におい
森下 巻々
(全)
*
ゴールデンウイークにわたしが帰省したときのことだ。
二階のわたしの部屋に入ったのだが何だかおかしい。
臭うのだ。
すえたにおいだ。
また、わたしは本棚に見知らぬ数冊の雑誌や大判の写真集があるのを見つけた。
女性アイドルが掲載されている。
わたしは年の離れた弟がこの部屋に出入りしていると直感した。
わたしは雑誌と写真集を抱えて弟の部屋に行き、
「ちょっと、あんた。わたしの部屋使ってるでしょ」
「な、何だよ。勝手に部屋開けるなよ」
「だから、勝手に開けているのは、あんたの方でしょ」
「う、うん!?」
「写真集、置いたりして」
「ああ、ごめん。それは、置いてる。おふくろにおれのものだと知られると気まずいものを……」
「やめてくれよ」
わたしは自分の部屋で寝ることは元々しなくなっていた。帰省したときはいつも一階の和室で寝ている。この日もそうしたのだった。
*
次の日もわたしの部屋は臭った。
あの後、窓を開けっ放しにしておいたはずなのに。
わたしは弟を呼んで、
「夜中に部屋に入ったでしょ」
「入ってないよ。ってゆうか、においなんてしてないじゃん。別に臭くないよ」
「嘘。だって、ほら、してるでしょ」
「してないって」
「おかあああさん」
わたしは母も呼んだが、
「特に臭くはないかな」
「嘘!?」
わたしは信じられずにこの日も窓を開けっ放しにしたのだった。
*
帰省して三日目、わたしの部屋に入ってみるとますます強く臭っていた。
この部屋で寝泊まりが無理なくらいではないのか。
しかし、母も弟もそんなことはないと言う。
わたしは嫌な感じを覚えながらも都会へと戻らざるをえなかった。
*
勤め先に行くと皆の目がわたしを煙たがるようだった。
去年辞めた女性社員が怪文書を広めたらしい。
わたしがその女性社員をいじめたとか何人もの女性社員の彼氏たちをつまみ食いした男好きだとか。
あの子たちがバカでわたしに魅力があるだけじゃないか……。
*
夜、マンションに帰ると、わたしの住まいは、すえたにおいがした。かなり強いものだ。
(おわり)
におい 森下 巻々 @kankan740
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