餓鬼地獄
もちっぱち
餓鬼の欲求
真っ赤なマグマが広がっている。
ところどころ、波打つマグマにやけどを
するんじゃないかという恐怖を味わう。
岩の影からガリガリ姿の妖怪がじりじりと地面を四つん這いで歩いていた。
周りには、骸骨が転がっている。
その妖怪は、
食べ物を探してぐるぐると回るが、
どの食べ物も口に入れて吐き出す。
何を食べても満たされない。
それでも何度もその行為を繰り返す。
その食べ物は雑食で特にこれがいいなどと
決めることはなかった。
人間や動物を骨までしゃぶることもある。
人間を食い尽くした時はその人間の人生まで、口で味わうことができるが、
腹は満たされない。
何が満たされるかって、
生まれてから死ぬまで平凡で生きてきた人間は味の無いガムを噛み続けているようで、
面白くも楽しくもない。
その反対で、最初から最後まで波のあるバイオリズムのような波瀾万丈で生きてきた人間は、餓鬼が食べていても噛みごたえがある。
腹を満たさなくても満足はするようだ。
同じ餓鬼の仲間が近づいてきた。
「よぉ。お前は満足したか?」
「いや、俺はまだ今日は何も食べてない」
2人の餓鬼は、足元に転がる髑髏をサッカーボールのように蹴飛ばして、蹴り合った。
何度も蹴るうちにだんだんと骨が砕けていった。さらにもう一つの髑髏をボールのように
拾って、バレーボールのように投げ合った。
もちろん、それも、何度も繰り返すうちに
砕けていく。
「何が楽しくてこんなことしてるんだろうな。俺ら。人間界では髑髏じゃないものすごく跳ねるボールってやつで試合っていうのをしてるらしいぜ」
「へぇー…そう。俺、別に興味ないし。てか、こんな偶像の世界を信じている人間もおかしな話だよな。神様なんて、人間の想像から作り上げたものだろ。地獄や天国だって、想像上の世界だ。そんな天と地を作り上げて、何が楽しいんだって話だわ。それでもなお、それを崇めては信じるんだろ。命をかけても崇めるやつもいるし、俺らみたいな鬼のことを怖がってさ。人間ってやつは本当に滑稽なんだわ」
両手を上げて、笑う。
そもそも、全てが想像ならば、
今の鬼のいる世界はなんだろうか。
「お前、ぶっ飛んでるよな。
餓鬼でも、意識が高いっていうか…。
俺らは不老長寿で人間みたいに
寿命がないだろ、永遠にこうやって、
美味しくもない食べ物を食い荒らす。
それでも、体の肉にはならずに通り抜ける。
俺らがここにいる意味ってなんだろうな」
「お前も相当ぶっ飛んでるよ。ほら、また、あそこに新しい死んだばかりの人間がやってきたぞ」
真っ黒い空から眩しい光がおりてきた。光とともに空中をふわふわと目をつぶった人間眠ったままおりてくる。
「信じるもなにも、俺らはただ目の前におりてきた人間を食うだけだ。新鮮でもなんでもない。ただただ、命絶えたものの人間の体を貪り食う。それが人によっては浄化とか掃除をするとかいうが全然そんなことはない。餓鬼がただ、欲求に従って、食べているだけだ。本当に欲を言えば、波瀾万丈に生きた人間ばかりを送り届けてほしいものだが、平凡すぎる人間が多くて困るな。骨がボロボロになっているやつなんて、波瀾というか底辺を生きたやつで上がりもしない。くそまずいんだ。人間落ちぶれたら、死んでからもまずくなる。餓鬼も選べたら良いよな!」
「人間ガチャってやつが罷り通っているんだ。すべて選んでいたら、俺らもオモシくないだろ。美味しくもない。千差万別、十人十色いるからまずいのもうまいのも贅沢な味を楽しめるだ。腹には結局たまらないけどな。特性上」
「んで?次は誰が食べるんだ?
俺でいいのか?」
「んーーー、そうだな。見た目、全然汚れてないし、あまり美味しくなさそうだな」
一瞬にして、どんな人生を歩んできたか判断した。体格、肌の色、今までの経済状況。有意義に暮らしていたかを確認するが、そこまでいうほどの波がない人生のようだ。
「結局、選んでるんじゃねぇか」
「ははは、そんなもんだ。
んじゃ、俺、あっち行くから」
餓鬼はさらに落ちてきた
人間を指差して言う。
次に落ちてきた人間は、
煌びやかな衣装を身に纏っていたが、
お金を散財してきたようだ。
「うそだろ。そっちの方がうまそうだな」
「お先!」
死後の世界があるのかはわからない。
いつも満足なんてしない餓鬼が死んだ
人間が落ちてくるのをワクワクして
楽しみに待っている。
欲は満たさない。
食べるそのものが暇つぶしだ。
地獄の世界こそ
人間以上に
餓鬼の地獄のような展開が
繰り広げられているのかもしれない。
【 完 】
餓鬼地獄 もちっぱち @mochippachi
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