第4話

 あったかい。ぬくもりがする。


 モフモフだ。モフモフに、頬を擦り寄せる。あぁ〜、気持ちいい。ずっと、こうしていたい……。


 「もしもーし、起きてくださーい」


 んー?


 「んー……、まだ起きませんね。そうだ」


 すりすり、気持ちいい〜。うっ、いっ、うぅーん……、パチ。


 「!!!!????」


 「わぁ、元気ですね」


 び、びっくりした……。寝起きにこれは心臓に悪いって。


 え、誰? え、なんかケモ耳と尻尾が……? どういうこと?


 「ああ、申し遅れました。わたくしが貴方様のお世話係を務めさせて頂きます、五尾狐ごびきつね銀次郎ぎんじろうでございます。どうぞよろしくお願いいたします」


 「あ、どうも……」


 世話係? 俺の? どういうこと?


 「なぜ私が貴方様のお世話係に就任したのか、気になっておられるようですね。しかし、私も実は知らされておりませんので、旦那様に尋ねた方がよろしいかと」


 え、顔に出てた? てか、五尾狐ごびきつねって……?


 そのとき、廊下から足音が聞こえてくる。


 扉が大きな音を立てて開く。


 「おお! 客人よ、目覚めたか!」


 ……え? つ、角??


 「よして下さい、旦那様。客人様は今、起きてこられたばかりなのですよ」


 「ははは! それもそうだな。客人よ、すまなかった」


 ……寝よう。


 俺は布団の中に入りこもうとする。


 「待て待て! 騒いだのは悪かったから、寝ようとしないでくれ!」


 「……じゃあ、聞きますが……。あなた達は一体……?」


 「おや、説明するのを忘れていましたね。申し訳ありません。さぞかし不安だったことでしょう。これは私の落ち度ですので、私が丁寧に説明して差し上げます」


 優しい……! 


 「私達は妖怪でございます。妖怪とは、人間とは違う力を持った者のことです。非常に残念ですが、中には人間を襲う者もいらっしゃいます。しかし、私達はそんなことはしませんのでご安心下さい」


 妖怪……って、えぇ? でも、確かにケモ耳や角とかついてるもんなぁ……。


 「そして、私は五尾狐という妖怪でございます。五尾狐というのは、尾が5本ある狐のことです。」


 五尾狐……。九尾じゃないんだ。


 「もちろん、九尾もおります。しかし、九尾は狐の中でも力が1番強いので、狐なら誰でもなれると言うわけではないのです」


 へぇー……。それにしても、すごいモフモフだ。触りたいな〜。


 「おっと、尾なら先ほど触れていらしたではないですか。そう易々と触れさせはしませんよ。その眼差しをこちらに向けても意味はないですからね?」


 え、さっき? もしかして、寝ているときか?


 触りたいけど、嫌がっているしな……。


 で、この人は何をしてるんだ?


 「ん? 話は終わったか?」


 「ええ、妖怪と私の説明はいたしましたよ」


 「そうか、では僕の説明もしよう。僕は見ての通り、鬼だ。鬼は、妖怪の中でも上位の妖怪なんだ。つまり、大妖怪だよ!」


 大妖怪……なんか、自称に見えるのは気のせいかな。だって、あまりにも強そうに見えない。


 「むぅ、その目は信じていないな? でもいいんだ、これから分かるだろうさ。そして、体調はどうだ?」


 今更かよ! すっかり元気ですが。


 「うむ、元気そうだな。よかったよかった。ところで、客人は誘拐のことを覚えているか?」


  誘拐? って、あれだろ、山賊のやつ。


 「ふっふっふ……聞いて驚け! 実はな、客人を助けたのは僕……の、忠実な部下の銀次郎なんだ!」


 お前じゃないんかい! まったく……なんなんだよこの人。


 え、てか、助けてくれたの?


 「ええと……、銀次郎さん、助けてくれてありがとうございます」


 「いえいえ、私の仕事ですから。実は、あれが初仕事だったのですよ。でも、心配いたしました。なんせ、3日も寝ていらっしゃったのですから」


 え、3日も!? その割には、体は何もなさそうだけど……。


 「そりゃ、銀次郎が看病していたからな。他にも、客人を心配していた者の中に治療が得意な者もいるから、元気になるのは当然だろう」


 そうだったんだ……。妖怪をまだ信じたわけじゃないけど、いい人もいるんだな。


 ふあわぁ、まだ眠い……。


 「まだ眠いのか、寝ていいぞ。好きなだけ眠るがよい」


 うぅ〜ん、じゃあお言葉に甘えて……。


 スヤァ。

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