異世界の雑記

北折 衣

甲冑と美食家

王都の語学研究員から石版の文字に関する重要な報告があった。

王国とその近隣に多数存在する文字のようなものが刻まれた石版について、150年ほど前から研究が進められていたが、ここ2年の間で国内で新しい石版が次々に発見されるようになった。それらは知能の高い生物によって制作されたもので、新たに発見されたものはいずれも最近制作されたものだった。

これまでの記録から石版が急増する時期と魔物が街に襲来する時期には関係があると予想されている。70年前に王国の東側に位置する街が多くの人喰い狼に襲撃された時も、その2年ほど前から石版が増加していた。

まだ生態の解明が進んでいない魔物が多く徘徊するこの国で、石版の増加は国全体の危機を示している可能性が高い。王国は研究機関への援助を増やし早期解明を試みていた。

これまで多くの研究員によって、どうやらこの石版は魔物に宛てられた物であるらしいという事が分かっていた。魔物同士がテリトリーの誇示のために自ら制作したものなのか、それとももっと大きな、例えば悪魔からの魔物への指示なのか、あらゆる可能性が検討されたが結局目的は分からなかった。もし襲撃の指示が書いてあるならば日時の記載もあるのでは無いか、それさえ分かれば人民への被害を抑えられる。そう希望を抱き研究員達は来る日も来る日も石版と向き合った。

それがついに今回の報告で文のほとんどが解明されたのだ。今回解明されたのは王都の北西の街付近の森で発見された石版だ。この街は王国のワイン生産の一端を担う地域であり、王国としては資金を投入しても守りたい街だ。




以下、王都研究員による石版の翻訳




三ツ槍山脈の麓にあるブドウ畑の街

ジャンル:人肉、犬肉、牛肉

訪問日 2/15

★‪☆‪☆‪☆‪☆

残念すぎる。

ここら辺は人間にとって気候も良く豊かな土地で、肉付きの良いのが多いので以前はよく足を運んでいたが、最近は食えたもんじゃない。やたらでかい建築が増えたなあとは思ってたけど、やっぱり人間の知能が前より発達したみたいで冒険者でもないのにやけに分厚い衣服を着てる。土地が豊かなだけあって金持ちが多いんだろうな。いい服着てるから硬かったり紐が多いやらで、胃石で分離できなくなってる。消化さえしちゃえば後で衣服だけ吐けるけど量が多いんでかなりしんどい。この間一緒に行った中型ドラゴンの友人は、飲み込んだ人間の甲冑がひとつも分離できなくて翌日大量に吐いてた。さすがに粘膜がやられたみたいで見てるだけで痛かった。食べるんだったら報酬出してゴブリンに頼んで、衣服を剥がしてもらってからの方がいい。

前は良い肉が踊り食いできる最高のスポットだったけど、時代の流れかな。人間はこれから高級食材になるかもね。とにかくもうしばらくここの人間は遠慮したい。


レビュー作成者:美食家ドラゴン@北の森にてレシピ公開中



日付が記されているという予想は当たっていた。さらに嬉しいことに、もうしばらくはこの街には来ないらしい。

この年から、王国ではチェーンと鍵付きの衣服が推奨されるようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界の雑記 北折 衣 @Etizolam

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ