第6話 おままごと

 目が覚めた。

 窓の外はもう、すっかり暗くなってる。

 だけど、部屋の中は明るい。

 

 火を付けっぱなしにしていたかしら!

 慌てて起き上がる。

 

 体中が痛い。

 

「あうぅ……」

 

 そうだ、ジゼルに殴られて意識を失っていたんだった。

 喉が渇いたし、お腹も空いた。

 

 だけど今から料理を作る気力なんて無いわ。

 どうしよう。

 

 ……あら? 美味しそうな匂いがする。

 それに、キッチンから音が聞こえる。

 

「……誰か、居るの?」

 

 恐る恐る声をかけた。

 

 そうしたらキッチンからカタンって音がして、ガブが出てきた。

 

「ロッティ! 目が覚めた? 大丈夫?」

 

 赤い目をいっぱいに大きくして、ガブが駆け寄ってくる。

 

「ど、どうしてここに?」

 

「あっ、えっと、ごめんなさい。キミが倒れてるのを見かけて、心配でつい……勝手に入ってごめんなさい……それから、ご飯も作らなきゃって……勝手に作ってマス。そろそろ食べられる、よ」

 

 しょんぼりとした顔をするガブ。

 驚いたけど、そっか。心配してくれたんだ……。

 

「えっと……ありがとう……? ふふっ、嬉しいわ」

 

「ほ、本当? 良かった……ごめんね、勝手に」

 

 私の事を心配してくれる人なんて、いつぶりかしら。

 それにガブの言うことが本当なら、久しぶりに人の作ったご飯を食べられるかもしれない! それこそいつぶりかな!

 

 あ……でも、その前に、ガブに謝らなきゃ……。アミュレット、ジゼルに盗られちゃったから。

 

「あ、あのねガブ」

 

「どうしたの?」

 

「……そのね、えっと、ガブのアミュレット、義妹いもうとに盗られちゃったの」

 

「え……」

 

 ガブが驚いた顔をする。

 当然よね。だって、きっと大切な物だったと思うから。そんな物を盗まれたなんて……。

 

「ごめんなさい……」

 

「……もしかして、ロッティが怪我してたの、そのイモウトのせい?」

 

 ガブが不機嫌な顔になる。怒ってるかな、ちょっとだけ怖い。

 

「……はい」

 

「……」

 

 黙り込んじゃった。

 どうしよう。どうしよう。

 

「……その、ごめんなさい」

 

「んっ、謝らないでよ。ロッティは悪くないでしょ?」

 

「だけど、私の不注意のせいだわ」

 

「……キミは、家族と暮らしてない……よね? 救急セット、探させてもらったんだけど、他の人が暮らしてる気配は無かった」

 

 言われて始めて気付く。

 傷の手当てがされていた。

 

「そう、ね」

 

「キミの家族が酷い人なのは分かったよ」

 

 どうして怒ってるのかしら。

 分からない。どうしよう。

 

「あ、あの……」

 

「……あ、そうだ。ご飯、食べよう? 僕、あんまり料理はした事が無いから簡単なものだけど……」

 

 ガブは思い出したように笑って、キッチンの方を指さした。

 

「え、えぇ。そうね! ありがとう」

 

「えへへ。口に合うと良いな」

 

 優しい笑顔。

 さっきまで怒ってたのが嘘みたい。

 

 どうしたら良いのか分からない、けど、ガブに合わせてたら良い……のよね?

 

 心配になる。

 人との接し方なんて、ほとんど覚えていないもの。

 

 私が困っていると、ガブが手を差し出した。

 

 手袋は、してない。

 私が触ったら眠らせちゃう。

 

「あの、手袋……」

 

「あ……そっか。ごめん」

 

 ガブが手袋をはめて、改めて手を差し出される。

 1人で立ち上がれるけど、何となくそうするのは失礼な気がした。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。ご飯持ってくるね」

 

 ガブに促されて、椅子に座る。

 誰かに料理を作ってもらうなんて、本当に本当に久しぶり。


「あんまり上手くはないけど……」


 そう言ってガブが出したのは、焼いたお肉。

 ステーキ……って呼ぶには貧相だけど、美味しそう。


 お腹が鳴った。

 朝と昼を食べられなかったのはこれを食べるためだったかしら。

 

「ふふ……うれしい。ありがとう」

 

 不揃いのお皿と不揃いのカトラリー、それに乗ったお肉が机に並んでる。

 なんだかそれがおままごとみたいで、とっても懐かしい気持ちになった。

 

「いただきます」

 

 野菜とか主食とか、そういうのは無い。

 ガブが普段どんな食事をしているのか、想像できる。

 

 お肉を1口サイズに切って、口に運んだ。

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眠らない狂犬は私のそばでだけ眠ってくれる 雨車 風璃-うるま かざり- @soutomesizuku

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