第十八場。エピローグ。
クランク、扉を見つめている。
背後からアイポーツが現れる。
アイポーツ:私は知っているぞ。
クランク:やっぱりあんたも乗り込んでたのか。
アイポーツ:当然だな、一度乗りかかった船という奴だ。あの人に見捨てられたからといって、降りなければいけないという理由も無い。
クランク:そうかい。
アイポーツ:それに、私と機械人形がなければ、この馬鹿でかい船を掌握することなどできんよ。
クランク:それもそうか。
アイポーツ:ところで、この世の果てというのは、この街のことであっているか? 全部が行き詰まった、欲望を煮詰めたこの酷い肥溜め。
クランク:いいや。違うな。
アイポーツ:では何だ?
クランク:この世の果てなんてものは、どこにも無かったんだよ。
アイポーツ:何を言っているんだ
平行してマーチとカウアドリの場面。
イルカに乗り込む。
マーチ:カウアドリ、やれるか?
カウアドリ:ええ、大丈夫ですよ、それよりしっかり掴まってて下さいね。
マーチ:おうよ。……なぁ、カウアドリ。
カウアドリ:何ですか?
マーチ:聞きたいことがあるんだがよ。
カウアドリ:今じゃ無いと駄目ですか?
マーチ:ああ。
カウアドリ:どうぞ?
マーチ:……歌って、いいか?
カウアドリ:今じゃ無いと駄目ですか……?
マーチ:ああ、今、無性に歌いたいんだよ!
カウアドリ:好きにして下さい。……それは、どんな歌ですか?
マーチ:この空の下を旅する全ての鳥のための歌さ。
カウアドリ:壮大ですねぇ。
マーチ:へへっ! だろ?
マーチ、歌い出すと二人を乗せたイルカが飛び立つ。
場面変わって地上。
アウローラとエラムが手を繋いで逃げている。
アウローラ:待って、エラム。
エラム:アウローラ?
アウローラ:みんな、止まっていきます。
エラム:本当だ、どうして?
アウローラ:分かりません。でも、もしかしたら、夜が明けて怖いものが帰って行ったからかも知れませんね。
エラム:そうだね。
二人、手を繋いで白み始める空を見上げている。
クランク:見渡す限りに世界というものは広がっている。山の向こう、雲の向こう、海の向こうにだって、あらゆる空のあっち側には、どこまでもどこまでも、世界が広がっている。青い空のカーテンが揺らめき、白銀の風に揺られるまま俺達は旅をする。見たことも無いような大きな木を、この手でつまめそうなくらいに見下ろして、黄金の砂が舞う砂漠を越えていく。空の上はそんな宝で溢れているんだ。想像してみるんだ。ここから抜け出して、この街を見下ろすあの鳥の目を。このちっぽけな瓶の世界も、案外見下ろしてみれば整然と歯車の回る時計仕掛けなのかも知れないな。そして夜空を見守る月が、光を零す太陽が、この夜明けの向こうが、一体どんな目で世界を見ているのか。おい、どうだ、見えたか? この世の果てって奴が。
いつまでも空を見上げるエラムとアウローラ。
空にどこまでも手を伸ばすクランクとその傍らで機械人形を抱くアイポーツ。
朝焼けが人々を照りつけると、空は次第に色を失い溶暗。
この空の下を旅する全ての鳥のための歌。 音佐りんご。 @ringo_otosa
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