ダンジョンに閉じ込められたけど思った以上に快適でした。
だっち
第1話
ーーーーどうしてこうなった。
いつも通りの日常、代わり映えの無い日々を望み、人並みの人生を謳歌するはずだったのになんて事だ。
人生は小説より奇なりなんて、誰かが言っていたがあれは本当だった。
目の前にはファンタジーの世界に出てくるような巨大なドラゴンがあちこちに飛び回り、周りには骸骨やスケルトン、ゴブリンからオーガまでそこら中に闊歩している。
初めての体験だが、いま自分が置かれる状況はすぐに分かった。
10年前突如としてダンジョンが現れ、その日人類は進化した。
人々にギフトが付与され、あまりの出来事に驚くも1年もすれば直ぐに当たり前の日常となった。
世の中は目まぐるしく変わったが、私はある程度の人生で十分だと思いながら仕事をこなしていた。
にも関わらず、いつの間にやらダンジョンの中へと迷い込んでいた。
迷い込んだ、と言うのは語弊があるか。
いつも通り残業し、お馴染みの居酒屋で少し飲んだ帰り道、酔いを覚まそうと目を閉じて大きく深呼吸し、目を開けるとこの状況だった。
先程までの心地よい酔いも完全に覚めてしまった。
近場にあった岩に腰を下ろし、改めて周りを見渡すが、どこからどう見てもダンジョン。
これからどうしようかと胸ポケットからタバコを出して火をつける。
ゆらゆらと揺れている煙を見ながら現実逃避してみるも、この現状が変わるはずもなくあっという間に吸い終わってしまう。
じっとしていても仕方がないので、とりあえず散策をすべく歩いてみるが、よく似た風景が続くだけだった。
ふと、岩陰を見てみると如何にもな宝箱があった。
ゆっくりと宝箱を開けてみると、大きな口が襲いかかってきた。
『ガウウウウウウ!!!!!』
叫び声をあげ右腕に飛びかかると、くちゃくちゃと私の引きちぎった腕を咀嚼する。
はぁ、と溜息をつきながら宝箱に近づき蹴り飛ばす。
グヒャ、と悲鳴をあげまた飛び付いて来たが、再び蹴り飛ばす。
そんな事を何度か繰り返す内に観念したのか大人しくなった。
「言葉は分かるか?」
『コトバ、スコシ、ワカル。』
「とりあえず、こいつらを出してくれ。」
そう言ってペットボトルの水とタバコを口に詰め込む。
またくちゃくちゃと音を立てて咀嚼し飲み込むと、口の中から新品のタバコと水が出てくる。
このミミックと言うモンスターは、自分が食べたことのある物を複製することが出来る。
これで当面の問題は解決したな。
「とりあえず、お前はこれから俺と行動してもらう。」
『リョウカイ、アルジ、ミトメル。』
「いい子だ。」
右手でミミックをポンポンと軽く撫でてから再び足を進める。
周りのモンスター達とすれ違うも、特に襲われる様子もなくすいすい進んでいく。
暫く歩くと、目の前には洞窟の様な大きな穴があり、少し考えてから入る事にした。
1歩踏み入ると、冷たい空気が頬を撫でる。
足が竦むような、しかし、どこか懐かしいような不思議な感覚。
意を決して奥へ進むと、意外とすぐに行き止まりに当たった。
「ふむ、どうやら何も無いみたいだな。」
『アルジ、ココ、ヤバイ。』
「ん? どうしてそう思うんだ?」
『ワカラナイ、デモ、ヨクナイ、ワカル。』
ミミックがカタカタと音を立てて震えている。
金属音が耳に刺さるのが若干不快だ。
とはいえ、行き止まりである以上進みようがなく、八つ当たり気味に壁を殴る。
すると、目の前の壁は一瞬にして砂埃となり霧散した。
何が起こったのか、一瞬呆けていると、ミミックが慌てて逃げようとする。
『アルジ! ニゲル! ハヤク!』
その声にハッと我に戻り、急いで踵を返し猛ダッシュする。
後ろから何かが来る気配もないが、一心不乱に走り続ける。
あっという間に洞窟の出入口が見え、出ようとしたその瞬間、見えない壁に弾かれ吹き飛んでしまった。
「ったぁ…っててて…」
『アルジ、ダイジョブ?』
「…あぁ、とりあえず大丈夫だが、なんで出れないんだ?」
そっと差し伸べられた手を握り起き上がる。
手をゆっくりと伸ばすと、また見えない壁に弾かれる。
ビリッとくる静電気のような痛みが地味に痛い。
『アッ…アッ…アルジ…』
「ん?どうした?」
『ウシロ、ミル。』
ミミックにうながされ、ゆっくりと後ろを振り向くと、大きな鎌を肩に提げた死神がこちらを静かに見下ろしていた。
「あ、オワタ。」
死神がその大きな鎌を振り下ろし、体を真っ二つに引き裂いた。
飛び出る血潮は噴水のように周囲を赤に染める。
痛みを感じることも無く床に倒れると、死神は踵を返してゆっくりと奥へ戻って行く。
朦朧とする意識は、すぐに闇の中へ落ちていくのであった。
ダンジョンに閉じ込められたけど思った以上に快適でした。 だっち @sousi101
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