閑話 銀次郎視点

 スヤスヤと眠る客人様の寝顔は子供のように可愛らしく、こちらを癒して下さいます。


 思わず、微笑みがこぼれると、それを見た旦那様が大層驚いたようでござました。


 「お前がそんなふうに笑うのは珍しいな、銀」


 そうでしょうか。確かに、こんな気持ちになったのは久しぶりのような気がいたします。


 ところで、私はずっと気になっていた疑問を投げかけました。


 「そうだな、山賊等の件はおおかた片付いている。しかし、処分をどうしようかと悩んでいてな」


 「それならば、私が引き取りましょう」


  現在、私の管轄では人手不足ですし、ちょうどいいタイミングです。


 それに、山賊等をどのように扱っても文句は無いはず。


 「ふふっ、銀よ、悪い顔をしている。何かを思いついたのかな」


 おや、心外ですね、悪い顔だなんて。これが悪い顔だと言うのならば、私はいつも悪い顔をしていることになるではありませんか。


 それにしても、なぜこの人はいつもいつも自ら危険に向かっていくのでしょうね……。


 「……なぜ、お前はそんなに客人に執着する?」


 旦那様、それは失礼ですよ。私はただ、この人を護ろうとしているだけです。


 執着だなんて、とんでもない。私は、"すとーかー"というものにはなりたくありませんから。

 

 ですが、私はこの人を護るためなら、どんなこともいたします。この人が、幸せに生きていてほしい。それは私の勝手な願いだと分かっています。


 けれど、その願いを邪魔する者は、誰であろうと許しません。


 でなければ、私は……。


 そんな私の決意が伝わったのか、旦那様はそれ以上私を詮索することはありませんでした。


 ああ、蒼介様。早く、あの頃のように……。


 蒼介様の頭をそっと撫でます。相変わらずの、サラサラの黒い髪。それがどんなに懐かしいか……。きっと、あなたには想像もつかないのでしょうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神隠しにあったと思ったら、そこは妖怪の暮らす隠世でした。 六月 @20090208

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ