ。冗談でなかったら、今から警察に電話するから」
「待ってよ。私は家出少女じゃないわ。今事情で家が無いのよ」
「あんたさぁ、どこかの安ラノベじゃあるまいし、その手に引っ掛かるかよ。今から警察に電話する」
ボン!
「えっ?!そんなぁ」
俺の手に持っていたスマホが一瞬にして黒焦げになった。でも俺の手は火傷していない。
「ねえ、取敢えず泊めてよ」
「こ、これ、お前がやったのか?」
「そんな事どうでもいいじゃない。さっ、君の家に帰ろうか」
益々、怪しい女の子を置いて逃げようとすると一瞬で手を掴まれた。
「私から逃げれる訳ないでしょ」
「嘘だろう」
こんな事有り得ない。俺は運動神経は相当にいい。女の子に腕を掴まれる様なのろまではない。しかし…。
「お願いだから。私今日泊まる所無いの!」
「名前も知らない奴を泊める訳にはいかないよ」
「私の名前は…。君なんて名前なの?」
「自分から先に言えよ」
「良いから教えて」
「俺は藤間一郎だ」
「私も藤間和子」
「お前、本当の名前言いたくないから適当に言ってんだろう」
「なんで疑うのよ、本当よ」
「全く。本当に良いんだな」
よく見ればとっても可愛いというかとっても美しい女性だ。まあ、下心は、うん多分無いから俺のアパートに泊める事にした。
俺は色々の事情が有ってアパートで独り暮らしをしている。その子を連れてアパートの傍に着くと
「ここだよ」
「……………」
「どうしたんだ?今になってやっぱり泊まるの止めるか。俺はその方が良いけど」
「泊るに決まっているでしょう。さっ、早く中に入れてよ」
その子を入れたのは良いが、玄関で立っているだけだ。
「上がらないのか?」
「ちょっと、あなたこっちに来てくれない」
「なんで?」
「良いから」
俺はスクールバッグと短槍を床に置いて彼女に近寄った。えっ?!
腕を掴まれて引き寄せられるとあっという間に背中に手を回して抱き着かれた。
「おい、何しているんだ」
「良いから黙っていて」
一分もしない内に俺を解放されたけど、おでこをくっ付けられたり、背中を擦られたり良く分からない。単に抱き着いたという訳じゃない様だ。
こいつ一体誰だ。自慢じゃないけど女の子に腕を掴まれる様なのろまじゃないぞ。それに凄い力だけど。
「君の事はよくわかったわ。藤間一郎君」
「何が分かったんだ?」
「いいのいいの」
取敢えず上がらせてダイニングの椅子に座らせ俺も座ると
「泊まるのは良いけど、その前に聞きたい。お前誰だ?」
「私は藤間和子よ」
「家は?」
「ずっと遠い所」
「どうしてあそこに居たんだ?それになんだあの半透明な奴は」
「言わないと駄目?見なかった事にしてくれない?」
「駄目だ。何者かも知れない奴を泊める訳には行かない。それに今日だけだよな?」
「どうしても言わないと駄目?」
「駄目」
「私の言う事信じられないよ」
「良いから言え」
「分かった。話すの面倒だからおでこ合わせれば直ぐに分かるわ」
「何言ってる…」
言い終わらない内に俺の傍に来ると俺の頭を掴んでおでこを当てた。
一瞬だけ意識が遠のくようになってそれから目の前に現れたのは、空間に浮かぶ、そう銀河だ。俺は何処にいるんだ。
その銀河からものすごい数の船団が出て来ている。千や二千じゃない。そしてそれを追いかけるようにまた別の船団が追いかけている。
うわっ、いきなり船の中だ。目の前にいる人、多分女性だろう人が周りの人から何か言われている。
『お逃げ下さい。姫様だけでも逃げ切れば再起が叶います。我々で敵を足止めしている内に』
『しかし、私だけというのは』
『大丈夫です。姫様に備わった力ならば』
女の人が一回り小さな船に入れられて…その船が最初の船団から離れたとたん消えた。
先頭の船団が後ろから追いかけてきた船団に攻撃を受けている。反撃しているが、数が違い過ぎる。
前の船団が全部消えると、後ろにいた船団から数隻の船が出て来て、さっき消えた船の方に向かって進みその船も消えた。
そして急に意識が戻った。頭が少しふらつく。彼女が俺の頭を抱えていた手を離すと
「何だ、今のは?」
「ふふっ、君が見た女性がこの私。さっきの銀河はこの地球がある天の川銀河から二百三十万光年離れたアンドロメダ銀河。分かってくれたかな?」
「全く分からない。あんた何者?」
「だから見せたじゃない。私の故郷はここからちょっと遠い所にあるの。さっき半透明の液体みたいな奴は私をここ迄追って来た敵の刺客よ。でも最後の刺客を君が倒したけど」
「えっ?!俺が倒した?」
「うん。そんな事よりお腹空いた」
「まだ全然分からないんだけど」
「後でまた教えてあげるから」
しかし、参ったな。夕食俺だけならコンビニ弁当で済ますんだけど。仕方ない。聞いてみるか。
「夕飯どうする」
「夕飯?」
「そうだよ。夜食べないとお腹空くだろう」
「…そうね。あなたと同じ物でいいわ」
「じゃあ、買いに行って来る」
「駄目、私を一人にしては駄目」
「なら一緒に行くか?」
「それも駄目。理由は難しいから言わないけど、ここにあるものでいい」
「カップ麺しかないぞ」
「…良く分からないけどそれでいい」
俺はお湯を沸かしてからカップ麺を棚から二つ取るとお湯を入れた。俺の仕草を見て不思議そうな顔をしている。
しかし、どうしてうちの学校の制服着ているんだ。後から聞くか。寝る所どうしようかな。それより風呂に入らないと部活で汗をかいている。
「なあ、先に風呂に入るか」
「風呂?」
「うん、風呂」
「分かった。案内して」
良く分からんが風呂を知らない様だ。
「ここがお風呂。体を洗って一日の汚れを落とすんだ」
なにこの小さなコンパートメントは。私の世界では風呂などという物は存在しない。
「ほらこれが、シャワーの栓。心配だから言うけど制服脱いで入るんだぞ」
「えっ!」
「だって濡れちゃうじゃないか」
「……………」
「このタオル使って良いから。それと着替えないんだろう。俺のジャージで我慢しろ」
「私が入っている間、絶対に見ないでね」
「見るか!全く」
俺は、洗面所から出てドアを閉めるとシャワーの音がした。あっ、ジャージどうやって渡すんだ?
この星の基本的な知識はさっき一郎君に抱き着いて分かったけど、私に持ってないものが多すぎる。
航路計算では天の川銀河ではなく、エルゴルド銀河に助けを求める予定だった。何故この銀河、それも辺境星域の地球に来てしまったのか。まあ、理由は何となく分かるけど。
私の船の航跡を追って来た奴らは全て始末したけど…。とにかく彼に頼るしかない。この体は彼の組成を元に人間仕様にしてあるから大丈夫だ。
「おーい。ジャージドアの外に置いておくぞ」
「分かったぁ」
あいつ誰なんだ。そしてあいつとおでこを合わせた時、俺が見た物は?それに俺のスマホ、一瞬にして黒焦げにしやがった。でも俺の手は火傷一つ負っていない。
寝る所は俺がソファに寝れば良いけど、明日からどうするんだ?うちの学校の制服着ていたけど、さっきの話が事実なら…。分からん?
風呂から出て来た和子と名乗っている女の子は、あれ?何か違う。なんだこの違和感は?
「あの、お風呂入ったんだよね?シャワー浴びたんだよね?」
「はい、どうかしました」
「だって髪の毛が濡れていないし、ドライヤ使っていないでしょ」
「えっ!そんな事ないですよ、ほら」
彼女が髪の毛を触ると水が出て来た。どうなってんだ。
「それより一郎君もお風呂に入ってきたらどうですか?」
「そうするかぁ」
考えるだけ馬鹿らしくなって来た。
俺がお風呂から出てくると和子が椅子に座って俺の事をジッと見ている。そして
「一郎君。お願いがあります」
「なに?」
「私、無一文なんです。だから養って下さい」
「はぁ?」
頭痛くなって来たよ。
「その代りと言っては何ですけど。これ元に戻しました」
信じられない。俺のスマホが元通りになっている。
「どうやって?」
「そんな事どうでもいいじゃないですか。それより私を養って下さい」
「俺は高校生だぞ。そんな事出来る訳ない」
「大丈夫です。あなたなら出来ます」
「あのなぁ」
疲れて来た。
「なあ、頼むから正直に言ってくれ。あんた何処から来たんだ。もう地球人じゃないって事は認めるからさ」
「さっき、見せた通りです。私はアンドロメダ銀河の統治者の一人娘です」
こいつもしかして頭の可笑しい奴なのか。どっかの施設から逃げて来たとか。
「その目、信じてくれないんですね。ではこれで信じて下さい」
音も無く彼女の手の平の上に現れたのは、良く分からない人間で言うと紋章の様な物だろう。
「これはアンドロメダ銀河の統治者であるという証拠です。人類では分からないでしょうけど。これでも信じて貰えませんか」
「なあ、それどうやって出したんだ。手品でも使ったのか?」
「ふふっ、そんなもの使いません。こうして消えます」
体一つ何も動かさず、声一つ出さずにその証拠とやらは彼女の手の平の上から消えた。
「分かんねんぇけど、取敢えず信じるよ。で、あの制服何処から手に入れたんだ?」
「私がここに到着した時、近くにいた地球人が着ていたものです。今では女子高生と分かりますけど」
「良く分からないが分かった。それで明日からどうするんだ。俺は高校に行くぞ」
「私も行きます。もう関係者に記憶は摺り込…。コホン。手続きは終わっています」
こいつ今記憶を刷り込ませたと言ったよな。
「俺の記憶も刷り込んだのか?」
「あなたにはそんな事はしません。私の大切な養育者ですから」
「はぁ、もう良い分かった。俺はそこのソファで寝るからお前はベッドで寝ろ」
「ありがとうございます」
おい、普通は私がソファでとか言わないのかよ。しかし、こいつ一緒に高校に行って大丈夫かな?思い切り心配なんだけど。
彼は寝たようですね。さて、この星。いえこの銀河から出てエルゴルド銀河に行かないといけないが、まだこの系の周辺や銀河の周辺にはあいつらの捜査網が張り巡らされているはず。
当分の間はここに居るしかないか。頼りにしていますよ一郎君。
翌日の朝、俺はソファから起きて着替えようとした時、俺の寝室から彼女、多分和子が出て来た。もう制服は着ている。
「おはようございます。一郎君、さっ、学校に連れて行って下さい」
「朝ご飯どうするんだ?」
「朝ご飯?」
「そうだよ。人間は朝起きたら朝ごはん食べるんだ」
「分かりました。食べましょう」
そう言うとダイニングの椅子に座った。
おい、ここは私が作りますとか私も手伝いますと言うんじゃないのか?
「顔洗って支度するから待っていろ」
「はい」
作り置きして有った冷凍ご飯とインスタントお味噌汁を出して、簡単に用意するとテーブルに置いた。
食事が終わっても和子は何もしない。片付けるとかしないのかよ。仕方なく俺が彼女の目の前にある食器も全て片付けて台所で洗っていると彼女はそれをジッと見て、
「私もやれそうですね」
普通やれますよ。
戸締りを確認してからドアの鍵を掛けて外に出る。あっ、そういえば交通系のICカード持っているのかな?持っているはずがないが、一応聞いてみた。
「なあ、電車に乗るんだけど…交通系のICカードって持っているのか?」
「はい有りますよ。これですよね」
確かに西急線のポスモだ。おい、どうやって手に入れた?
「それ、どうしたの?」
「聞かないくていいです。でも盗んだ訳では有りませんよ」
「じゃあ、どうやって手に入れたんだ」
「ふふっ、その内教えてあげます」
駅に着いて改札で彼女がそれをタッチすると問題なくゲートが開いた。本物らしい。そのまま電車に乗って学校の最寄り駅で降りて学校に向かった。
分からん。全く分からない。一体どう理解すればいいんだ。どう見ても見た目人間に見えるけど。手の平でポンと映像を出したり、俺のスマホを黒焦げにしたり。
「どうしたんですか一郎君。難しい顔してますよ」
あんたの所為です。
「ああ、ちょっとな」
やがて学校に着いて昇降口に行くと彼女は何気なくそう普通に下駄箱を開けて上履きを取り出した。いつ用意したんだよ。そもそも和子は何処のクラスなんだ?
廊下を歩いていると俺について来る。
「お前、何クラス?」
「一郎君と同じです」
「はっ?」
昨日まではいなかったじゃないか。どうするんだ?理解出来ないままに教室に入ると
「おはよ、藤間姉弟。何時も仲良いな」
声を掛けて来たのは、中学以来の友人、高木洋介だ。おい、待てよ。今なんて言った?
「おはようございます。高木君」
「洋介、なんでこの人知ってる?」
「はぁ、朝からどこかに頭ぶつけたのか。生まれた時からずっと一緒のお前の双子の姉じゃないか」
「な、なにぃー。和子が双子のあねーっ???」
「おい大丈夫か」
「ごめんね、高木君、一郎、朝寝室から出る時頭ぶつけたみたいで。それ以来、私にも冗談言うの」
「おうおう、仲が良い事。流石双子だな」
周りを見ても和子の事を誰も不審がらない。まさかこいつ記憶を刷り込んだって言っていたけど…。
その後、担任の先生が入って来て出席を取ってた。全くいつも通りだ。その後の午前中の授業も先生も周りも和子の事を気にする人はいない。
当の和子は俺の隣席で普通に授業を受けている。質問されても普通に答える。俺がおかしくなったのか?
訳が分からないままに放課後になり、帰ろうとすると
「一郎君、図書室に行きましょう。直ぐに済みます」
「何か用事があるのか?」
「はい、少しだけ」
図書室に連れて?行って中に入ると和子は本棚をジッと見た。三分も掛かっていないだろう。
「もう終わりました。さっ、帰りましょうか。今日はスーパーによる必要がありますね」
「えっ?」
どういう事なんだ?
ふふっ、これでこの星の事は歴史も含めて全部分かりました。地球人いえ日本人の習慣も分かりました。後は、彼の持っているアレを見せて貰えば。
俺達は、アパートの最寄り駅で降りると彼女と一緒にスーパーに入る…前に
「一郎君、お財布を見せて下さい」
「財布、これか?」
「ありがとうございます。中を見ても良いですか」
「良いけど。何するんだ?」
「気にしないで下さい」
彼女は、財布の中から一万円札や五千円札それに千円札を手に取ってジッと見るとそれを財布の中に仕舞って今度は小銭入れの中を見て入っている百円玉、五十円玉、五円玉、一円玉を手に取ってジッと見た。そして元に戻すと
「ありがとうございました」
そう言って俺に戻した。
「私の分も含めて買わないといけないですね」
「それはそうだろう」
両親に言って、生活費あげて貰わないと暮らせなくなる。
彼女は、野菜売り場、魚売り場、肉売り場、それに調味料や飲料水の棚や冷蔵庫を見ると
「今日は、どうするんですか?」
おい、そこは、私が○○を作りましょうとか言って来るんじゃないか。仕方なく、…最近このフレーズが多い気がする。
かごに取敢えず今日と明日の分を放り込むとレジに向かった。明後日は土曜日だ。また考えればいい。
次の日の放課後、
「なあ、昨日も俺のジャージでいたけど、自分の服どうするんだ。買わないといけないけど、俺そんなに金無いし」
「そうですね。明日、デパートに行きましょう。私のクレジットカードで買いますよ」
「はぁ?なんでそんなもの持っている?」
「良いじゃないですか。後で教えます」
盗んだとは思えないし、こいつは分からない事だらけだ。
次の日はデパートに行って彼女の洋服…下着も買ったんだけど、どう見ても女性雑誌の表紙を飾る様な洋服ばかり。そういえばさっき先に本屋に寄ったよな。まさか…。
「なあ、和子さん」
「なんですか?」
「そのファッションって女性雑誌の載っていた奴に似ているんだけど」
「そうですか。雑誌が私の真似したんでしょう」
順番逆だろうが。
デパートから出て駅そばの〇ック入って食べていると
「一郎君、今のアパートにあるベッドだと二人で寝るには狭いですよね。クイーンサイズのベッドに買い替えましょう」
「ちょっと待て。それは俺達が一緒に寝るという事か?」
「はい、一郎君をいつまでもソファに寝させておくには申し訳ないですから」
俺のアパートなんだけど。軒下貸して母屋取られたとか。
「これを食べた後、家具屋さんに行きましょう」
「あのお金はどうするの?」
「大丈夫です。私が払います」
「あの、数日前に無一文で、俺に養ってくれと言っていたよね」
「はい、一郎君は私の養育者です」
どう考えればいいんだ。この状況。カオスなんて甘い世界じゃないぞ。
結局、翌日曜日には、長らく使っていた俺のマイシングルベッドは業者に引き取られ、比較にならない位の大きなベッドが所狭しと置かれた。
そんな事が有っても周りは何事も無かった様に時は過ぎ…。
「一郎君、どうしたんですか?」
「いや何でもない」
俺の隣には見た目美少女の和子さんが、可愛いパジャマを着て横になっている。これが普通の人間だったら俺だって健全な高校生男子だ。ちょっと期待もしようものだが、相手はどうも人間の形をした何かだ。最近少しだが分かって来た。
まず、食事は一緒に取っているものの事務的だという事だ。お腹空いたから食べようという訳ではない。
おトイレに入った後、出てくるが流した後、普通匂うものだが、全く誰も入っていない後の様だ。
お風呂もシャワーの音はするが、体を洗っているという形跡がない。何故って体を拭いた振りをしているがタオルが濡れていないのだ。
後お金の事。いつもクレジット払いだが、請求書が来る事は無く、そもそも彼女がここに居る事を俺以外は知らない筈。
でも、いくら聞いても後で教えるというだけだ。そしてノーメイク。彼女が頭を洗った後のシャンプーの匂いもしなければ、リップをぬったりローションを付けている所を見たことも無い。
でも髪の毛はいつも艶やかにサラサラで、顔も肌もしっかりと手入れされているように綺麗だ。
でも匂いがない。人間には誰しも体臭という物があるはず。彼女は全くそれが無いのだ。運動しても汗もかかない。
もうここまで来ると聞く事も面倒になって来る。俺と一緒に住んでいるのは藤間和子という名の不思議な何かだ。
そういえば、両親からの連絡もない。彼女が無いのは当たり前だろうけど。どうなっているんだ。
こちらから連絡すると忙しくて会いに行けないけど、時間空いたら来ると言っていた。ビデオカメラ映像で元気そうな両親が映っているので心配はしていないのだけど。
また少し経ってから
玄関の外で誰かと話をしてをしている様な気がした。インターフォンのカメラで見たけど彼女以外映っていない。でも確かに彼女は誰かと話をしていた。
それから更に時間が経って、彼女が来てからもう一年が過ぎようとしていた。珍しく休みの日に一人で出かけると言っていたので、もう慣れているから問題ないと思って一人で出かけさせたが、一日経っても二日経っても帰って来ない。
一瞬警察に捜索願と思ったけど、あの子の事どう説明すればいいか分からなくて、しかしそう思うと心の中で段々心配する気持ちが大きくなって学校でも気になって授業に集中出来ないでいた。
でも彼女が居ない事を誰も心配していない。どうなってんだ?
「そろそろ帰らないといけないですね」
「姫様、もうこの星は良いではないですか。反乱軍の平定も終わりました。我が銀河にお戻り下さい」
「そうはいかぬ。一郎君には多大な迷惑を掛けてしまった。一度帰らないと」
「しかし、彼の記憶を消せば良いだけです。周りの環境に刷り込んだ記憶も我々が全て消去します」
「それは少し待ってくれ。彼と話したい事もある」
「分かりました」
「では行って来る」
「はっ!」
彼女が居なくなってから一週間が経った。学校で洋介に
「なあ、和子の事心配しないのか?」
「誰だ和子って?」
「えっ、俺の双子の姉の…」
「一郎、頭どこかにぶつけたか。何時からお前が双子になったんだ。俺とは中学からの付き合いだがお前はずっと一人だったぞ。そうか彼女いないからとうとう頭が狂ったか?」
「……………」
どういう事なんだ。刷り込まれた筈の記憶が消えているのか。
それから、更に一週間が経って、俺も彼女の事を気にしない様にしていた。アパートに戻ると俺の寝室にはでかいベッドがある。
食器棚にも洗い桶にも洗面所にも彼女が居た後が残っている。夢じゃない。でも…。
ガチャ!
えっ、ここの鍵を持っているのは俺と両親と…まさか!
急いで玄関に行くと制服姿の和子が立っていた。俺は何も言わずに抱き着いて
「何処に行っていたんだ。心配したじゃないか」
彼女の体を手で触って実体が有る事を確かめてから体を一度離すと
「もうどこにも行かないよね」
「ごめんなさい」
「どうして。いきなり現れていきなり消えるのかよ」
「ごめんなさい」
俺はもう一度彼女の体を抱いて
「嫌だよ。和子と離れるのは嫌だよ。ずっとここに居てよ」
「……………」
ずっと彼女を抱擁していたけど、彼女が俺の腕を掴んで離された。この力一体?
「一郎君。君はこの星、この銀河の生命体。私はアンドロメダ銀河の生命体。あまりにもあまりにも何もかもが違うわ」
「良いじゃないか、違っていたっていいじゃないか。好きなんだ。和子の事が好きなんだよ」
「私も好きよ。でも人間がいう結婚とかいう儀式は出来ない。あまりにも何もかもが違うわ。
だからこれをあげる。どうしても私に会いたくなったら、手でこれを握って私に会いたいと思って。そうすれば私は会いに来てあげる」
「姫様、もう宜しいかと」
「えっ?」
後ろを見ると前に一度見た霞と言うか半透明の液体の様な物がいた。声も出せないで驚いていると
「これが地球上で居れる私達の姿よ」
「でも和子は」
「うん、君の体の組成を教えて貰ったの。初めてあなたを抱いた時の事よ」
「あれが…」
「姫様、これ以上いるのは危険です」
「あなただけ帰りなさい。私はもう少しこの星にいます」
「しかし」
「帰りなさい!」
「はっ!」
その霞の様な半透明の液体…見たいなものは消えて行った。
それから十年もの間。和子は俺の傍に居た。但し一年に一度だけ三週間の里帰りをするけど。
勿論、地球人の男女の営みもした。でも彼女の組成は俺と同じ。つまり妊娠できない。それでもいいと思った。
ただ体つきは人間の女性と同じ。どうしてそうなったのか聞いたら高校の時に他の女の子の体を透かして真似したそうだ。
彼女の年齢は地球時間の人間では五百才をとうに超えていると言っていた。でも体は十六の時のままだ。
こんな人生有っても良いか。
―――――
皆様からご評価頂ければ連載版も有りかなと思っています。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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