短編:タイトル未定

死亡フラグ

主人公:一式黒羽 親友:篭目晃

「振り子について知っているかな?あぁ、球に紐がついてゆらゆらするアレのことさ。確かどっかの実験で紐の長さをバラバラにしたやつをゆらゆらさせると面白い挙動をするんだ」

「その挙動にはいろいろあるけど、途中で振り子がほぼ一列になってそろった動きで動く」

「それがたまたま世界単位で起こったと考えられるね」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「黒羽!そっちはどうだった?こっちはばっちりダメだ」

「おいバカ!篭目お前さ、昨日は勉強するって言っただろお前」

 夏休みが迫る中、俺たちは学生の本分だといえる期末試験を終えた。ちなみにここで赤点を取れば夏休みの半分は潰れる


「眠いからゲームして寝たわ。テスト中なら居眠りこいても何と言われないし」

「おまえ……、ほんとおまえ……」

 どうやら、親友はこの夏を学校で過ごすときが多そうだ

「それよりさっさと帰ろうぜ、試験期間中は午前で学校はおしまい!!さっさと嫌なことは忘れるに限る」

「まぁ、それもそうか。時間はいつもくらいでいいか?飯食ってから鯖立てするわ」


 まぁ試験も終わったし、特に問題はない。最低限赤点さえとらなければいいんだ


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 自転車を転がして帰宅する。いつもの道、見慣れた街の風景。

 夏の前にもかかわらず恐ろしい熱気がアスファルトを伝ってくる、早く漕げば漕ぐほど身体をなぞる風は気持ちいいが身体があったまって不快感を加速させる。


 道中で同じように自転車にのる小学生たちとすれ違う、ここまではよかったんだ。

 まぁ、歩道を逆走してるのは法律的にNGだがそれを強く言うほどカリカリしてない、それにここから先は道路の白い線、路側帯が狭く道路事態も狭い。だから多少の気にせずに路側帯を進む・・・・・・

『!!』

『~~~!!!』

『!!、!!』


 まず、俺自身が浮いている。そして小学生たちが何かを叫ぶ

 圧倒的な浮遊感、体がアスファルトの上に投げ出される、目の前に迫るのはタイヤ?


 そこで意識は落ちた

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おや、目が覚めたね。よかったよ」

「おいクロハ!!おい!!無事か?」

 目を覚ますとどこかのベットの上だ。病院かもしれない

「あぁ、悪い」

 頭の中が妙にノイズが流れ込んでいるような。思考が圧迫されるような感じがひどい

「少し待っててくれ、君は未知の魔物と遭遇して精神攻撃を受けている。少し調べさせてもらうよ」

 あぁ、そうだ。俺は異界探索で未知の魔物とそうぐう

「魔物?」

 ふと周囲を見渡すと、徐々に脳が情報を処理してくれた。

 まず目に入るのは、傷だらけで泣いている篭目アキラ

 もう一人が小柄で紙がぼさぼさの女性、クチナシ先生。クチナシ先生?

 先生が俺の様子を伺う。確か先生の魔術は汎用系で解析特化

 魔術?

「ふむ、カゴメ君。ここ外してくれ、どうやら彼は少し混乱して精神的に不安定なようだ。魔物の攻撃の影響かもしれない、それに白石さんの様子も見てくるといいさ」

「そ、そうですか。わかりました」

 親友は意外にも聞き分けよく、白石さんの様子を見にいった。探索では確か分断されたんだっけ、白石?

「まって、なんだこれ、なんでこんなこと知ってるんだ」


 頭の中に未知の知識・情報が濁流のように流れ込んでくる。俺はそもそもあの時、試験終わりで帰宅していた【異界探索で未知の魔物と遭遇していた】


「落ち着きたまえ」

「さて、結論から聞くけど。君は一式クロハで間違いないね?」

「はい」

「よろしい、混乱してるのはなぜだい?」

「わからないんです。最後に覚えてるのが何か車に轢かれる?事故に遭ったり、何かと戦ってたような」

「車に轢かれる……」

「君の友人の名前は?」

「篭目アキラ」

「私の名前は?」

「クチナシ先生、苗字はわかりません」

「なるほど、わかってきた。でもこれが本当かは怪しいね」

 なんだこの、しゃべらされてる感覚

 こっちの中に入ってくるというか、嘘とか余計なことが考えられない

「見たところ防壁も貼ってないし。おかしいね」

「防壁?」

「うん、魔力防壁。一年でも常時魔力を放出してるわけだから、自然と魔力が防壁になって大抵の魔術的・物理的干渉を防ぐはずさ」

「そもそも、魔術がわからないんです」

 そうだ、魔術って魔術ってなんだ。そもそも魔力ってなんだ

「嘘はない。解析・医学的視点からも脳に異常はなかった。考えられるのは精神系?いやでもそれにしては魔力の濁りも、そもそも魔力自体を限りなく感じない?」

 クチナシ先生はどうも、何か考え込んでいるようだ

「よし、わかった。きみ別世界からの漂流者だね」

「はい?」

 別世界?

「うんうん、意識だけ転移するタイプか。いや、これは初めて見たね、それに聞いた様子と実際の現象を照らし合わせると、同位体かな」

 転移?

 なんだこれ、意味が分からないことをいっぱい言われている。物理の授業で先生が板書せずにしゃべってるみたいな。頭の中で言葉の意味をできず素通りするみたいな

「あぁ、そう考えると腑におちる」

「さて、そうなると同じタイミングで死亡した結果かな?おそらくもっとも生存率が高い世界に可能性が集中したんだろうね」

「聞く限り、未知の魔物。確か仮称はシャドウ、特徴は精神的な攻撃だから、精神のすり切れた方と肉体がダメになった別世界の自分自身。うまい具合にいいとこどりしたんだろうね」


 うん、意味が分からないけど。わかる、この世界では別の世界があるのは当然だし別世界の観測もできる。ごくまれにこちらへ流れてくる人間を漂流者ということもわかっているが


「振り子について知っているかな?あぁ、球に紐がついてゆらゆらするアレのことさ。確かどっかの実験で紐の長さをバラバラにしたやつをゆらゆらさせると面白い挙動をするんだ」

「その挙動にはいろいろあるけど、途中で振り子がほぼ一列になってそろった動きで動く」

「それがたまたま世界単位で起こったと考えられるね」


「つまりどういうことですか?」


「いわば君は次元同位体。あらゆる世界・次元・時空単位で君という存在がつい先日同時に死亡した結果だね」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おう、クロハ!!大丈夫か?白石さんは大丈夫だった。軽症だし、明日から復帰だって」

 なるほど、これが魔力。アキラの身体を何かが縁取っている、揺れる火をまとっているようだ

「どうした?防壁もないし、魔力の放出もまったくない」


「さて、カゴメ君。実はそこそこ深刻な状況でね。実は彼はシャドウと戦闘した結果、死亡したみたいだ」

「は?」

 驚く親友、無理もない

「ただその死亡範囲は精神だけでね。幸か不幸か肉体が再生した結果、うまいこと生きてる感じに整ってるね」

「つまり、どういうことなんですか?」

「悪質な記憶喪失、しかも魔力・魔術云々に対してほぼ無知。トラウマかな?あぁ、必要最低限の一般常識はあるけど魔術関連の知識が軒並みだめだね」


 悪質な記憶喪失、精神的な死亡からの奇跡的な生還


「わり、記憶はあるんだけど。いまいち実感はわかない」


 そして、おれはあらゆるハンデを背負って未知の世界で生き延びなければならない


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編:タイトル未定 死亡フラグ @annsinn16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ