第5話 狂犬

 僕、ガブリエルは呪われている。

 幼い頃に僕の住んでいた村が魔女とその使い魔達に襲われ、一夜にして滅ぼされた。

 

 その時に運良く生き残った僕は、魔女の残して行った呪いにかけられて眠ったり、意識を失ったりする時間を奪われた。

 

 騎士団に保護されて、僕の父親代わりになってくれた騎士団長が色んな手を尽くして呪いの解き方を調べたけど、呪いを解く方法を見つける事はできていない。

 

 呪いの影響かは知らないけど、人並み外れた身体能力を得た僕はこの力を活かして騎士として生きている。

 

 だけど、眠れなくなってからは毎日ずっと苦しくて、いつもイライラして、いつでもどこでもトラブルを起こしている。

 戦いになれば我を忘れて力の限り相手を葬ってきたし、日常生活でもすぐに暴力行為にはしっちゃうし――

 

 おかげで僕についた呼び名は狂犬。

 

 こんなだから、まともに話せるような友人は居ない。

 

 騎士団長は僕より圧倒的に強くて力の差で押さえ込んでくれてるから、話し相手になってくれるけど、忙しいかただから、やっぱり僕は1人で居ることの方が多くなる。

 

 その日も、僕は1人だった。

 

 魔女の目撃情報が有って、街の警護をするように騎士団へと通達が有ったんだ。

 

 それで、僕は人気の無い林の見回りを任された。

 人の多い街中は人とまともに関われる人がやった方が良いからね。

 

 で、林の見回り中。

 突然酷い耳鳴りと目眩がした。

 寝不足のせいじゃない。僕の村が襲われた時にも同じ症状が出た。

 

 魔女が近くに居ると、こんな症状が出るんだ。

 

 剣を抜いて、どこから来ても戦えるように構えてた――

 ハズなのに、気が付いたら僕は倒れていた。

 

 意識は失ってない。失えないから。

 血が出てるって感覚が確かにして、そこまで深い傷では無いけどこのまま放置したら不味い事くらいは分かった。

 

 どうせ林に魔女なんて出ないよって、僕は1人で居たから、助けを呼ぶ方法が無い。

 だから団長は最低でも2人1組って言ってるのに、みんな僕の事が嫌いだから1人にする。

 

 イライラした。

 こんな性格だから嫌われるって、分かってるけどそれでも。

 

 幸か不幸か、魔女は僕にトドメを刺したりしたいわけじゃなかったみたいで、魔女の気配は消えていた。

 

 んー、幸か不幸かじゃないな。すごく不幸かも。

 だってこのままだと多分死ぬし。


 そんな時、頭の上から声がした。女の声だ。

 

「あの……えっと、大丈夫ですか……?」

 

「う゛……ぁ……」

 

 魔女じゃない事は見た目で分かったけど、こんな林の中に居るのは怪しすぎたから、このまま倒れてる訳にはいかないと思って、起き上がろうと試みる。

 でも体に上手く力が入らなくて起き上がれない。

 イライラする。

 

「動かないでください、今治療しますから!」

  

 女が僕に近寄ろうとする。

 なんとか立ち上がりたかったけど、すぐに倒れた。

 

「無理しないで……危ないですよ」

 

「うる、さい……」

 

 女の着ている服はそれなりに良い物だけど、流行りから大きく遅れているし、かなり古いように見えた。

 それに、そんな服を着ている人には似合わない細すぎる体型をしている。


 怪しすぎる。

 

「う、動かないで」


「う゛……クソッ」


「ほんとに危ないですよ」


「あ゛っ」


 無理矢理立ち上がって、逃げようとしたけど地面を踏みしめる力すら入らなくて僕は後ろ向きに倒れた。

 頭に鈍い痛みが走る。嫌な音がしたし、かなり強くぶつけたんだろう。

 魔女の気配とも寝不足とも違う種類の目眩がする。


 が、なんとしてでも立ち上がろうとした。


 そんな時、女が僕の手を握った。

 触るな! とか、なんとか言ってやろうとしたのに――

 

 気付けば僕は眠っていた。

 

 ――――――――――

 

 目が覚めた時は驚いて、思わずその場から逃げ去ったけど、その日は1日調子が良くて、普段ならイライラするような事にも苛立ったりしなかった。

 

 それで不思議に思ったからまた会いに行ったんだ。

 そうして知り合ったのがシャーロット。林の中の小さな建物に暮らしている少女。

 

 美味しいシチューを食べさせてくれた。

 暖かい食事は久しぶりだった。

 いつもは人の居なくなる時間を待つせいで冷めてるから。

 

 それで、次に会う約束をして、満足して忘れていた。

 

 アミュレットを返してもらうのを。

 

 大切な物かと言われたら、分からない。けど、アレは僕が唯一村から持ち出す事のできた物なんだ。

 

 急いで外泊許可を取り付けて翌日の夜に彼女の居る家へと向かった。

 

 そうしたら彼女は倒れていた。

 ノックしても反応が無いから、窓から覗いたんだ。

 

 急いで扉を開ける。

 鍵はかかっていない。

 

「シャーロット! ロッティ! 大丈夫? ロッティ!」

 

 反応が無い。

 酷い怪我を負っている。

 

 意識を失っているだけに見えるけど、こういう時が1番危険なんだって、僕は知ってる。

 

 下手に触ると危ないかもしれない。

 僕の傷の手当てをしてくれたくらいだし、きっと救急セットくらいはあるだろう。

 

 彼女には申し訳ないけど、家の中を探させてもらわないと。

 

「ごめんね、すぐに見つけるから……」

 

 それにしても、誰がこんな事をしたんだろう。

 犯人が近くに居るかもしれない。

 警戒しておこう。

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