そうして、わたしは、生きている

古 散太

そうして、わたしは、生きている

たとえば視界を閉ざされたとしたら

心の目で見えるものを見るだろう

形あるものに惑わされることもなくなり

さぞかし真理だけを見つめられるだろう


たとえば耳をふさがれたとしたら

内から呼ぶ声に耳を傾けるだろう

その場かぎりの嘘に振り回されずに

さぞかし順調に生きていけるだろう


たとえば言葉を奪われたとしたら

音なき声によって伝えようとするだろう

言いたくもないYESを言わずにすむなら

さぞかし心が軽くなるだろう


たとえば肉体を拘束されたとしたら

心が自由に飛びまわることだろう

いにしえの隠れキリシタンのように

さぞかし信念が強くなるだろう


たとえば人生がつらかったとしたら

すべての抵抗や反抗をやめるだろう

できないことまでしようとしなければ

さぞかし人生は順調に流れていくだろう


たとえば死が目前に迫ってきたとしたら

まぶたを閉じて静かに受け入れるだろう

避けられないことを避けようとしなければ

さぞかし心安らかに眠りにつけるだろう


そうして、わたしは、生きている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そうして、わたしは、生きている 古 散太 @santafull

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ